UPDATE : 2022.09.27

Articles

2

#BEAUTY & HEALTH

枝優花の「心と体に効くモノ」 vol.2
「好きな仕事だけをするか、いろんなことに挑戦するか?」

Interview / Text:Yoko Hasada

Photo:Keta Tamamura

Edit:Kei Kawaura,Taiyo Nagashima

自分で自分の気持ちを上げるために、好きなもののなかに身を置いたり、自然の力に癒されたり、美味しいものを食べたり、現実から一度距離を置いてモノ・コトの力に頼る。自分を救う“おまじない”は、お金で買えることもある。そんな「あなたにとって“心と体に効くモノ”は?」――映画監督 / 写真家の枝優花さんがホストになり、やさしい人々を訪ね歩く対談連載。第二回は枝さんの心の友、羊文学の塩塚モエカさんです。

一番の理解者であり宇宙人(やさしい神さまみたいな人)

─── たびたび連絡を取り合う仲良しなおふたり(取材当日は、アフタートークも含めて8時間も語り合ったそう)。出会ったきっかけは?

 

:初めて出会ったのが2018年。周囲の友人たちから「絶対ふたりは合うと思う」と言われていて、存在は前から知っていたんですけど業界が違うとなかなか会うことがなくて。私が初監督作品『少女邂逅』のアナザーストーリーとして、ウェブドラマ『放課後ソーダ日和』を手がけることになり、塩塚に参加してもらいました。私も塩塚も初めての劇伴。お互いに慣れていなかったから、製作会社の一室を借りて、1週間くらい朝から夜までずっと一緒に作業した。

 

塩塚:合宿みたいな感じだった。横並びで座って、私が楽曲を作って、枝さんに指示してもらって、また戻して…。

 

:覚えているのは、製作会社の場所を塩塚がよく間違えちゃって。真夏の暑い中、重い機材を抱えて汗だくになった塩塚が申し訳なさそうに「クリームソーダがテーマだから一緒に作って、飲みながら音楽を作ろうと思って食材を持ってきたのに、全部溶けちゃいました…」と。なんていじらしくて、いい人なんだろうと思いました。あと、心がグッと近くなったのは帰り道のタクシー。

 

塩塚:私もよく覚えてる。いろんな悩みを相談したよね。ぜんぜん曲が書けないー!とか。

 

:同年代でものづくりをしていて、なんとなく立ち位置も似てて。話してくれる悩みが、つい1週間前に自分が悩んでいたことと重なったりして、同じことにぶつかっている人が存在しているだけですごく救われました。

 

─── 連載の第一回目に塩塚さんを呼んだ理由は?

 

:身近な友人の中で、一番理解しあえる宇宙人なので。生きづらそうだけれど、やりたいことを一生懸命やっている塩塚の、心と身体に効くものを聞きたいです。

お守りアイテム①服部みれいさんの本

塩塚:最近、働きすぎたせいか心も身体も調子が悪くて。

 

:働きすぎると体調崩すよね。

 

塩塚:落ち込んだときは、もっぱら服部みれいさん。すごくリスペクトしています。

 

:よく話しには聞くけど、どんな人なの?

 

塩塚:文筆家として、心や身体を整えることについて本を出したりイベントをしたり。もともとアーユルヴェーダに興味があって、本屋さんで『あたらしい自分になる本』を発見したのが出会い。この本には冷えとり健康法、瞑想、アフォメーションとか、神さまを信じることよりも、もう少しだけ知恵っぽいことがいろいろ書かれていて、今すぐ実践できる。私は落ち込むと文字が読めなくなるんだけど、ラジオみたいな文体も読みやすいよ。

:具体的なのはいいね。

 

塩塚:『自分を大切にする本』もおもしろくて。インナーチャイルドって知ってる?

 

:うわ、まさにここ数ヶ月ずっと考えてた!

 

塩塚:さすが、私たち(笑)。インナーチャイルドって、自分の内なる子どものこと。幼少期の家庭環境や親との関係の中で形成される、傷ついた子ども心でしょ。社会生活を過ごしていると、自分に蓋をしたり役割を演じようとしたりして、知らず知らずのうちに着ぐるみみたいなものをいっぱい着ちゃってる。そうすると、自分でも本心がよくわからなくなってしまう。「自分が自分だと思っているものも、“自分風”に過ぎないんじゃないですか」と書かれてて、たしかにな……って。本来の自分に戻りたくて、親と自分の関係性を整理するワークを実践したら、いろんなことに気づいた。

 

:わかる……私も、最初は仕事関係で調べていたんだけど、次第に小さな頃に癒されなかった自分の傷に気付いてしまって、感情がワーッて思い出されたんだよね。たとえば、幼少期に親から正常な愛情を受け取れなかったことによって、大人になってからも無償の愛がわからなかったり、誰かとの関係を築くことに苦労したり。それは自分がダメな人間だ、とか不器用すぎるからだと思って生きてきたんだけど、実は違うと気づいて。そこからインナーチャイルドに向き合っていたんだけど……。

 

塩塚:うん。

 

:ソレと対峙している時間は心も身体もしんどくて、ぐるぐる考えて、やっと答えのようなものが出た。それで、数年ぶりに「このことは絶対映画にする」と死ぬ気で映画のプロットを書き上げて。今はその映画を作ることに必死でもがいてる感じ。

 

塩塚:本当の自分に向き合うことって、すごくしんどいよね。

 

:さっき着ぐるみの話があったけど、着ぐるみを着た状態が社会的なペルソナになっている人は多い。だけどそれは、この仕事においてはすごく邪魔だなと感じていて。監督は、人間の本質を捉えてOK/NGを判断するから、着ぐるみ状態だと何も見えないんだよね。

 

それは俳優にも言えることで。芝居において、その着ぐるみ(ペルソナ)を剥がしていく「インナーワーク」という作業があるのだけど、それは人の根源的欲求の「ニード」と向き合うもの。愛されたいとか、認められたいとか、ニード=「自分の抱えている弱さ」を見つめることになる。つまり心が丸裸にされる。剥がすのに1年くらいかかる人や、泣き崩れるくらい自我が崩壊してしまう人もいる。

 

塩塚:やってみたい!

 

:剥いだ後は2、3日人と接することが難しいくらい赤ちゃんみたいな状態になって、本当に心が柔くなるよ。私も現場に行く前に剥ぐ作業をしてる。

 

───具体的に、どういうことをするんですか?

 

:心の持ち方をリセットするみたいなイメージなんですけど、自分の調子が悪いときってないですか? 相手に真っ直ぐな気持ちを向けられないとか、嫌なところばかり見ちゃうとか。心が傷つかないように自分を過度に守っている状態から、自分に自信をつけていくと次第に素直になっていきます。あとはペルソナも何もない人と触れ合うこと。私はもう10年ほど子どものアクティングコーチを週1でしているんですけど、それで心と身体が整う気がします。

お守りアイテム②活蔘

:しかし、これは何?(笑)。すごい効きそうだけど。

 

塩塚:活蔘ね。私はPMSで体調を崩しやすくて、ひどいときは何のやる気も起きなくなる。あるとき、薬局で症状を相談したら薬剤師さんがこれをおすすめしてくれて。長年冷えで悩んできたんだけど、特に生理前後は冷えてしまって、これを飲むと身体がポカポカして元気が出るの。冷えに悩んでいる人にはいいかも。

 

:私は冷えで悩んだことがないからな。

 

塩塚:うらやましい……冷えとり靴下を始めたのも、冷えに悩んでたから。夏って冷房がきいてるから寒さを感じやすくて。「ちょっと体調が悪いかも?」と感じたら靴下の重ね履きをやってます。

お守りアイテム③アロマオイル

塩塚:スイスのオーガニックブランドnahrinのハーブオイルも、体調が優れないときに頼りにしてるもの。40種類くらいのハーブがブレンドされているみたいで、爽やかな香りがお気に入り。落ち込んでいるときや、なかなか起きれないときに、こめかみにつけるとやる気が出るんだよね。

 

:アロマって癒されて、眠くなるイメージだけど、そうじゃないんだ。

 

塩塚:これは気分がリフレッシュするオイルかも。眠れないときは、海の音とか、最近は服部みれいさんの本に付属しているルン・ルのCDを聴いたりしてる。ホーミーみたいな不思議な音を聴くと、意識が遠くなっていって、眠たくなる気がする。

好きなことだけを貫き続けるか、いろんなことに挑戦するか?

───お仕事は、心と身体にどう影響してますか?

 

塩塚:私にとって音楽はヒーリングじゃなくて、仕事という側面が強くなってますね。それは良いことなんだけど、健康に暮らしたいなら音楽以外の仕事をした方がいいんじゃないかとも思う。

 

:辞めないのは、どうして?

 

塩塚:……それ以外できる自信がないから。「こういう風になりたい」という理想像が音楽にはあるけれど、そこには1ミリも到達できてない。

 

:私が塩塚をいいなと思うのは、世間から「一握りだよ」と笑われてしまうようなことを疑わないところなんです。私もそうだけど、夢を夢物語だと思ってない。叶う自信があるわけでも、常識がないわけでもなくて、自分のやっていることの地続きに見たい景色があるから、やっていればそこに辿り着くと思ってるんです。

 

塩塚:遠い目標なんだけど、夢だとは思ったことないかも。しかも、すごく漠然としてるよね。だから、どこでライブをしたいとか、どんなフェスに出たいとか聞かれても答えられない。

 

:わかる。心から見たい景色があるけれど、そこに具体的な名前をつけられない。もし名前をつけるとしたら、例えばだけどその感覚に一番近い固有名詞が「カンヌ」だからそう答えるだけで、それが正しいかと言えばちょっと違う。

 

塩塚:私が悩むのは、たとえばその「カンヌ」に出られるのなら、自分が撮りたくない作品でも引き受けてしまうかも、ということで。

 

:私はギリギリまで悩んで結局はできない人かも。

 

塩塚:それこそインナーチャイルドの話なんだけど、私は中学でバレーボール部に入ってたの。人数が足りなくて仕方なく。センターだったんだけど、部内にもう一人センターの子がいたから、どちらか1人しか試合に出られなかったのね。最初に私が選ばれて嬉しかったんだけど、あぶれてしまった子に気を遣って「この子の方が上手いと思うんですけど、私でいいんですかね?」と聞いちゃったらコーチから「じゃあ(あなたじゃなくて)いい!」と言われて、それから卒業するまでずーっとベンチ。その経験がトラウマすぎて、目の前にチャンスがきたらやらなきゃって思うんだよね。

 

:それはつらかったね……。

 

塩塚:何事もやってみなきゃわからないじゃん。勉強になるかもしれないし、収入面を支えてくれるかもしれないし、次のチャンスにつながるかもしれない。好きなことだけやるのもいいけど、自分の中にいろんな好きがあるんだよね。だから、どんなこともトライしようって思う。お金も必要だし。

 

:お金は大事だよ。私は映画が一番やりたいことだから、そのためなら計画的に収入を確保したり、名前を知ってもらうために打算的に仕事を引き受けたりする。まっすぐ映画だけやれる人はうらやましいけれど、今の私はたくさん言い訳をしながら、生きていくための仕事もする。それが修行になるし、ふつふつした欲求が映画のためになると思うかな。

 

塩塚:だけど、超撮りたいものを撮れる日はやってこないよ。

 

:え、なんで!?

 

塩塚:言い方が悪かった(笑)。だって、満足する瞬間って来ないじゃん。あれもやりたい、もっとこうできたんじゃないかって一生悩みながら死んでいくんだよ。

 

:そういうことか(笑)。それはたしかにそうだと思う。

 

塩塚:昔はいい大学に行って、就職して、いい老人ホームに入れればそれでいいなんて、絶対そんなはずない!と思ってたけど。現実的な誘惑に負けてしまうことなんて、しょっちゅう。

 

:いい老人ホーム(笑)。

 

塩塚:お金はいただけるけど、自分の音楽が馴染むかわからない煌びやかなイベントで演奏したことがあって。始まるまでは引き受けてしまったことへの嫌悪感がすごかったの。だけど、やってみたら意外とよかった。仕事を受けながら、やりたいことが少しずつ変わっていくなって思う。だけど、働きすぎは心と身体によくないから、枝さんも気をつけた方がいいよ。

 

:いっとき、働きすぎて心がプツッと切れてしまって。そのときは2ヶ月くらい休ませてもらった。そこで「今は自分が心からやりたいと思う仕事をたくさんやっていこう」って割り切れるようになったかも。栄養になる仕事が大事だよね。

 

塩塚:そうなんだけど、働きすぎると元気がなくなっちゃうことも実感してる。太陽が出ているときに働いて、眠くなったら昼寝もして、夜は友だちと遊びに行く。やっぱり人と話すととっても元気になるよね。今日も元気が出た。

 

:たしかに、友だちと会うと心と身体が一気にパワーチャージされるかも。こちらこそ今日はありがとう!

PROFILE

  • 枝 優花

    1994年生まれ。群馬県出身。

    23歳にして制作した初の長編映画『少女邂逅』はインディーズ映画ながら異例のロングランヒット。また写真家として、様々なアーティスト写真や広告写真を担当している。マイブームは、朝起きたらお香を炊いて、コーヒーを淹れてぼけっとすること。

  • 塩塚モエカ

    シンガー・ソングライター/ギタリスト。2012年に3ピース・バンドの羊文学を結成。マイブームは数独。

  • NEWLY

    NEWLY

    NEWLY

  • NEWLY

    NEWLY

    NEWLY

  • RECOMMEND

    RECOMMEND

  • RECOMMEND

    RECOMMEND