8月27日(日)までギャラリー月極で開催されている、元パルコミュージアムのディレククターの髙橋賢太郎氏(株式会社SUNNYES)がキュレーションするグループ展『floating colors』。ここで展示を行っているアーティストのYufi Yamamotoに注目したい。ここに展示されている作品は西海岸の風景を彷彿させる多いのだが、それは彼女がかつて10年以上に渡ってカリフォルニアで生活したことを背景としている。
では、アーティストとしてどのようなバックボーンを持ってアート表現を行っているのか。特に魅力的なのはランドスケープ×抽象的な人物のモチーフの溶け合い方だ。このスタイルに至った考え方と、今後に対する思いを話してもらった。


記憶にあるカリフォルニアを巡る作業
ー今回の展示で制作されたどのようなモチーフを描いたのかについて教えていただけますか?
Yufi:今回の展示もそうなんですけど、ここ2年間ほどカリフォルニアのランドスケープに抽象的に描かれた人物が入っているというテーマで制作しています。というのも、私は10年ほどアメリカに住んでいた背景があって日本に帰国してから7年ほどなんですよね。そうなると、やはり過去に住んでいた西海岸の光景はやはり懐かしいもので、自分が住んでいたところやよく行っていたところなど記憶を巡るような形で描いています。
ーそうなると、Yufiさんのバックボーンにはアメリカ西海岸のカルチャーがあるということになりますね。
Yufi:そうですね。生まれは東京なんですけど、大学に入るときにカリフォルニアに行ったのが西海岸で生活するきっかけでした。サンタ・バーバラに恋をしてサーフィンをしたり、どっぷりハマっていった感じです。

ーサンタ・バーバラの風土や人という点でYufiさんにマッチする部分が多々あり、ライフスタイルに大きな影響があったのではないかと思います。実際にアートに対してもインスパイアを受ける部分はありましたか?
Yufi:カリフォルニアは色に溢れているので、それが自然と自分の中に吸収されて色を選ぶ際に一定の傾向が出てきたように感じますね。ただ、絵に関して言うと、もともとミッドセンチュリー家具やヴィンテージカー、昔のサーフカルチャーなどが好きで、当時のグラフィックデザインや過去のパレットからインスパイアを受けている部分は大きいと思います。






影響を受けたサーフカルチャーと音楽
ーサーフィンやカーカルチャーと聞くと、まさしくアメリカ西海岸という気がします。アメリカで始められたんですか?
Yufi:カリフォルニアではみんながやっているんで、私も(サーフィンを)やりたいと思うようになって。それで車の免許も取りましたからね。18歳で免許取得後、95年式のオデッセイのミニバンと中古のボードを買って、初心者でも行けるビーチで練習していました。
ーサーフカルチャーのどういったところからアートへの影響を受けたんですか?
Yufi:サーフボードにはその時代ごとのデザインやカルチャーが落とし込まれていて、60年代のものには60年代の空気感がすごく感じられるんですよね。それは70、80、90年代のものも然り。80’sはネオンカラーのものが多かったり、90’sはグランジが流行っていたからネルシャツにサーフパンツだったり。そういった音楽的な要素込みで影響を受けています。

ー音楽も同様にYufiさんに影響を与えるものですか? 好きな年代の音楽があったりします?
Yufi:音楽は本当に好きで年代は関係なく聴いていますね。16歳の頃はサム・クックを聴いていたんですよ。
ー16歳でサム・クックですか? 激渋ですね。
Yufi:そう、渋くて(笑)。オーティス・レディングのライブ盤とか。高校の頃はシアトルにもいたんですけど、シアトルはジャズの街なので、そういうところからの影響もありましたね。大学でカリフォルニアに住んでからはラジオから普通にサブライムやニルヴァーナが流れていたんで、どんどんハマっていったんですよね。カリフォルニアとひと言に言っても街ごとに空気感や流行が異なるんですけど、サンタ・バーバラではダブやレゲエが流行っていてスライトリー・ストゥーピッドを聴いたり。そこからどんどんオルタナが好きになって、ハードコアやポストパンクだとか。雑食的に音楽を聴くようになっていきましたね。制作中はいつも音楽をかけているので、クリエイティブに対して音楽は欠かせないものだと思います。
ーこうしてYufiさんの絵を拝見すると、その色遣いに個性を感じます。特に空の表現が写実的で美しいですが、そこはどう意識されているんですか?
Yufi:空に関しては絶対にリアルに描こうと思っていて、自分が感じた空気感をすごく大事にしています。そういった感情的な部分をどうキャンパスに落とし込むのかが私の中での勝負だと考えていますね。懐かしいなだとか、こういう感じだったな、これが好きだった、そういった思いを色として表現したいと考えています。

ーでは、Yufiさんがいつ頃から絵を描かれるようになったのかも教えてほしいのですが、いかがでしょう?
Yufi:絵を描くこと自体は小さい頃から好きだったんですけど美大で美術を学ぼうなんて考えはまるでなかったんですよね。で、アメリカでは画材が日本よりも大分安いので、空いている時間に絵でも描いてみようかなと思ったのが20歳のときでした。当時の彼氏がドラマーだったんですけど1日中スタジオに篭っているような人だったのでヒマだったんです(笑)。最初は趣味としてサーフィンの絵を描いたりしていましたね。
ーじゃあ、完全に独学ということになりますか?
Yufi:基本的には独学です。7年前に日本に戻ってきてから2年くらいデッサンの基礎を学んだんですけど、それくらいかな。そこから絵を描き溜めて、いつか個展ができたらいいな、みたいな感じで。
ー作風的に影響を受けたアーティストというと誰でしょう?
Yufi:マティスやピカソだったり。日本人だとカリフォルニア時代に知った横尾忠則さん、田名網敬一さんだとか。有名どころだとそういった方々からの影響はありますね。
ーYufiさんの現在の絵にも見られますが、抽象的であったり前衛的な表現には惹かれる部分があったわけですね。ダダイズムだとか。
Yufi:はい。大学の頃は現代美術の歴史を授業で取っていたんですけどめっちゃハマったんですよね。ダダイズムからロシア・アヴァンギャルド、バウハウスにどう繋がっていったのだとか。そこで生まれたコラージュが今も生きているのか、だとか。そういった発見があってすごく好きでした。
ーそういった背景を踏まえて、抽象化した人を描いてらっしゃる?
Yufi:そうですね。抽象画が好きだということと、顔がない方が、見ている人が自分を投影しやすいんじゃないかと思って。よくピンクだったりカラフルに人間を描いているのはなぜかって聞かれるんですけど、これは日本人の自分が“外人”としてアメリカにいるという認識でいることが強く反映されているんです。今でもファッションメディアなどで美しさを象徴する存在として白人のモデルが起用されていますし、無意識のうちにそういった美意識が定着していると思うんですけど、カラフルに描くことによって人種を超越した存在に見せたいと思っているんです。

やっと慣れてきた東京をどう描いていくのか
ー今後の話についても少し教えてください。冒頭に、ここ2年ほどは思い出にあるカリフォルニアのランドスケープと抽象的に描かれた人をモチーフにしているとお話いただきましたが、このスタイルは今後も続けていくものですか?
Yufi:もちろん続けていくと思いますけど、これだけを描き続けるというわけではないです。今のスタイルもINHERIT GALLERYの藤本(薫)さん※が「Yufiのカリフォルニアが見たいです」って言ってくれたことが発端で。やってみたらすごくしっくりきて、自分にとってのセラピー的な要素もあったから続けてきたんですよね。
※これまでに2度個展を開催している世田谷区下山のギャラリー。Yufiにとって、現在日本で繋がっているアーティストの先輩、友人との出会いの場所でもある。

ーでは、今後も変わっていくだろうと。
Yufi:はい。次の個展は11月に東京で行う予定なんですけど、そこでは初めて東京を舞台にした絵を展示する予定です。帰国したとき日本が全然肌に合わなかったんですけど、私の色がおそらく定着したであろう今、ようやく慣れてきた日本をどう描くのか。そういったことを踏まえて私から見た東京を表現していきたいと考えています。やっぱり同じものを描き続けると飽きちゃいますからね(笑)。その時々に思ったり考えていることを、ちょっとずつ変えながら表現していきたいと思います。

PROFILE
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Yufi Yamamoto
東京都出身。日本、韓国、ロシアのルーツを持つ。16歳で単身アメリカへ渡り、シアトルやカリフォルニアで10年以上を過ごす。一見して楽しく親しみやすい作品に通底するのは、むしろ虚無感や寂しさであり、自身としての在り方、秘めたる苛立ちや諦念であるように感じられる。鑑賞者にトゲを向けているようにすら感じられるが、パステルカラーや極彩色を用いてあくまでポップ&アンニュイな作品に昇華している。LAのストリート・サーフカルチャーからインスパイアされたレトロスクールな色調が特徴的なアーティスト。
INFORMATION
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floating colors
アーティスト:Hiraparr Wilson [@hiraparr]、ifax! [@ifaxi]、小澤雅志 [@masashiozawa]、Yufi Yamamoto [@yufiroofyart]
会期:2023年8月5日(土) ~ 8月27日(日) ※月火水休廊
開場時間:14:00 ~ 20:00(木/金/土) 13:00 ~ 19:00(日)
入場:無料
会場:月極
住所:〒152-0001 東京都目黒区中央町1-3-2 B1