サブスクが主流になり、外でも家でも大量のコンテンツを消費できる時代だからこそ、何を観たらいいのか分からない!という人も多いのでは?「シネマフリーク!!」では、映画館で上映中の話題作から、ちょっとニッチなミニシアター作品、おうちで観ることのできる配信作品など数多ある映像作品の中からライターの独断と偏見で、いま観てほしい一本を深掘りします。
今回は、FREAK’S MOVIEともコラボレーション中のA24最新作、『the moment/ザ・モーメント』をご紹介。チャーリーxcxが主演・プロデュースを兼任し、自身のアイデアをもとに作り上げたスーパーホットな一本です。
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タイトル:『 the moment/ザ・モーメント』
監督:エイダン・ザミリ
出演:チャーリーxcx、アレクサンダー・スカルスガルド、ロザンナ・アークエット、カイリー・ジェンナー、レイチェル・セノット、ジュリア・フォックス
配給: ハピネットファントム・スタジオ
2026年製作/103分/アメリカ
<あらすじ>
2024年、アルバム『BRAT(ブラット)』で”ブラット・サマー”を巻き起こしたポップスター・チャーリーxcx。しかしその熱狂の裏で、マネージャーや音楽レーベルは「ブラット・サマー・フォーエバー」を合言葉にムーブメントの延命を画策。突如現れたライブ演出家はティンカーベルのような衣装や炎の仕掛けで彼女を”ベタなスター像”へと押し込めようとする。多忙を極めたチャーリーはライブ直前にイビサ島へバカンスに逃げ出し、現場はパニックに——。
チャーリーxcxは、イギリス・エセックス出身のポップアーティスト。クラブミュージックにロックやヒップホップを取り込んだサウンドと、生意気でどこか刺々しい歌詞で、Z世代やクリエイターを中心に熱狂的な支持を集めています。
そんな彼女が2024年6月にリリースした6枚目のアルバム『BRAT(ブラット)』が、想像をはるかに超えた規模で世界的現象に。ライムグリーンに「brat」とだけ書かれたどこか野蛮で潔いビジュアルはSNSを席巻し、ダンス動画がTikTokを埋め尽くし、米大統領候補として立候補したカマラ・ハリスを絡めたポストがバズり、「ブラット・サマー」という言葉がヨーロッパやアメリカを中心に一夏の空気を定義するまでに拡散されました。
本作は、その熱狂が最高潮に達した2024年秋、アリーナツアーを直前に控えたチャーリーxcxの数日間を描いています。
ところで、私がこの映画を観始めた時、ひとつ確認し忘れていたことがありました。これは本物のドキュメンタリーなのか、それともフィクションなのか、ということです。
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冒頭からカメラは揺れ、被写体に遅れて追いつき、別のことが起きると別方向に流れていく。誰かが今この瞬間を追いかけているような、そのリアルな空気感のまま物語が始まるので、しばらく「これ、本当に起きたことなのかも」という感覚が抜けませんでした。
プレスシートを読んで後から知ったのですが、これは意図的な演出で、撮影監督はサフディ兄弟作品でおなじみのショーン・プライス・ウィリアムスとのこと。
『グッド・タイム』や『アンカット・ダイヤモンド』でサフディ兄弟と組んできた彼は、フィクションにドキュメンタリーの息継ぎを吹き込む撮影手法が特徴。監督のエイダン・ザミリは彼に「ドキュメンタリーカメラマン本人として動いてほしい」と伝えたそうで、映像から感じる混乱に納得しました。
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チャーリーxcxを取り巻くのは、レーベル責任者、マネージャー、SNS担当、ライブの演出家……。全員が「あなたのため」と口にしながら、全員が微妙に違う方向を向いている。その「ズレ」が、俳優たちの表情や間、カメラと被写体の距離感によってじわじわと可視化されていくのが、この映画のいちばん面白いところだと思いました。
特に印象的だったのが、人気演出家ヨハネス(アレクサンダー・スカルスガルド)のシーン。ティンカーベルのような衣装や天井から吊り下げる演出、花火の仕掛けなど、誰がどう見てもチャーリーらしくない提案を、周囲は「売れるから」という空気だけで押し通そうとする。
チャーリー自身が明らかに乗り気ではないのに、なんとなく流れていく感じの生々しさ。これは彼女が特別に意志の弱い人間だということではなく、その場の空気と損得勘定が判断力を少しずつ侵食していくという、誰にでも覚えのあるプロセスをそのまま映しているように感じました。
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そして物語の転換点となるのが、イビサ島のシーンです。
スケジュールをすっぽかしてバカンスに逃げ出したチャーリーが、偶然そこで出会ったカイリー・ジェンナー(本人役で登場)にヨハネスを絶賛され、それまで抱いていた違和感をあっさり手放してしまう。「やっぱりすごい人なのかも」と丸投げするまでの流れが、笑えるほど正直に人間の脆さを描いていて、でもこれ自分にも覚えがあるなと思わず苦笑いしてしまいました。
カイリーがフィクションの登場人物ではなく現実に存在するカイリー・ジェンナー本人として現れることで、映画の中のリアルとフィクションの境界線がよりいっそう溶け出していきます。チャーリー自身も「ペルソナって、不思議なんです。最初は”演じている”つもりでも、続けていくうちに、それ自体が”自分”になっていく」と語っていて、この映画に登場する彼女は、現実のチャーリーxcxとイコールではない。でもその「ズレ」こそが、彼女がずっと作品の中心に置いてきたテーマでもあるのだといいます。
確かに改めて振り返ると、冒頭で触れたカマラ・ハリスとの一連のムーブメントもチャーリーからの発信は「Kamala IS brat」のみ。そこから先はカマラサイドやファン層が自動的に拡散をしていったというのが事実であり、チャーリー自身は明確な政治的な支持を表明していません。そもそも英国籍である彼女は、アメリカ大統領選の投票権もないわけで、自身のポストがどのように消費されていくのかを当時から実験的に試していたのかなと思いました。
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この作品は、あの夏の彼女のいくつかの実験のレポートであり、壮大な実験の続きともいえるかもしれません。なにはともあれ、人々の記憶の新しいうちにここまで皮肉たっぷりに “ブラット・サマー” を再現し、ムーブメントの終焉を描いた彼女の自己プロデュース力には脱帽しました。
事前情報を知らない状態でこの映画に放り込まれると、チャーリーと同じようにこれは本当のことなのか、演出なのかという宙吊りの感覚を、一緒に追体験することができる。
「”本当の自分”、”演じている自分”、”人々が期待する自分”。その境界線は、もはや曖昧になっている」とチャーリーは語っているけれど、観客もまた、スクリーンの前でひそかに同じ問いを立てているのかもしれません。その感覚こそがこの映画の本髄のような気がします。
INFORMATION
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