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UPDATE : 2025.09.25

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小笠原希帆の"お言葉ですが!" Vol.3 後編 -『人と比べてしまうのはどうしたらいい?』

Photo/Text:FREAK MAG.

Freadaディレクターの小笠原希帆が世の中のあれやこれやに独自の視点で物申していく「小笠原希帆の”お言葉ですが!”」。前回に引き続き、テーマは「仏教」。

 

僧侶でありながらベンチャー企業で働く会社員であり、さらにフリーペーパー『フリースタイルな僧侶たち』の編集長も務める秦正顕(ハタマサアキ)さんをお招きし、オガ氏が気になっている仏教のあれこれをざっくばらんに伺っていきます。

 

→ 前編 『仏教ってなんですか』

ー結局みんなひとりでは何もできません。どんなに偉くても

小笠原希帆(以下、小笠原) 浄土真宗がいまでも支持されるのはなぜでしょうか。

 

秦正顕(以下、秦) 本屋さんにいくと普通に浄土真宗の本が平積みされていたりとか、関心の高まりを感じますね。僕は現代の社会だからこそ、むしろ教えが必要とされている側面もあると感じます。現代社会って、競争して勝つことで成長や成功が得られて、反対に負ければ責任は自分で取らなくてはならないという社会じゃないですか。「努力は裏切らない」なんて言葉が良しとされて小さい頃から努力して成績を上げることを教え込まれるわけですが、それって本当に幸せなことなのかなと思うんですよね。

 

親鸞聖人は、自分は上手くできているとか、自分はいい人間だと思う心を、厳しく戒めます。よくよく自分を深く見つめていくと、自分ひとりの力でできることなんてひとつもなくて、支えてくれる家族や友人だったり、もっと言えば人だけじゃなくて太陽の光や風のような自然、生き物など、たくさんのものに助けられて生きていると気付くんです。それなのに、油断するとすぐに自分中心に物事を考え、自分の実力だとか自分が優れているなどと思いたくなってしまう。そんなどうしようもない存在が、私たち人間ですよねというのが親鸞聖人の人間観です。

 

そんな自身のダメさを自覚し抜いた人を救いの目当てとするのが浄土真宗です。浄土真宗の救いは、自分にできることなんて何ひとつないという「信心」と、それでも阿弥陀仏が必ず救ってくれるという「信心」、この二つの心を同時に持って初めて成立します。どうしようもない自分を見つめ抜いた先に、救いの世界が開かれていくということですね。

 

少し難しい話になってしまいましたが、「自分の力で人生を切り開いていくだけが正しい人生じゃないですよ。むしろ自分の力で人生切り開いてると思ってる人は危険ですよ。」と言われると、共感する方も多いのではないでしょうか?もちろん、うるせえなと思う人もいると思いますが。

仏教は、全ての人に必要とされるものではないかもしれませんが、一般社会を構成する価値観とは全く違う世界と生き方を示してくれるものだと言えると思います。

 

小笠原 会社の人がみんなが仏教を知れば、穏やかな人が増えて良い会社になりそう。でも会社は利益を生み出さなきゃいけないから、そういう点だと本末転倒なのか…。

 

 仏教は資本主義の世界とは基本的に合わないかもしれませんね。ただ、企業のトップの方は浄土真宗を好む人も多いので、登り詰めれば詰めるほど、仏教の思想に近い何かが見えてくるんじゃないですかね。上り詰めるほど、親鸞聖人の教えが響いて、自分を見つめ直すことができるのかもしれません。

ー知ってました?実はふらっと御堂に入っていいそうです

小笠原 仏教ってやっぱり堅苦しいイメージがあります。普段過ごしていて接点はほとんどないですよね。

 

秦 観光でお寺に行くことはあっても、教えに触れる機会はなかなかないですよね。

 

小笠原 もっといろんなところに、この『フリースタイルな僧侶たち』が置かれるといいですね。駅の改札前の情報誌が入っているラックみたいに、仏教に興味がなくても大勢に見られるようなところとか。あとはSNS。親鸞について面白く語ってくれるチャンネルがあったら観ちゃうかも。

 

秦 そうですよね…。僕もチャレンジしてみたいのですが、やっぱりいいね数とか再生回数とかを気にして本質からどんどんずれていってしまいそうで…(笑)

 

小笠原 SNSなんて煩悩のトップですもんね(笑)

 

秦 そうですね。どうしても煩悩が沸いてしまう仕組みだと思います。

 

小笠原 最近芸能人でも仏教に関する発信をしている人を見かけますね。

 

秦 お笑いコンビの笑い飯の哲夫さんが仏教について話しているラジオがあって、それは好きなのでよく聴いています。彼はめちゃくちゃ勉強していて詳しいので良いコンテンツだなと思います。

 

小笠原 そういう有名な人がちゃんと勉強して発信してくれるのは広める側としてはありがたいですね。

 

 昔は経営者が仏教を学んで組織の土台として反映していくという流れがあったのですが、いまはあまり見かけません。もっと仏教について学べる機会が増えて欲しいですね。

 

小笠原 お寺の魅力をもっと伝えるにはどうしたらいいんだろう。

 

 全然ふらっと来ていただいていいんですけどね。御堂にも。

 

小笠原 え!?そうなんですか?

 

 はい。鍵が空いていたら入っていいよということなので。

 

小笠原 だめだと思ってました。ただ御堂を見せてくれているだけかと(笑)

 

 お寺の御堂の畳に座るだけでも心が落ち着くと思います。天井が高くて空間が広いし、静かなので、いるだけで心が穏やかになりますよ。

ー「人と比べてしまうのはどうしたらいい?」秦さんへお悩み相談

小笠原 私は人と比べちゃうことが自分の悩みなんですけど、秦さんは人と比べることはないんですか?例えば自分の方が明らかに仕事ができているのにその人の方がお給料が高いとか。

 

 全然むかついちゃいますね。

 

小笠原 どうやってそのむかつきを飼い慣らしてるんですか?

 

 飼い慣らせていないですよ。ただ、仏教には「一切皆苦(いっさいかいく)」といって、この世の中は何事も思い通りにはならず苦しみであるという意味の言葉があります。これが仏教目線でのこの世の見立てです。なので、嫌な感情に自分が支配される前に、この世は不条理で、そういうものなのだと思うようにしています。みんな何かしらの不条理に晒されて嫌な感情を持って生きているよなあと。それから、人と比較して落ち込むこともありますが、それは社会で決められた価値観・ものさしの中での話なので。

 

小笠原 たしかに。でも、私たちは社会で生きていかなきゃいけないじゃないですか。どうすればいいんですかね?

 

秦 僕も日々悩むことはありますが、『フリースタイルな僧侶たち』の64号で、臨済宗の大本山・円覚寺の管長である横田南嶺老師に伺った言葉がとても心に残っていまして。「食べて出して寝る。それで生きていれば、人間は十分」「仕事の良し悪しだの、人間関係だの誹謗中傷だのってのは、いわゆる食べて寝ることに付随している、デコレーションにすぎない」と仰っているんです。悩むことってたくさんあるけど、生きているだけで自分は十分。ここをベースに置いていれば良いのだと。

 

小笠原 現代人ってそこまでいけますかね?なかなか難しい。出家しないとそこまでいけないんじゃないかと思います。

 

 仏教でいえば普通に生きていて考えていることはたいてい煩悩なんです。 美味しいものを食べたい、この人のことが好き、家族が死んでしまって悲しい、そういう気持ちは全部煩悩で、何かに執着しているから苦しみが生まれるのです。でも社会で生きている以上、そうしたものは無くせませんよね。だから、煩悩はあって当たり前で、否定するでもなく、消していこうとするのでもなく、煩悩を抱えた上で、どうするかが大事なのだと思います。

 

小笠原 パッと解決できるものではなさそうですね。

 

 そうですね。でも、こうやって話し合うことにも意味があるんだと思います。いま解決しなくても、今日話したことは何らかの形で残り続けるはずです。折に触れて今日のことを思い出してまた考えてみる。そうやって段々自分に落とし込んでいけたらいいですよね。

TOPS : Freada

ー親鸞、80歳になっても煩悩が消えずに悩む。

小笠原 秦さんは友達から悩みを相談されることってありますか?

 

 あります。ただ、仏教は万能薬ではなくて、問題解決に繋がらないこともままあるかと。

 

小笠原 親鸞の教えがあっても?

 

 はい。例えばむかつく上司がいても、その人を異動させることはできないですよね。仏教にできることは、自分の見方を変えていくことだけ。根本的な解決には繋がらないんですよね。

 

小笠原 たしかに。自分の心の持ちようを変えていくってことですね。ところで、親鸞も人にむかついたりしていたんですかね?

 

 親鸞聖人が山を降りたのは、同じ修行僧の怠惰な一面を見て嫌になったからとも言われています。

 

小笠原 親鸞も人間だったんですね。

 

 そうですね。親鸞聖人は80歳になって教えを説く立場になっても「悟りも開けていないのに名声や賞賛ばかり求めてしまう」という言葉を残しています。親鸞聖人の晩年にはものすごい数の信徒がいたはずですから、そんな指導者がこんな言葉を残している。すごく親近感がわくというか、勇気をもらえませんか?親鸞聖人も最後まで煩悩を持っては悩みながらも、阿弥陀仏の救いの声を聞いて安心する、ということを繰り返しながら生涯を過ごしていったんだと思います。

 

小笠原 めちゃくちゃ人間らしいですね。

 

 僕自身も、人に悩み相談してもらっても、ちょっといい回答したら悦に浸ってしまうし、時間をかけたのに素っ気ない返答だったらイラっとするし、そんなことばかりです。でも、そういうダメなところに向き合う自分を見守ってくれている安心感みたいなものはあるかなと思います。

INFORMATION

PROFILE

  • 小笠原希帆

    Freada ディレクター。

    古着はもちろん、映画と舞台と落語と本が好き。
    洋服にかぎらず日々のあれこれを発信。

  • 秦正顕

    僧侶でありながらベンチャー企業で働く会社員。

    フリーペーパー『フリースタイルな僧侶たち』の編集長を務める。

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