FREAK

THINGS

UPDATE : 2022.12.09

Articles

5

#FASHION

初登場以降、業界内外で話題沸騰!!
スタイリスト・三田真一がディレクションする<I NEED YOU BABY>を改めて深掘り

Photo:Katsunori Suzuki

Text&Edit:Ryo Kikuchi

今年の春、新たなブランドが誕生し小さくないインパクトを残しました。仕掛け人は、スタイリストとしての範疇を超え、クリエイティブな活動を続ける三田真一さん。

 

異なる時間軸からみた宇宙をコレクションに落とし込んだアイテム群は、ありそうでなかった新鮮なラインナップ。グラフィックの大半を話題のCMを数々手掛けてきた映像ディレクター、田中裕介さんが担当するなど、注目度は右肩上がりです。そんな話題のブランドを、三田、田中の両氏の対談を通し改めて深堀していきましょう。

異なる時間軸の仮想空間で考えるというアプローチ

―まずは、このブランド発足までの経緯をお教えください。

 

三田:もともとはとあるバーで、多くのブランドのOEMを手掛けるグレースインターナショナルの三谷さんに冨樫さん(デイトナインターナショナル/事業部長)を紹介していただいたのがきっかけですかね。そこから何かをやりましょうという気運が高まった。でも、それはコロナ前の話で、実現するまでにかなり時間がかかりましたけど。

 

―温めに温めていた?

 

三田:というより、方向性などを決める前にこういうものをイメージしているというサンプルを作ったのですが、そこにかなり時間と労力を費やしちゃいました。相当な数をドロップさせていますからね(笑)。ブランド名を決めるのにも1年半かかってますし、最初のアイテム、たしかフットボールTとボトムスだったと思いますけど、そこまでに2年かかりましたから。

 

田中:ドロップした中には防弾チョッキのようなものもありましたよね。

三田:そうそう。僕は古着が好きで、1920年代から’90年代のモノまでいろいろ持っています。その過程で、探して見つからなかったもの、存在しているけど何かが足りないものが着想の原点にはなっている。例えば、最初のコレクションに出した茶色のストライプシャツ。古着でもありそうですけど意外にないんですよ。なので、モノとして実際に存在はしませんが、’90年代のテイストを絡めながら作ってみました。別の時間軸でもしこんなものがあったら、という考え方ですね。

 

―その延長として今季のテーマである“パラレルワールド”があると。

 

三田:テーマだけ聞くと、ちょっとヤバいやつらに聞こえるかもしれませんけど(笑)。基本的にはそのパラレルワールド、いわゆる別の時間軸の平行世界で別の物事が進んでいたら、という観点でアプローチしています。その軸となるのが宇宙モノ。’50年代に宇宙計画の草案のようなものが練られますけど、アポロ計画やスペースシャトル計画などが明るみになるのは’60年代に入ってから。となると、’50年代にはこういうデザイン自体存在しないことになりますよね。で、もし’50年代にタイヤのない車が飛んでいるような世の中が並行的に進んでいたとしたら、その当時にどういう服が完成していただろうと。そういう着眼点でいくと、こういうシャツが完成しているはずだっていう……すげえマニアックな話になってきましたけど(笑)。

 

―たしかに(笑)。宇宙をテーマとしたデザインの素地となるようなものも実際にはあるんですか?

三田:これまでに、子供用のカーテンなどあるにはあるのですがそもそも数が少ない。古着でいいものが見つかったとしても着られるような状態ではないんですね。宇宙だったりパラレルだったりは、本当に長く着られるアイコンであってテーマ的にも高揚するところがある。それを、素材やサイジングにもこだわりながら全部オリジナルで完成させているので周りとのカブりもないし違和感も出ない。そこはやっぱり強みなのかなと思います。今だとコットンなら肌触りのいいものが主流ですよね。そこをあえて米綿を使い、オンスのある硬めの素材に仕上げています。ロンTも着ていくとリブがクタってノビノビになりますけど、これはほとんどクタらない。ただ、わりと悩んだのはサイズ感。僕ら世代が欲しいサイズ感と今の子達が欲しいサイズ感は大きく違っていますからね。あらゆる要素を意識してラインナップさせています。ただ、予想外だったのは女の子からの反応がすごく良くて、Sから売り切れてしまった。それは意外でしたね。

仮想だからこその制限のない発想の自由

―田中さんへのグラフィックの依頼は当初から考えていたのでしょうか?

 

三田:そうですね。イメージはしていました。それで、最初からああしたい、こうしてほしいといろいろお願いして。とはいえ、話をした時にはいっさい服もできていませんでしたし、あるものといったら人に配るロゴシールぐらいでしたけど(笑)。

 

田中:たしかにシールしかなかった。なので、その時は僕自身、そこまで深くは理解していなかったかもしれません。でもまあ、とにかく宇宙なんだなと(笑)。

―個人的には、リアルな宇宙を想像するより空想の世界に浸る方が楽しそうだなと思います。

 

三田:夢のある状態をキープしたいというのはあるかもしれません。そもそも宇宙計画自体が走り出した’50年代は楽しい部分もありますが、調べれば調べるほど重い内容も多い。これ、話し出したら終わらないですね(笑)。

 

―そ、そうですね(汗)。田中さん的にはグラフィックを描く中で、こだわりや苦労した点などはありますか?

田中:例えば、’50年代のモノが対象としてあるとしますよね。その形をグラフィックで表現しようとすると、なかなか’50年代っぽさが出ない。やっぱり僕は現代人ですから微妙なニュアンスが表現できないんですよ。そこが難しいですよね。

 

三田:しかも、単純に当時のものを作りたいわけじゃないっていうよく分かんない話だからね(笑)。

ふたりの間にある特別な信頼関係とクリエイティブな目線

―2人の関係値があるからこそですね。そもそも、出会ったきっかけはなんだったのでしょう。

 

田中:安室ちゃんが起用されていたシャンプーのCMが最初だったと思います。

 

三田:だったっけ?

 

―第一印象はどうでしたか?

 

田中:もう、狂ったスタイリングをやってくれる人(笑)。

 

三田:狂った監督がいる(笑)。ただ、信頼して頼んでいるのも、スタイリストとCM監督の関係で仕事をしている中に、サカナクションさんが新しくチーム編成をしたプロジェクトがありまして。そこで、いろいろとコンテを描いてもらうことが多かったんです。コンテというよりはもうデザインに近いかもしれない。彼は、全て直筆で3日ぐらいかけて描くんですよ。その絵がすごくよくて。もう全部目の玉が真っ黒なやつとか(笑)。

 

田中:ありましたね(笑)。

 

―田中さんは映像が本職ですが、三田さんとのプロジェクトがグラフィックにしっかり向き合うきっかけにもなっているのですか?

 

田中:う〜ん…そうですね。もとより音楽系の仕事も多く、音源のジャケットのデザインを描いたりもしますからね。とはいえ別モノとは捉えています。『I NEED YOU BABY』は、語弊を承知で言えばラフ画。心持としては落書きに近いノリではあるんですが、むしろそちらの方がいい気はしています。ただ、映像の方が本職なので読みやすい部分がある。ただ、グラフィックは描けない時はとことん描けない。そこが難しいところですよね。

―洋服に落とし込むグラフィックのご経験は?

 

田中:三田さんとミュージシャンのグッズを作った経験もあるので初めてという感覚はないですね。

 

三田:僕もノウハウは理解していましたから、個人でやる際にはお願いしようとは思っていました。今ではもう周りに一緒にやってますって言ってますから。

 

田中:気づいたら『I NEED YOU BABY』の人にさせられているっていう。結構、洋服のブランドを始めたらしいですねって言われます(笑)。まあ、表現する上で洋服もひとつの経験というか、面白さはやっぱり感じますよね。特に柄は楽しかったです。

アイコニックなアイテムと冬の注目作

―そうして出来上がったのがこのアロハシャツですね。

 

三田:アロハシャツのサンプルもだいぶ彼には送りました。僕がそのまま作ったら’50sのシャツっぽいものがただ出来上がるだけ。それはやっぱり面白くないですよね。田中裕介のテイストが入ってくるとまた違った見え方になる。もちろん、生地のつなぎ目の柄を合わせたり、サイズ感が変わっても着た時の雰囲気は変わらないようにしたいなどこだわった部分もありますが、でもそこはもう服作りの技術の問題ですからね。

 

田中:僕は、古着はそこまで着ませんけどアロハシャツは好きな部類。アロハってあんまりいい柄が売っていない。個人的見解でいわせてもらうと、どうしてもヤンキーっぽさが出てしまうというか。

 

三田:そうね。アロハ自体も元はハワイに移り住んだ日本人たちが持っていた着物に端を発しているので和柄が多い。そこからお土産となって進化していく中に、宇宙というコンテンツもあったんだろうと思います。昔のアニメに出てくるような宇宙船の柄もありますから。そことは一線を画してはいますけど。

―今季はナンガさんとのコラボアイテムもありますよね?

 

三田:これはもう、これぞナンガ、といった風情。ベースは、ブランドさんのアーカイブにあるモデルにしましたが、とはいえフォルムはわがままを言わせてもらってこれまでにないものに仕上げてもらいました。丈感も意外と着ると短めでちょうどいい。コートの上からでも羽織れるほどのサイジングですね。要は、宇宙服にしたかったんです。身幅もかなり広いですし、色もブランドのアーカイブにない色をお願いしています。ただ、背後のウエストポケットに関しては、ただここにアイパッド入れたいだけっていう(笑)。

 

―いろいろお話を伺っていると、なんだか来季も楽しみになってきました。

 

三田:作りたいものは結構あるんですけどね…、どうやらNGみたいで(笑)。とはいえ、2023年春夏シーズンは、ほぼ僕の中では出来上がっています。あとは田中裕介のグラフィックを待つのみ。

 

田中:本当、難しいんですから(笑)。思いのほか宇宙のモチーフも少なくて、宇宙飛行士と宇宙船と惑星ぐらい。もうどうしようかなって…。

 

―と言いつつ素敵なものが(笑)。

 

三田:間違いないですね(笑)。

 

 

 

三田さんの湯水のごとく溢れ出るアイデアには驚くばかり。それを具現化する田中さんのクリエイティブにも目を見張るものがある。今後、洋服以外でも展開していけたらと三田さん。雑貨やインテリア、さらには伝統工芸との協業や宇宙食を背景とした食も視野に入れているという。お二人の話を聞いてより実感する。うん、我々の日常に『I NEED YOU BABY』は必要だ。

PROFILE

  • 三田真一/スタイリスト

    1975年生まれ、東京都出身。

    スタイリスト、熊谷隆志氏に師事し’97年に独立。翌年、渡英しロンドンを拠点に雑誌、広告などに携わる。2001年に帰国後、ファッション誌やTV、カタログ、ライブ、映画、CMなど様々なフィールドで活躍。サカナクションの山口一郎氏が率いるプロジェクト集団、NFではクリエイティブディレクターを担当する。

  • 田中裕介/映像ディレクター

    映像ディレクター。1978年生まれ、CAVIAR所属。
    秀逸なデザインセンスと映像制作のスキルに遊び心を加味した独創性を武器に、多くの話題作を手掛け、CMやMusicVideoの映像演出を基軸に、グラフィックデザイン、アートディレクション、舞台演出など、その活動の幅は多岐にわたる。

INFORMATION

  • NEWLY

    NEWLY

    NEWLY

  • NEWLY

    NEWLY

    NEWLY

  • RECOMMEND

    RECOMMEND

  • RECOMMEND

    RECOMMEND