サブスクが主流になり、外でも家でも大量のコンテンツを消費できる時代だからこそ、何を観たらいいのか分からない!という人も多いのでは?「シネマフリーク!!」では、映画館で上映中の話題作から、ちょっとニッチなミニシアター作品、おうちで観ることのできる配信作品など数多ある映像作品の中からライターの独断と偏見で、いま観てほしい一本を深掘りします。
『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』(2019)や『ネイバーズ』シリーズで知られるコメディアン俳優のセス・ローゲンが製作・監督・脚本、そして主演を務めるApple TV+「ザ・スタジオ」。つい先日最終回を迎えたばかりのホットなドラマシリーズを今回はご紹介します。
©2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. ©Universal Pictures
タイトル:『 ザ・スタジオ』
製作総指揮:セス・ローゲン
監督:エヴァン・ゴールドバーグ、セス・ローゲン
出演:セス・ローゲン、キャサリン・オハラ、キャスリン・ハーン、アイク・バリンホルツ、チェイス・スイ・ワンダーズ、ケイラ・モンテロッソ・メヒラ
配信先: Apple TV+
<あらすじ>
ハリウッドに拠点を置く映画製作スタジオ「コンチネンタル・スタジオ」の代表に就任したマット・レミック。ハリウッド映画の未来を背負うこととなったマットは、映画の存続と意義を守るべく、1 本の大作映画を製作しようと立ち上がる!
しかし、映画製作の現場で待ち受けていたのは、コンチネンタルが会社として抱える多くの問題。内輪もめに明け暮れる重役、ルールに縛られる権力者、そして自己陶酔にひたる芸術家気質の監督たち….。
“名作”と“ヒット作”の両立という夢を追うマットは、果たして、プロデューサーとして成功し、俳優や監督らハリウッドの一流たちに認めてもらうことはできるのか⁉——
年々盛り上がりが加速する配信作品。
Netflixに、ディズニープラス、Amazonプライムなど、プラットフォームもたくさんあって、課金難民になっている人も多いのではないでしょうか。
その中でも私が今季一番楽しみにしていたドラマシリーズが、Apple TV+の「ザ・スタジオ」です。
タイトルの通り、とあるハリウッドの映画スタジオのお話。
英語版の予告がSNSで流れてきた瞬間から、スタイリッシュな映像と音楽、そして華やかなハリウッドの世界に惹きつけられました。

画像提供 Apple TV+
このドラマシリーズの見どころはなんといっても豪華すぎるカメオ出演の数々。
そのラインナップは、シャーリーズ・セロンやスティーブ・ブシェミ、アダム・スコットといった俳優陣から、サラ・ポーリー、オリヴィア・ワイルド、マーティン・スコセッシといった実力派〜巨匠監督まで。
劇中で新たなヒット作を生むべく奮闘する主人公マット・レミックと仲間たちが、毎話リアルな映画作りの壁にぶつかり、ハリウッドのリアルな住人たちとともに奇想天外な方向へと駆け出していく姿がとにかく痛快なんです!

画像提供 Apple TV+
第一話で、根っから映画好きなマットがスタジオの責任者に抜擢され張り切るのも束の間、国民的炭酸飲料ブランドをメインスポンサーにつけた娯楽映画を作るというなかなかな難題が降りかかってきます。
世界的にヒットした『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023)を筆頭に、今もちょうど公開中の『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』など、お茶の間で人気の企業やキャラクターとのコラボレーションは売れる映画作りの鉄則。
しかし、“古き良きハリウッド”への強い憧れを抱くマットは、名匠と掛け合わせることで大衆向けのテーマと芸術性を両立できるはずだと立ち上がります。そこで出会うのが、マーティン・スコセッシというわけ。
衰えることのないレジェンドの創作欲を目の当たりにしたことで自信をつけ、やる気がみなぎるも、そんな簡単にことが運ぶはずもなく……。

画像提供 Apple TV+
ハリウッドで映画を作るということは、さまざまな戦略や政治と隣り合わせ。
それはどれだけ有名人でも一筋縄ではいかなくて、なおかつその裏にきっと想像もできないような戦略や人しれない苦労の数々があるはず。
そんな普段なかなか考えることのなかった映画作りの悲喜交々を軽快なコメディタッチで描いた本作は、映画に救われてきた人にとっては涙なしでは観れないかもしれません。
いくつかのエピソードでは、長回しやブックエンド方式といった撮影、編集テクニックがテーマになっていて、ドラマのなかのテーマに呼応するように映像自体もチャレンジングな技法が盛り込まれています。

画像提供 Apple TV+
第二話の「長回し」は、本当にお見事。
マジックアワーを狙った長回しを残してクランクアップという緊張感あふれる撮影現場へ、長回しへの熱い想いを持ったマットが見学にやってくるというお話。
まるで見学ツアーに初めて参加する少年のように浮き足立つマットですが、その興奮が空回り、現場の空気はどんどん地獄のようになっていく……。

画像提供 Apple TV+
この回は、現場へと向かう車のシーンからLAならではのガラス張りの美しいハウススタジオでのライブ感あふれる撮影シーンまで、まさにワンカットの長回しで撮影されているのがポイント。
実際にマジックアワーの一瞬の光を狙って、多くの撮影スタッフ役の人々が縦横無尽に動き回るリアルな空気感も含めて、振り付けのような緻密な演出のもとで撮りきっているのが本当にすごい!とはいえ、第二話に限らず、比較的長回しが多いのは、セス・ローゲン自身の映画愛の現れなのかもしれません。
劇中では、現代の映画作りの課題についても取り上げます。
大衆映画の俳優たちをキャスティングする際の人種やセクシャリティのバランス、映画館離れによる興行収入の低下や新進気鋭の配信スタジオによる老舗映画スタジオの買収問題などなど。
まさに今も現実に起きている問題のリアルをコメディタッチで皮肉たっぷりに訴えかける手法はさすが。(競合NetflixのCEOテッド・サランドスまで、カメオ出演しているのも斬新です)
と、まあここまでは一人の映画好きとして興奮ポイントを並べてみましたが、多くの方におすすめしたい魅力がもう一つあります。それはビジネスコミュニティにおける管理職の孤独がチクチクと毎話描かれているところ。

画像提供 Apple TV+
もともと気が小さく、カリスマ性もとくにないマットはよくいる「いい人なんだけど、ちょっとめんどくさいよね」的なキャラクター。
たまに空気を読めずに、さんざん場を乱しては自己嫌悪に陥るという至極人間らしい性格ですが、全ての行動の原動力が “映画愛” なので、なんだか憎めないんです。
スタジオ代表といえども巨大グループのひとつであって、いわば中間管理職。
製作陣とスタジオ側の板挟みになって誰も言いたくないことを言わされたり、好きな俳優に好意を示されたかと思えば、裏の思惑があったりと、なんだか踏んだり蹴ったりの毎日。

画像提供 Apple TV+
映画祭でも、フォーカスされるのは現場の俳優や監督、プロデューサーばかりで、業界からも仲間だと思っていたクリエイターたちからも個人として評価されないという悲しい現実に打ちのめされます。
なんだか、これってどんな仕事でもありますよね。
より良い仕事をしようとがむしゃらに頑張ってきただけなのに、役職が上がるにつれて現場からは厄介者扱いされたり、クライアントに近い立場にいることで、気づけば現場のチームと少し距離が生まれてきたり…。

画像提供 Apple TV+
華やかなハリウッドが舞台であれど、万国共通の感情が繊細に捉えられていてグッとくる場面も多々あって、毎話しっかりとオチのついたドタバタ劇に、不思議と「明日も頑張るか…!」と勇気がもらえるはず?!
そんなマット率いる「コンチネンタル・スタジオ」の行く末はどうなるのか…!
シーズン2も決定した大注目のドラマシリーズ。
今からでも遅くないので、ハリウッドの狂騒の渦にぜひ巻き込まれてみてはいかがでしょうか。

画像提供 Apple TV+
INFORMATION