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#ART & CULTURE

CINEMA FREAK!! Vol.20 『KNEECAP/ニーキャップ』

Text:Mikiko Ichitani

Edit:FREAK MAG.

サブスクが主流になり、外でも家でも大量のコンテンツを消費できる時代だからこそ、何を観たらいいのか分からない!という人も多いのでは?「シネマフリーク!!」では、映画館で上映中の話題作から、ちょっとニッチなミニシアター作品、おうちで観ることのできる配信作品など数多ある映像作品の中からライターの独断と偏見で、いま観てほしい一本を深掘りします。

 

今回は、北アイルランドを中心に社会現象を巻き起こしているヒップホップトリオ・KNEECAPが出演する半自伝的ムービー『KNEECAP/ニーキャップ』をご紹介。破天荒なパフォーマンスと過激なリリックに込められた社会への辛辣なメッセージが今の私たちにも刺さりまくること間違いなしの一本です。

© Kneecap Films Limited, Screen Market Research Limited t/a Wildcard and The British Film Institute 2024

タイトル:『 KNEECAP/ニーキャップ』

 監督:リッチ・ペピアット

出演:モウグリ・バップ、モ・カラ、DJプロヴィ、ジョシー・ウォーカー、マイケル・ファスべンダー

配給:アンプラグド

 2024年製作/ 105分/ イギリス・アイルランド

 公式HP:https://unpfilm.com/kneecap/

<あらすじ>

 北アイルランド、ベルファスト。父親から「アイルランド語は自由のための弾丸だ」という教育を受けながら育ったドラッグディーラーのニーシャ(MCネーム:モウグリ・バップ)と幼馴染のリーアム(MCネーム:モ・カラ)。

 

麻薬取引で警察に捕まったリーアムは、英語を話すことを頑なに拒み、反抗的な態度を貫いていた。そこに通訳者として派遣された音楽教師のJJ(MCネーム:DJプロヴィ)が、リーアムの手帳に綴られていたアイルランド語の歌詞を発見。その才能に目をつけ、3人はアイルランド語の権利を取り戻すべく、アイルランド語のヒップホップを始めることに—。

バカ騒ぎにセックス、ドラッグ……労働者階級の不良たちの日常をスタイリッシュに描いたカルトムービーといえば、『トレインスポッティング』がパッと思い浮かぶという人も多いかもしれません。

そこに、現代のヒップホップが加わったら?

 

ポップでクレイジーな作品『KNEECAP/ニーキャップ』がアイルランドで誕生しました。

© Kneecap Films Limited, Screen Market Research Limited t/a Wildcard and The British Film Institute 2024

世界中の映画賞で26の受賞と66のノミネートという快挙を果たした本作。監督のリッチ・ペピアットが2019年にベルファストのライブハウスで観たKNEECAPのライブがきっかけだったのだそうです。

 

満員のライブハウスでは、絶滅危惧されているアイルランド語を全面に出した彼らの楽曲を観客みんなでシンガロングするという光景に圧倒されたといいます。

© Kneecap Films Limited, Screen Market Research Limited t/a Wildcard and The British Film Institute 2024

アイルランドで生きる彼らならではの政治的風刺の効いたリリックと反抗的なパンク精神が融合したユニークなスタイルが支持されているKNEECAP。

 

アイルランド全島の統一とイギリスからの完全な独立を目指す政治思想=リパブリカニズム(共和主義)の影響が強く、一方で、ドラッグや貧困が入り混じる西ベルファストの過酷な日常をユーモアを交えて描く楽曲もあり、たびたび物議を醸しています。

© Kneecap Films Limited, Screen Market Research Limited t/a Wildcard and The British Film Institute 2024

 

近年はグラストンベリーなど世界の音楽フェスティバルにも多く出演していますが、彼らの過激な言動にはファンだけでなく政治家や警察も注目しているそうで、反イスラエル&パレスチナ支持を表明した今年のコーチェラでは、親イスラエル企業のバッシングを浴びて滞在ビザ取り消し騒動やロンドンでテロ罪として起訴され裁判にまで発展したという逸話も。

 

ノエル・ギャラガーやBECKといった英国出身のロックスターたちも絶賛するほどの彼らの半自伝的映画がこの『KNEECAP/ニーキャップ』なのです。

© Kneecap Films Limited, Screen Market Research Limited t/a Wildcard and The British Film Institute 2024

 

映画の中で描かれるのは、3人が出会い、ヒップホップトリオを結成し国内でKNEECAP旋風を巻き起こすまでの物語。

なんとKNEECAP役は本人たちが出演!初めてとは思えないほどの大胆かつ、繊細な演技と作中の圧巻のパフォーマンスに引き込まれるはずです。

 

彼らのサクセスストーリーと並行して描かれるのは、数十年にわたる紛争を経て、今だにPTSDに苦しむ北アイルランドの姿。

イギリスの一部とされていて、KNEECAPの3人が使うアイルランド語の話者は北アイルランドには6000人しかおらず、2022年までは公用語として英国政府から認められていなかったという背景があります。

© Kneecap Films Limited, Screen Market Research Limited t/a Wildcard and The British Film Institute 2024

 

 

映画の冒頭で、名優マイケル・ファスベンダー演じるニーシャの父親が語る「アイルランド語は自由のための弾丸だ」というフレーズは、現在のKNEECAPの活動の伏線として印象的でした。

 

劇中のニーシャの父親はアイルランド独立を目指す過激派組織、IRA(Irish Republican Army)の元メンバーで過激な思想から警察にテロリストとして追われる存在。予告の冒頭にも出てくるように彼らの拠点であるベルファストは、独立運動で長年紛争状態で反政府的な抗議活動は占領国の英国政府からテロリストとして扱われてきました。

© Kneecap Films Limited, Screen Market Research Limited t/a Wildcard and The British Film Institute 2024

 深くは語られませんが、そういった背景もありドラッグが蔓延る街のムードや、そういった暮らしを選ばざるをえなかった彼らの怒りが込められたアイルランド語の歌詞から社会問題の根深さを知ることができます。

© Kneecap Films Limited, Screen Market Research Limited t/a Wildcard and The British Film Institute 2024

リーアムが日頃の鬱憤を書き溜めた手記をひょんなことから読んだ音楽教師のJJは、彼らの才能に惚れ込みヒップホップの道へと導きます。

彼もまたアイルランド語の数少ない話者として、言語というアイデンティティの消滅の危機に揺れている一人です。

 

ゲール語(アイルランド語)復興運動にも精力的に参加し、アイルランド語の通訳ボランティアとして警察の捜査協力も行うなど善良な市民味もあるのですが、趣味部屋と化したガレージでトラックメイキングに没頭して周りが見えなくなったり、ギアを入れるためにアルコールやドラッグでハメを外すなど破天荒な一面も。

© Kneecap Films Limited, Screen Market Research Limited t/a Wildcard and The British Film Institute 2024

KNEECAPの認知が広まるにつれて、警察だけでなくかつてのIRA暫定派のメンバーが結成したRRAD(急進派リパブリカン麻薬撲滅団)にまで目をつけられてしまい窮地に陥れられていきます。

 

そこで立ち上がるのが、彼らの過激なメッセージに共鳴した市民たち。

ケネス・ブラナーが監督した『ベルファスト』(2022)の時代から続く、異なる思想の人々が共存してきた北アイルランドならではの団結力が後半の見どころです。

© Kneecap Films Limited, Screen Market Research Limited t/a Wildcard and The British Film Institute 2024

KNEECAPの怒りの矛先はいつだって人々にではなく、分断を煽る特定の政府やコミュニティに対して。

先述のコーチェラでの一件もその場限りのパフォーマンスではなく、結成以来すべてのライブでパレスチナについて語り続けてきているわけで、彼らの正義のスタンスは常に一貫しているのです。

 

誰にも侵されない自由と人権のために、アイルランド語を武器に闘うKNEECAPのステージをいつか絶対に観てみたいというライブ欲に火がつくと同時に、今世界で起きている分断やそれぞれのアイデンティティの侵害といった問題について、歴史、宗教、文化などさまざまな視点でもっと知っていきたいと考えさせられる刺激的な青春映画でした。

© Kneecap Films Limited, Screen Market Research Limited t/a Wildcard and The British Film Institute 2024

 

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