サブスクが主流になり、外でも家でも大量のコンテンツを消費できる時代だからこそ、何を観たらいいのか分からない!という人も多いのでは?「シネマフリーク!!」では、映画館で上映中の話題作から、ちょっとニッチなミニシアター作品、おうちで観ることのできる配信作品など数多ある映像作品の中からライターの独断と偏見で、いま観てほしい一本を深掘りします。
今回は、奇才ウェス・アンダーソンの魅力と新たな視点を詰め込んだ、ちょっぴりハードボイルドでユーモアたっぷりの最新作『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』をご紹介。ファッション、アート、音楽、古典映画といった多様なジャンルを、軽やかに取り入れたウェス・アンダーソンならではの緻密で洗練された世界観で、今の季節にぴったりの一本です。
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タイトル:『 ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』
監督・脚本: ウェス・アンダーソン
原案:ウェス・アンダーソン、ロマン・コッポラ
出演:ベニチオ・デル・トロ、ミア・スレアプレトン、マイケル・セラ、リズ・アーメッド、トム・ハンクス、ブライアン・クランストン、マチュー・アマルリック、リチャード・アイオアディ、ジェフリー・ライト、スカーレット・ヨハンソン、ベネディクト・カンバーバッチ、ルパート・フレンド、ホープ・デイヴィス
配給:パルコ、ユニバーサル映画
2025年製作/102分/アメリカ・ドイツ
<あらすじ>
舞台は1950年代、6度の暗殺未遂から生き延びた大富豪ザ・ザ・コルダは、“現代の大独立国フェニキア”全域に及ぶ陸海三つのインフラを整備する大規模プロジェクト「フェニキア計画」の実現を目指していた。
ある日、離れて暮らす修道女見習いの一人娘リーズルを後継者に指名し、彼女を連れて旅に出る。
目的は資金調達と計画推進、そしてリーズルの母の死の真相を追うこと。次々と現れる暗殺者や裏切り者をかわしながら、出資者たちと駆け引きを重ねるうちに、冷え切った父娘関係が変わっていく。
いやー、ウェス・アンダーソンの新作が公開中ですね。
前作の『アステロイド・シティ』からもう2年が経っていることもとっても驚きで、ちょっと怖いくらいです。
怖いといえば、ウェス・アンダーソンの近影が全く変化していないこと。2018年公開の『犬ヶ島』のプロモーションで来日した際に取材したことがあるのですが、正直、今の方が若返っている気すらします…。やっぱり童心を忘れないことが若さの秘訣なのでしょうか。
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話が逸れましたが、ワンシーンで監督が分かると言われるくらい完成度の高い世界観とエモーショナルな映像表現が日本でも人気の高いウェス・アンダーソン。2023年に開催された「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」が連日超満員になるなど、本人の作品を飛び越えてカリスマ的な人気を誇っています。
近年では複数の章に分け、入れ子構造にした複雑なストーリーテリングも特徴として挙げられますが、個人的にはもう少し単純明快で、シンプルに子供の成長譚や家族の物語をテーマに掲げた初期作品が好きだったりして。
本作は、そんな懐古主義にとらわれた私にとっても、新しさと懐かしさが共存する、より進化したウェスワールドが炸裂しています。
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まずはやっぱり毎回目玉となる、キャストから。
今回の主役は『 フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』以来2度目の出演となるベニチオ・デル・トロ。
『 フレンチ・ディスパッチ〜』のレッドカーペットのタイミングで、監督自らまだアイデア段階だった本作の主演をオファーしたのだそう。威厳のある風格と後ろ姿はどこか心優しい怪物(『モンスターズインク』のサリーを勝手に連想してました)のようで、ウェス作品のなかではなかなかないハードボイルドな人物を哀愁たっぷりに演じています。
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心身ともに離ればなれに暮らしていたリーズル役には、何百人ものオーディションから役を勝ち取ったミア・スレアプレトン。
デビュー以降注目を集めている期待の新星で、母親はケイト・ウィンスレットというセレブリティでもあります。母親譲りの大きな瞳で、セリフ以上の表現力を操る姿はすでに大物の風格があります。
個人的に大好きなマイケル・セラもウェス組初参加!
そのほか、マチュー・アマルリックやジェフリー・ライト、スカーレット・ヨハンソン、ウィレム・デフォー、ビル・マーレイなどおなじみの面々も大集結しています。
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『ダージリン急行』では、物語の鍵を握るトランクをルイ・ヴィトンで特注したことでも知られるウェス・アンダーソン。
本作では、コルダがリーズルに送る“世俗的な”ロザリオをカルティエ、煌びやかなコーンパイプをダンヒル、 資金集めの旅の費用となる現金を入れたリュックサックをプラダに特注したとのこと。ノスタルジックな唯一無二のウェスワールドのなかでいきいきと存在感を放つ小物も注目です。
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やり手の国際的実業家として、暴利、脱税、価格操作、賄賂、そして3人の元妻の不自然死といったありとあらゆる疑念を抱える一方で、常に家庭教師をつけるほどの勉強家で自然愛好家、そして熱心な美術収集家という顔を持つコルダの屋敷に陳列される貴重な名画の数々はとにかく圧巻。
劇中の「いい絵は買うな。本物の名作を買え」という台詞を裏付けるように、その多くが世界中のコレクターや美術館から取り寄せた本物で構成されているというのもポイント。上流階級で育ったウェス・アンダーソンならではの審美眼となみなみならぬキャラクターのライフスタイルを作るうえでのこだわりを感じます。
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肝心な物語はというと、想像以上にワイルド。
常に暗殺者に命を狙われ、プロジェクトの妨害も日常茶飯事という状況のなかで、6度目の暗殺未遂を経験したコルダは意を決して、妻の死後を境に修道院においていた一人娘リーズルと再会し、暫定的な相続人としての適性を見極めるために出資者たちとの交渉の旅に連れていくことに。
コルダは試用期間だと言い放ちますが、それはリーズルも一緒。
突然の母の死の原因なのではと疑いを持ちつつも、「なにがあろうとも殺すなどありえない」と断言するコルダを信用していいのか、父としての適性を見極める時間をともに過ごします。
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コルダにとってフェニキア計画の成功は、後生に名を残す偉業になるとともに今後150年間の安定を約束してくれるもの。
しかし、敵の妨害行為によって資材の金額は高騰し、資金の“ギャップ(不足分)”は増えるばかり。
気づけば全財産+αの負債を抱えるまでに膨れ上がり、身体もボロボロ。そんな逆境のなかでも威厳を保ち、目的を果たすために突き進むコルダの原動力はなんなのでしょうか。
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何度も臨死体験を繰り返したコルダは、残りの人生にとって重要なことはなんなのかを改めて考えます。
その答えは富や名声ではなく、心残りになっていた娘との関係を修復し、家族としてやり直すこと。
自身の見栄やこだわりを捨て、リーズルが求める奴隷的な労働環境や飢饉のない、より多くの人々にとって良い未来を作るために奔走していくのです。
コルダに起死回生の一手は見つかるのか、フェニキア計画はどうなるのか、そしてこの家族の未来は——?
自身も父となったウェス・アンダーソンによってより濃密に、そして相変わらず完璧な美しさとエモーショナルを携えて進化した家族の修復と再生の物語。芸術の秋にぴったりの作品をぜひ劇場で堪能してみてはいかがでしょうか。
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