サブスクが主流になり、外でも家でも大量のコンテンツを消費できる時代だからこそ、何を観たらいいのか分からない!という人も多いのでは?「シネマフリーク!!」では、映画館で上映中の話題作から、ちょっとニッチなミニシアター作品、おうちで観ることのできる配信作品など数多ある映像作品の中からライターの独断と偏見で、いま観てほしい一本を深掘りします。
今回は、大好きな天才監督ポール・トーマス・アンダーソンの新たな傑作としても名高い『ワン・バトル・アフター・アナザー』をご紹介。彼ならではのこだわりぬいた映像美と音楽、そして新鮮さを感じるカーアクションがありながらも、基本的にはコメディというアンバランスさが癖になる一本です。
©︎2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
タイトル:『 ワン・バトル・アフター・アナザー』
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:レオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロ、レジーナ・ホール、テヤナ・テイラー、チェイス・インフィニティ
配給: ワーナー・ブラザーズ映画
2025年製作/162分/アメリカ
<あらすじ>
かつては世を騒がせた革命家だったが、いまは平凡で冴えない日々を過ごす元革命家のボブ。そんな彼の大切なひとり娘ウィラが、とある理由から命を狙われることとなってしまう。娘を守るため、次から次へと現れる刺客たちとの戦いに身を投じるボブだが、無慈悲な軍人のロックジョーが異常な執着心でウィラを狙い、父娘を追い詰めていく——
『リコリス・ピザ』以来、待ちわびていたPTA(ポール・トーマス・アンダーソン)の新作が絶賛公開中です!日本版の予告で流れていた、どうしてもパスワードが言えないレオ様が観たくて、初日に一般のシアターで鑑賞。
いやはや、そうだこの監督の醍醐味は音とフィルムなんだと思い出して、グランドシネマサンシャイン 池袋の巨大IMAXでおかわりもしっかりしてきました。大好きなカーアクション×PTAならではのユーモアと人間ドラマ、そして現在のアメリカを真正面から描いたような物語にすっかり引き込まれてしまいました。
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レオナルド・ディカプリオがPTA作品に出演するのは初めてですが、なんとその縁は30年近く前からあったとのこと。『ブギーナイツ』(1997)でマーク・ウォルバーグが演じていた “ダーク・ディグラー” こと、エディ・アダムス役の候補として名前が挙がっていたのだそう。
同年公開の『タイタニック』(1997)で一躍スターダムを駆け上がったレオ様、そして『マグノリア』(1999)『パンチドランク・ラブ』(2022)など数々の作品で監督賞を総ナメにしてきたPTA。共通の知人である名物プロデューサーアダム・ソムナーによって30年越しに邂逅を果たした二人という背景も、なんだかとっても運命のようなものを感じます。
物語の構想を練り出したのは20年以上前から。カーアクション映画を撮りたいという願望から、敬愛してやまない作家トマス・ピンチョンの「ヴァインランド」の映像化、女性革命家の物語などさまざまなアイデアが浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返しながら成長していったという本作。
その間にPTA自身の生活環境も映画業界も社会も変化を繰り返し、辿り着いたのは過去とも未来とも明言しがたい独特な世界でした。映画の冒頭は、鉄条網で囲われた移民勾留センターに乗り込むテロ組織 “フレンチ75” の暗躍、そしてその活動の最中で絡み合う運命の歪みの瞬間をアップテンポに描き出します。
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カリスマ的な革命家の女性リーダーペルフィディアを演じるのは、ダンサー、モデル、シンガー、そしてビヨンセなど名だたるアーティストの振付師としても知られるテヤナ・テイラー。
短く刈り上げられたベリーショートに軍パン、タイトなTシャツを纏い、激しいアクションをこなす彼女は性別を凌駕したかっこよさと色気がムンムン。
本作で最大の敵となる変態軍人ロック・ジョー(ショーン・ペン)ですらも、「Get up!(勃て)」という一言ですっかり懐柔されてしまうのだから、海賊王もびっくりの覇気を持っているとみて間違いないでしょう。
冒頭数分の出来事が、この映画最大のクライマックスにつながるというわけで。ざっくりいうとロック・ジョーがペルフィディアのドSプレイに開眼させられて、執念深いストーカーになり、恋人である爆弾魔のボブ(レオナルド・ディカプリオ)とその娘ウィラから彼女を引き離し、追いかけ回すというストーリーへとつながっていきます。
そんな彼らの絶望的な運命の出会いから16年後。赤ん坊だったウィラは美しい少女へと成長し、ボブはかつての果敢さを失い、酒とマリファナに溺れながらもなんとか最愛の娘を守るべく、外界との接触をとことん避けてひっそりと暮らしています。
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16年前の功績によって昇進したロック・ジョーは、“クリスマスの冒険者” という白人至上主義の秘密結社に勧誘され上機嫌。
しかし、かなり厳密なルールのもと排斥主義を貫く組織への入会を前に自身の潔白を証明すべく、ペルフィディアとの関係を一掃するために事件を捏造し、ボブとウィラの暮らす街に乗り込んでくるのです。
ロック・ジョーの現れる場面は、『マッド・マックス』や『ターミネーター』といったSFアクションの悪役を彷彿とさせる演出が効いていて、そのシャキッと背筋を伸ばした軍人らしい歩き方や肩の動きだけでもなぜか笑えてしまいます。
一方でボブはというと、とにかくだらしがない。常によれよれの赤チェックのガウンを着ていて、学校での担任との面談前には、自分を奮い立たせるためにマリファナを一服。娘の成長を聞かされるとうっかり涙ぐんでしまうほど、情けなくて愛しいパパを体現しています。
そんなボブも娘の危機に直面して、心機一転!……かと思いきや、相変わらずダメダメ。昔の仲間に頼ろうと電話をかけても、合言葉のパスワードが言えないし、走れば動悸と息切れでヘロヘロ。助けを求めて駆け込んだ、ウィラの通う空手道場のセンセイ(ベニチオ・デル・トロ)に幾度も救われながら、なんとか娘を助けようともがいていきます。
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PTAと出会ったばかりの頃の圧倒的な王子様キャラから数10年…。近年は、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』しかり、過去の栄光にすがり、なんとか周りの人にケアされながらもがく男性を演じることも多く、実生活でもいつまでも地に足のつかない恋愛エピソードを更新し続けているレオ様ならではの味わい深さを感じる気がします。
男性ポルノスターの栄光と挫折を描いた『ブギーナイツ』を筆頭にミソジニー的な人物描写や男同士の擬似親子など、男性性を強調した作風が多かったPTAも、近年では強い自我を持つ女性キャラクターを描く ことが多く、本作でも新人のチェイス・インフィニティ演じる娘・ウィラのまっすぐで自由な価値観と強さがボブやロック・ジョーといった古いタイプの男性たちと対比して、魅力的に描かれています。
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これまでも自身の物語や価値観を映画作りに投影してきたPTA。本作でも自身の娘とのやり取りで発見したジェネレーションギャップを皮肉さとユーモアたっぷりに再現していて、同世代の観客は思わず身をつまされる場面もあるかもしれません。
映画のなかでは、“地下鉄道” と呼ばれる1800年代に起きていた奴隷解放運動や、「ヴァインランド」の描く1950年代から60年代までの革命家時代、そして第二次トランプ政権によって日々悪化の一途を突き進む現在のアメリカの姿が散りばめられています。(撮影は2年前なので、最悪の予想が実現したともいえるのかも)
あくまで「家族」という普遍的なテーマながら、受け継がれ、紡がれてゆく歴史を交えて映画ならではのダイナミズムを描くこと。それこそが多くの人に共感される物語でありながらも、社会や時代を反映した作品として強さも感じられる 理由なのかもしれません。
私たちの生活圏では、熊出没や芸能人のゴシップといった国内のニュースばかりが目につくけれど、これまでに世界で起きてきたことは、今につながり、そしてこれからの世界へと確実に引き継がれていくわけで…。
身近なテーマや暮らしに紐づく今起きていることに目を向けてみるきっかけとしても、映画をもっと楽しんで欲しいなと改めて思う一本になりました。
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