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#ART & CULTURE

CINEMA FREAK!! Vol.24 『エディントンへようこそ』

Text:Mikiko Ichitani

Edit:FREAK MAG.

サブスクが主流になり、外でも家でも大量のコンテンツを消費できる時代だからこそ、何を観たらいいのか分からない!という人も多いのでは?「シネマフリーク!!」では、映画館で上映中の話題作から、ちょっとニッチなミニシアター作品、おうちで観ることのできる配信作品など数多ある映像作品の中からライターの独断と偏見で、いま観てほしい一本を深掘りします。

 

今回は、『ミッドサマー』などでカルト的な人気を誇る、アリ・アスター監督による話題作『エディントンへようこそ』をご紹介。2020年コロナ禍のアメリカ南西部を舞台に、SNSをきっかけに分断と排除が蔓延した世界の行方を痛快に描いた一本です。

© 2025 Joe Cross For Mayor Rights LLC. All Rights Reserved.

タイトル:『 エディントンへようこそ』

監督・脚本:アリ・アスター

出演: ホアキン・フェニックス、ペドロ・パスカル、エマ・ストーン、オースティン・バトラー、ルーク・グライムス、ディードル・オコンネル、マイケル・ウォード

配給: ハピネットファントム・スタジオ

 2025年製作/148分/アメリカ

 公式HP:https://a24jp.com/films/eddington/

<あらすじ>

 物語の舞台はコロナ禍真っ只中の2020年、ニューメキシコ州の小さな町、エディントン。保安官ジョーは、IT企業誘致で町を“救おう”とする野心家の市長テッドと“マスクをするしない”の小競り合いから対立し、市長選に立候補する。ふたりの諍いの火は周囲に広がっていき、SNSはフェイクニュースと憎悪で大炎上。同じ頃、ジョーの妻ルイーズは、カルト集団の教祖ヴァーノンの扇動動画に心を奪われ、陰謀論にハマっていく——

以前、『Pearl パール』のときにも書いたけれど、私はホラー映画が苦手です。というか、怖すぎるし、なんでわざわざそんな体験をしないといけないんだと思ってしまうタイプなので、仮に仕事の取材があったとしても断っているくらい。

 

そんな私が、唯一胸を張って観たと言えるホラー映画が『ヘレディタリー/継承』です。心霊現象というよりは悪魔崇拝によって壊れていく家族の姿を破茶滅茶に描いた傑作で、以降アリ・アスター作品は全て観てきました。

 

彼の映画作りが身の回りのエピソードを映画に投影するスタイルと知ってからは、「この人の視点はとことんサイコだな」と関心し続けてきた訳だけれど、この作品と出会ったことでその感想すらも逆転してしまいました。

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劇中で描かれるのは、2020年5月のアメリカ。ロックダウンによる閉塞感やSNS上に蔓延する陰謀論、そんな最中にミネソタ州ミネアポリスで起きた白人警官によるジョージ・フロイト殺害事件など、日本で暮らしていた私たちも常に鬱々としていた日々を送っていたあの頃。

 

マスクをつけていないと白い目で見られ、県を跨いだ移動は批難の種になる。即席で開発された検査薬やワクチンを使わないと実家にも帰れなかった日々は遠い昔のようで、まだたったの5年しか経っていないだなんて本当に嘘みたいですよね。

今回ご紹介する『エディントンへようこそ』では、誰もが経験したあの異常な日々を改めて俯瞰しています。

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爽やかな笑顔と親しみやすさで好感を集める一方で、課題だらけのデータセンターの召致に情熱を注ぐ現・エディントン市長のテッドを演じるのは、「マンダロリアン」シリーズや『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』など、ハリウッド大作への出演が続くペドロ・パスカル。

対する反マスクや銃所持を肯定する保守的な考えを持つ対立候補の保安官ジョーを、前作『ボーはおそれている』に続きホアキン・フェニックスが演じています。

 

実力派俳優として知られると同時に、中東問題やトランプ政権へのリベラルなスタンスも表明しており、社会運動にも積極的に参加しているふたり。そんな彼らがこの物語では相反する政治信条の人物を演じているというのも見どころのひとつ。

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劇中では、BLM運動に端を発した抗議運動も出てきますが、多くが偽善的で薄っぺらな主張を繰り返して、目立ちたい、モテたい一心で中身のないスピーチで前に出たがるようなキャラクターばかり。

さらには、反ファシストを掲げるアンティファのメンバーらしき人物が過激なテロリストとして現れるなど、小さな町の市長選挙は想像もつかないラストへと暴走してゆきます。

 

他のインタビューでアリ・アスターも語っている通り、本作には悪と戦う単純明快な正義のヒーローは出てきません。誰もが身勝手で、善人のような人も心の内では利己的な欲を優先するばかり。

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副音声のようにラジオやYouTubeから流れる、陰謀論やリアルタイムの暴動や抗議活動のニュース。それだけでなく、画面の端に映る町内の落書きやうっすらと聞こえる誰かの声(ジョーの自宅のシーンでは常に義母ドーンが捲し立てているのが画面の外から聞こえている)がノイズのようでもあり、洗脳の呪文のように私たちの思考に入り込んできます。

 

都市伝説や陰謀論などはコロナ前からありましたが、こんなにも毎日スマホを開くたびに目に入るようになったのはここ数年のこと。それはアメリカだけでなく、日本でも同じです。不安定な社会や未来への不安を餌に広まる噂や排他主義による偏った主張。

 

正直、私もエディントンの人々と同じように、スマホの画面越しに届く真実の分からない情報に疲弊して、目の前の主張を支持してみてもそれが偽物だったり、現実に目を向けるほど自分の無力さに愕然としたりを日々繰り返しています。

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声の大きい人が正義を作り、数多の無垢な人々が内容に関係なくその声を拡張していく。立場が変われば正義も変わるし、少数の反対意見がそのまま悪だと信じ込まされる。気づけば「そういうものだよね」と、受け入れてしまっている今の状況がいかに異常で、その先にはなにが待っているのかをほんの少しのユーモアとともに客観的に見せつけてくる本作。

 

感情の浮き沈みや暴走がやけに生々しくて、登場人物たちの皮肉な末路に「今笑ってたけど、これ私たちも片足突っ込んでない?ってか、詰んでる??」とゾッとしてしまうはず。

 

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一人ひとりの人間の思考の複雑さと、集団のなかや理性を失ったときのコントロール不可な衝動は常に共存している。そのバランスが他者によって脅かされている今、アリ・アスターが描く半歩先の未来予想図はある種、これまでの作品のなかで一番のホラーと言えるかもしれません。

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