NEUT Magazineの編集長をしながら、空いた時間は友達とおいしいものを食べることに全ベットしている僕(平山 潤)ですが、最近周りにお店を持たない飲食店が増えている、そんな気がする。ウーバーで注文すればいつでも届くとか、そんな都合のいい関係じゃない。だからこそ無性に食べたくなるけど、自分のタイミングじゃ食べられない、神出鬼没飯。英語で言うと“POP UP FOOD”を毎月紹介していきます。
第3回となるPOP UP FOODでは、さまざまなイベントの企画を手掛ける奈良 岳(なら がく)さんの“流しのビリヤニ”をピックアップ。イベント会場や店舗に神出鬼没するこの“流しのビリヤニ”がこの日現れたのは、溝の口にあった文房具屋さんの跡地に昨年オープンした「二坪食堂」。

奈良 岳さん
1人で食べるより、誰かと食べた方が楽しい!おいしい!ということで、今回は「WASP」というユニット名でDJとして活躍するSOTAさんと、モデルやイラストレーターとして活躍するTIARAさんを誘い、奈良さんに話を聞きました。

左から、TIARAさん、SOTAさん、平山潤
平山 潤(以下、潤)︰ビリヤニを「流し(POP UP)」で出すようになったきっかけは?
奈良 岳(以下、奈良):もともと、幼少期から叔母の影響でビリヤニを当たり前に食べていたんです。叔母が家に来るときに持ってきてくれるビリヤニをいつも楽しみにしていました。
それで、三軒茶屋のシェアハウスを運営していた5年前、幼少期のことを思い出してふと食べたくなって。せっかくなので友達を集めて、作ったビリヤニを味見してもらったんです。そこに来ていたうちの1人に声をかけてもらって、千駄ヶ谷にあるBAR Poppiesで出したのが最初です。
その後は数珠つなぎでいろんなところに呼んでもらうようになりました。

“呼ばれる” 流しスタイル、繊細な男のチキンビリヤニ
潤:奈良くんの考える「流し」であることの価値は何?
奈良:「流しのビリヤニ」というコンテンツは、他では味わえない。気軽に食べられるものじゃないからこそ、「そこにしかない」っていう価値が生まれるんですよね。
あと僕の場合、自分から「やりたいです」って言ったことが一度もないんです。呼んでいただいたお店に集客をしてもらうことで、場所ごとに全く違う人たちと出会えるのは、自分にとってすごく良かったですね。
いろいろな出会いがあったおかげで、今では、イベントやフェスに出店する機会も増えているんです。


潤︰ビリヤニって、本格的なネパール・インド料理のお店で見ることが多いから、なんとなくスパイスカレーに近いような印象でした。だけど、分かりやすい味のカレーに対して、このチキンビリヤニは繊細な味と香りがとても印象的!
ビリヤニのことをよく知らない人に、その魅力を伝えるとしたら?
奈良:例えば、今日のチキンビリヤニは、生の鶏肉とスパイスとヨーグルト、フライドオニオンを一晩漬け込んで、火を通さずに鍋底に敷くんです。ビリヤニは水を入れずに、下茹でしたバスマティライスを具材の上にのせて炊いて作ります。
カレーと違って煮込まないし、そもそも水を入れない。だからこそ、マリネした素材の旨みがバスマティーライスに凝縮されて、フレッシュなまま直接香りとして届く。言わば、「スパイスの炊き込みごはん」です。
分かりやすくスパイス感を出すのって簡単だけど、僕は「食べやすさ」を大切にしたい。辛さは抑えて、シナモンとカルダモンの香りをメインに、繊細な香りと味わいを楽しめるようにこだわっています。
潤:ビリヤニの繊細さには、奈良くんらしさが現れているんだね。

コンテンツを育てるオーガナイザー、二軸を持つ強み
潤:「流しのビリヤニ」は、他の仕事と並行しながらの取り組みだよね。奈良くんのなかで、どういう位置づけなんですか?
奈良:「流しのビリヤニ」をやっている一番の目的は、自分でコンテンツを育てたいからなんです。
街に来た人を楽しませる仕事がしたいという軸があります。街の中で何か企てようとするとき、建築やインテリアなどの物理的なものを指す“ハード”から、アイディアや企画などを指す“ソフト”まで、いろいろな要素が必要になります。僕は、仕事、プライベートに関わらず、その多くを経験して、それらを一貫してプロデュースできるようになりたい。前職では街づくりや建築のプロデュースの仕事をしていたり、一軒家をセルフリノベーションしてシェアハウスを作ったりと、“ハード”に当たることをしてきました。それに対して、“ソフト”の要素を勉強できるのが「流しのビリヤニ」というコンテンツなんです。
潤:なるほど。その経験が、仕事にも役立つよね。
奈良:そう。今は主に商業施設関連のイベント企画に携わっているんですけど、自分のコンテンツを持っていると、他のクリエイターと対等に話ができるんです。コンテンツの視点を持ってるオーガナイザーって少ないし、両方の立場に立てるって強みですよね。
潤:確かに。オーガナイザーとしての機会の多い編集者として、すごく勉強になります。

地方でも人気、「流しのビリヤニ」のこれから
潤:11月には、お店をオープンするんだよね?
奈良:日本橋にあるおにぎりスタンド「ANDON」の二階にオープンします。日本ワインを扱う酒屋との共同運営で、昼はビリヤニ、夜はワインBARになる予定です。
オープンの準備をするにあたって、お金を借りるとか、人を雇うとか、初めての連続なので経験としてすごく面白いです。
潤:これまでは人に呼ばれて育ってきたけど、今は一つ一つのことを自分で背負って進めている。奈良くんのタイミングとしても、次のステップに進むところなんですね。
奈良:そうですね。世の中的にもビリヤニの知名度が上がっているので、忙しくなりそうです……。
潤:今後、実現したいことは?
奈良:今後は、地方で流しをする機会を増やしたいと思っています。
実際に地方でビリヤニを出すと、たくさんの人がそこを目掛けて来てくれるので、一日中炊き続けて100食は売れるんです。より多くのコンテンツにも触れられるので、可能性を広げる機会にもなっています。
潤:地方への「流し」は自分で行って、東京のお店は誰かに任せるっていうスタイル?
奈良:最終的には、その形に落ち着きたいですね。流しのビリヤニというコンテンツが独り立ちしていく状況をつくりたいです。一方で好きなお酒が多いので、自分で仕入れたお酒を提供しながらビリヤニを炊いて、お店に来てくれた人との繋がりから、全く新しい展開が生まれたら最高です。なるべくなら働きたくないと思っているから、それくらいのバランスが精神衛生上良いんです。
潤:共感できる(笑)。「自分の生活を快適なところに持っておきたい」っていう考えが中心にあって、それを模索するなかでビリヤニが見つかって、今のスタイルになったんだね。
奈良:そうですね。今後の妄想としては、温泉地にも出店してみたいんです。東京と地方を行き来して、週の半分温泉に入る生活って最高だな、と(笑)。まずは東京でしっかり基盤を整えて、地方にお店を出すストーリーを作りたいです。
そして、その地域に足を運ぶきっかけの一つになれたらと思っています。
PROFILE
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奈良 岳
下北沢BONUS TRUCK、日本橋マルシェ・FROM EAST、パルコなど、商業施設関連のイベント企画に携わる傍ら、「流しのビリヤニ」でビリヤニの炊き出し活動を行っている奈良 岳さん。流しのスタイルで、さまざまな店やイベントでビリヤニを提供し、そのおいしさを広めている。2022年11月、日本橋にSTANDをオープン予定。
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TIARA
ハウスミュージックとワインをこよなく愛する東京拠点のモデル/アーティスト。基本的に服は赤色。ワインも白より断然赤派。料理は作るより食べる専門。
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SOTA
東京を中心にジャンルレスに活動するDJ/編集アシスタント。好きな料理はイタリアン全般、好きなお菓子はじゃがりこ。衣食住全てに磨きをかけるため日々奮闘中。
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平山 潤
世間で<エクストリーム>だと思われるようなトピック·人に光を当て、より多くの人に「先入観に縛られない<ニュートラル >な視点」を届けるウェブマガジン「NEUT Magazine」の編集長。食べること、人と話すことが好きです。本連載の担当編集をしています。