NEUT Magazineの編集長をしながら、空いた時間は友達とおいしいものを食べることに全ベットしている僕(平山 潤)ですが、最近周りにお店を持たない飲食店が増えている、そんな気がする。ウーバーで注文すればいつでも届くとか、そんな都合のいい関係じゃない。だからこそ無性に食べたくなるけど、自分のタイミングじゃ食べられない、神出鬼没飯。英語で言うと“POP UP FOOD”を毎月紹介していきます。
第5回となるPOP UP FOODでは「台湾屋台Woo」をピックアップ。伝統的な台湾料理に呉(ウー)さんのオリジナリティがプラスされた、新しい台湾料理を振る舞う「台湾屋台Woo」。確実に遭遇できるのは、毎週木曜日、代々木上原にあるクリエイティブスペース&カフェバー「No.」です。

1人で食べるより、誰かと食べた方が楽しい!おいしい!ということで、今回は台湾にもルーツを持つモデルで、シルバージュエリーブランドTALANTOを展開している黄理子(こう りこ)さんを誘って、呉さんに話を聞きました。

左から、理子さん、呉さん、平山潤
平山 潤(以下、潤):今日のメニューについて教えてください。
呉:ルーロー飯は、No.で出店し始めた頃からの定番メニューです。レシピは毎回アップデートしていて、常に新しくて一番おいしいものを出すようにしています。今回の週替わりプレートは、おなかも心も温めるスープ。自家製の皮を使ったグァパオ、生地から手作りしている焼き小籠包、台湾流にアレンジした揚げ豆腐、インゲン豆と鶏の五香揚げにバジルの素揚げをのせたものなどは台湾の夜市でよく出されている一品料理です。
黄理子(以下、理子):おいしい!



記憶を手繰り寄せて作った、懐かしい「家庭の味」
潤:「台湾屋台Woo」を始める前は、どんな活動をしていたの?
呉 :台湾で大学の織物デザインコースを出た後、バイヤーやデザイナーとして働いていました。日本に来てからはアパレルやゲストハウスで働いていたけど、新型コロナウイルスの拡大をきっかけに家にいることが多くなったから自分で料理をするようになりました。
潤 :もともとは「食」に全く関わりのない分野で活動していたんだね。
呉 :そうそう。日本で料理を始めるまで、料理経験は全くなかったです。コロナ禍で帰国できずにいたとき、台湾料理がすごく恋しくなって…。日本の台湾料理店では自分が慣れ親しんだ「家庭の味」になかなか出会えなかったんですよね。自分の記憶のなかにある味がどうしても食べたくて、料理するようになったんです。
潤:呉さんの「家庭の味」って?
呉:台湾では基本、安くて気軽に食べれる屋台がたくさんあるので外食文化が強くて、自炊をする家庭って少ないんです。でも私は父が料理をする家庭で育ったので、父が作ってくれる料理が「家庭の味」でした。「家庭の味」を再現するために、キッチンに立っていた父の姿を思い出しながら試行錯誤を繰り返していました。

まかないからグランドメニューへ、人とつながる「食」というツール
潤:なるほどね。「台湾屋台Woo」での活動を始めたきっかけはなんだったの?
呉:2年ほど前、蔵前にある「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」で働いていたとき、コロナ禍で宿泊客が全然いなかったんです。もともと担当していたホテルのレセプションの仕事がなかったので、料理の仕事経験がないまま、いきなりキッチンで働くことになったんです。
そこでスタッフのまかないにルーロー飯を出したら大好評でお店のグランドメニューとして出すことに。自分の料理でみんなが喜んでくれたのがうれしくて「料理を続けていきたい」と、「台湾屋台Woo」を始めました。
理子:呉さんの原動力は、食べた人に喜んでもらうことなんですね。
呉:そうですね。もともと飲み歩くのが好きで、お店の人やお客さんと仲良くなった延長で出店することも多いんです。完璧な日本語が話せなくても「食」を通じて「人とのつながり」を感じられるのがすごく嬉しいですね。
潤:呉さんにとって、「食」が人とつながる非言語のコミュニケーションツールになっているんだね。
呉:今の仕事は、いろいろな場所で新しい人と出会えたり、自由な発想で料理ができます。新しいものを生み出すことが好きな自分にとても向いているな、と。
潤:料理以外にも、フライヤーデザインや撮影も自分で…って、呉さん何でもできるんだね(笑)。 まさに、新しいことをいろいろ生み出している。



探求し続ける「台湾屋台WOO」だけの味
潤:「台湾屋台Woo」ならではのこだわりというと、どんなこと?
呉:台湾料理は、作る人によって味つけがさまざまなので「正解がない」んです。最初は食べたい台湾料理をひたすら自分好みに作っていたけど、今は「ここでしか食べられないもの」を届けたいと思っています。私が考えた本場の台湾料理に、日本ならではの味や食材をプラスすることで、また違う新しい料理になる。そんなオリジナルな味をみんなに楽しんでほしいですね。
例えば、野菜ひとつとっても、台湾と日本では味が全然違いますし、一年中夏の台湾にはない日本の「旬」の文化を取り入れるのもそうですね。「台湾屋台Woo」の料理は、ここでしか食べられないので「ウーちゃん飯」って呼ばれているんです。
潤:「台湾屋台Woo」を通して、これからどんなことをしてみたいと思っているの?
呉:1月12日に、台湾の旧正月にちなんで、大勢で台湾のおせち料理「年菜(ねんさい)」を楽しむイベントをNo.で開催しました。
台湾では、家族みんなで年菜を囲んで一家の幸せを願う伝統があるんです。今回のイベントのように、本場の台湾文化を正しく伝えられる機会をどんどん作っていきたいと思います。それから、日本で出すものとは違う新しい料理を考えて、いつか台湾でも出店するのが目標です。
理子:旧正月のイベントには、私も参加しました!大皿にのった料理をみんなでシェアする台湾スタイルのコースディナー。台湾の食材を使いながらも呉さんならではの工夫が効いた料理は、どれも絶品で、「懐かしさ」と「新しさ」の融合を味わうことができました。

理子さんお気に入りのトロトロ角煮
その場で出会った参加者同士でおしゃべりを楽しんだり、譲り合いながら食事をする体験はとても新鮮でした。
潤:「台湾屋台Woo」は、日本人が台湾の文化を体験できるだけじゃなく、日本に住む台湾にルーツを持っている人にとっても「懐かしさ」を感じられる特別な場所なんだね。
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