サブスクが主流になり、外でも家でも大量のコンテンツを消費できる時代だからこそ、何を観たらいいのか分からない!という人も多いのでは?「シネマフリーク!!」では、映画館で上映中の話題作から、ちょっとニッチなミニシアター作品、おうちで観ることのできる配信作品など数多ある映像作品の中からライターの独断と偏見で、いま観てほしい一本を深掘りします。
今回は、新進気鋭の作家からベテランまで幅広いクリエイターとタッグを組み、次々とヒット作を世に送り出してきた製作・配給会社のA24が北米での配給権を獲得したことで注目を集める、アニメーション作品『マルセル 靴をはいた小さな貝』。体長2.5センチの主人公が繰り広げる、大きな愛に溢れた作品をご紹介します。
© 2021 Marcel the Movie LLC. All Rrights Rreserved.
タイトル:『マルセル 靴をはいた小さな貝』
監督:ディーン・フライシャー・キャンプ
脚本:ディーン・フライシャー・キャンプ、ジェニー・スレイト、ニック・パーレイ、エリザベス・ホルム
キャスト:ジェニー・スレイト、イザベラ・ロッセリーニ、ローラ・サラザール、トーマス・マン、ディーン・フライシャー・キャンプ、レスリー・スタール
配給:アスミック・エース
2021年製作/90分/アメリカ
6月30日(金)新宿武蔵野館・渋谷ホワイト シネクイントほか全国公開
<あらすじ>
体長2.5センチ。名前はマルセル。おしゃべりで好奇心あふれる貝。祖母のコニーと一軒家でふたり暮らし。 ある日家に越してきた映像作家のディーンと出会い、初めて人間の世界を知ることに。 離れ離れの家族を見つけるためYouTubeに動画をアップしたところ、SNS上で瞬く間にバズり、一躍全米の人気者になるのだが……!?
『ミッドサマー』や『ムーンライト』など、良質な人間ドラマからホラー、コメディまで縦横無尽に扱うヒットメイカーとして知られるA24。今年のアカデミー賞では、『エブリシング・エヴリウェア・オール・アット・ワンス』で、作品賞・監督賞・主演男優賞・助演男優賞・助演女優賞・脚本賞・編集賞の最多7冠を制したことも記憶に新しいかと思います。個人的にここ数年で胸熱を感じる作品の多くがA24と言っても過言ではないほど、作品作りや才能を見出す感覚は映画界のなかでも群を抜いた存在です。
そんなA24から初となるファミリー向け映画として公開されるのが、『マルセル 靴をはいた小さな貝』です。本作は、ストップモーションアニメと実写を組み合わせた斬新なビジュアルと、フィクションでありながらも、撮影者として監督であるディーン・フライシャー・キャンプが動画を撮影する本人役で出演するなどドキュメンタリーのように見せかけたモキュメンタリー手法で描かれており、実写の世界のなかでキャラクターたちが自然に動き回る様子をスクリーン越しに観ていると、まるで本当にマルセルが実在するような気持ちになります。
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主人公は体長2.5センチの貝・マルセル。好奇心旺盛でウィットとユーモアに富んだこのキャラクターが生まれたのは、なんと13年前。友人の結婚式で訪れた旅先のホテルで、コメディアンで俳優のジェニー・スレイト(先述の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』にもビッグ・ノーズと呼ばれる犬を抱えた女性役で出演)が、生み出したユニークな声で話すキャラクターがベースになっており、おもちゃ屋などで集めたパーツで作った貝のような架空の生き物のフィギュアを主役に、アドリブで声を吹き込んだショート動画をYouTubeで公開するとたちまちに話題に。この3分前後の短い動画は、2010年から2014年までの間に3本公開され、累計5,000万回再生を記録しました。
そんな仲間内のおふざけから生まれた作品ですが、長編化が決まってからは実に7年もの歳月が費やされたそう。通常のアニメーションの作り方とは異なり、声の録音を先に行い、その音声に合わせ実在のロケ地にて実写背景を撮影、実写に合成するために緻密に作り込まれたスタジオでストップモーションを撮影していくという、CG技術が発達した時代に反し、とてもアナログな手法で制作された本作。手作り感溢れる質感でありながら、まるで現実世界と錯覚してしまうほどのスムースな表現技術の高さに圧倒されてしまいます。
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90分の本編のなかで描かれるのは、一軒家のなかで繰り広げられるマルセルと祖母コニーの小さな世界。テニスボールの中に入って家中を高速で移動したり、はちみつを塗った足で壁を歩いたりとマルセルたちの暮らしは創意工夫でいっぱい。おしゃべりで愉快なマルセルの姿を観ているだけでも十分癒されるのですが、中盤からは離れ離れになった家族を探す旅へと物語がシフトしてゆきます。
SNSに投稿された動画がバズり、驚くほどのフォロワーを獲得したマルセルは、「色々な考え方が拡散されてる/大勢の人が同じものを見て、同じことをしている/すごいことだ/僕のような存在は世の中にたくさんいるはず」と信じて外の世界へと文字通り踏み出しますが、現実はそう甘くないもの。人間の世界の広さを知るとともにフォロワーはあくまで観客であり、真の意味でコミュニティとしてつながることはできないことを悟ります。
映画のコピーにあるように、「貝だって人生は、ままならない」。無邪気で純粋な小さな貝が挫折や別れを経験し、周囲の力を借りてもう一度世界とつながろうと立ち上がる姿に、胸がじーんと温まり、自然と涙が溢れてしまうこと間違いなしの本作。小さいながらも可能性に溢れたマルセルの視点や自然と共生してゆく生き方など、私たちの日々を刺激する驚きに満ちた物語に仕上がっています。ぜひ大きなスクリーンでマルセルの瞳に映る広い世界を覗いてみてください。
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