サブスクが主流になり、外でも家でも大量のコンテンツを消費できる時代だからこそ、何を観たらいいのか分からない!という人も多いのでは?「シネマフリーク!!」では、映画館で上映中の話題作から、ちょっとニッチなミニシアター作品、おうちで観ることのできる配信作品など数多ある映像作品の中からライターの独断と偏見で、いま観てほしい一本を深掘りします。
今回は、2022年のベストサマーホラー映画として世界を席巻した、『X エックス』(2022)の前日譚であり、完結編の『MaXXXine(原題)』へと続くA24初のトリロジーシリーズとして話題の『Pearl パール』をピックアップ。ポップで鮮やかなミュージカル調の予告からは想像のつかない、悪魔的な恐怖と笑いが混在したカオスなシリアルキラームービーをご堪能あれ!
© 2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
タイトル:『Pearl パール』
監督:タイ・ウェスト
脚本:タイ・ウェスト、ミア・ゴス
出演:ミア・ゴス、デヴィッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=プーロ
配給:ハピネットファントム・スタジオ
2022年製作/102分/アメリカ
7月7日(金)よりTOHOシネマズ⽇⽐⾕ほか全国ロードショー
<あらすじ>
1918年、テキサス。スクリーンの中で踊る華やかなスターに憧れるパールは、敬虔で厳しい母親と病気の父親と人里離れた農場に暮らす。若くして結婚した夫は戦争へ出征中、父親の世話と家畜たちの餌やりという繰り返しの日々に鬱屈としながら、農場の家畜たちを相手にミュージカルショーの真似事を行うのが、パールの束の間の幸せだった。ある日、父親の薬を買いに町へ出かけ、母に内緒で映画を見たパールは、そこで映写技師に出会ったことから、いっそう外の世界への憧れが募っていく。そんな中、町で地方を巡回するショーのオーディションがあることを聞きつけたパールは、オーディションへの参加を強く望むが、母親に「お前は一生農場から出られない」といさめられる。 生まれてからずっと“籠の中”で育てられ、抑圧されてきたパールの狂気は暴発し、体を動かせない病気の父が見る前で、母親に火をつけるのだが……。
夏の風物詩とも言えるホラー映画。正直に言うと、私は苦手です。画面の背後に映る怪しい影やクローズアップされるグロテスクなビジュアル、象徴的な虫の羽音や鳥の鳴き声など、100分近くヒヤヒヤさせられるあの独特な心理状態が耐えられない。そんな私が最近ハマったホラー映画がこの『Pearl パール』です。
A24製作ということで気になりつつも、ホラー感満載のポスタービジュアルから観るのを避けていた第一弾の『X エックス』。今回は、主人公パールを演じるミア・ゴスのキュートな表情を捉えたポップなビジュアルやレトロで可愛いルックをSNSなどで見つけ、怖いもの見たさで鑑賞。結論、最高すぎました。
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舞台は1918年のアメリカ、テキサス州。1918年というと、第一次世界大戦の真っ只中かつ、数年間で5億人が感染したスペイン風邪が世界的に流行した、まさに受難の時代。そんな先行きの見えない世界の中で、“私らしい人生”を夢見るパールというキャラクターは、過去の時代設定ではありながらもどこか私たちの生きる現代にも接続しているような気がします。
彼女の内側に広がる空想の世界は非常に不安定で偏りだらけ。抑圧的な環境によって歪んだ感情は、物語が進むにつれて、“未知なる才能(Xファクター)”への憧れとともに肥大化。既婚者でありながら(夫のハワードは出征中)、街で出会った色男に惹かれた自分の感情に戸惑い、押さえ込んだ欲情を畑の案山子にぶつけるシーンは強烈!ここから彼女を律していたなにかがプチンと切れ、よりいっそう感情の都合に飲まれて暴走していくようになります。
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劇中では、パールの望む言葉や反応をくれない人や動物がザクザク惨殺されていくわけですが、ホラー嫌いな私がこんなに嬉々として観続けられる理由が2つあります。
まずは映像の質感。テクニカラーと呼ばれる1920年代から1970年代までの映像作品に用いられていた技術で、赤・青・黄に分かれた白黒フィルムを重ねて色を出すというもの。映画『オズの魔法使』(1939)でも使用され、セピアの映像からカラーの世界へと主人公ドロシーが足を踏み出すシーンに世界中が引き込まれたと語り継がれています。そんなどこか夢を感じさせてくれる鮮やかなフィルムだからこそ、残忍なシーンやおどろおどろしい映像が美しいフィクションとして魅力的に見えるのかなと。
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2つ目は、CGではなく血糊などアナログな方法で再現された特殊効果の数々。撮影場所となったニュージーランド ウェリントンを拠点とする、特殊効果会社ウェタ・ワークショップは、本作の監督であるタイ・ウェストが敬愛してやまない1970-1980年代のホラー作品にも携わる世界最高の特殊メイクや特殊効果のスタジオで、COVID-19によるパンデミックの影響でアメリカ国内での撮影が叶わなかったからこそ奇跡のタッグが実現したそう。
特撮や特殊メイクのチープさが好きな私からすると、斧で体を切断したときのソフビ感や嘘のように鮮やかな血糊や内臓など、まるでテーマパークにいるような感覚で、爆笑しながら観ていられるのもポイントです。
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このほか、古典ホラー映画に出てくるギミック満載のショットやカット割など、細やかな演出や潔すぎて目を疑いたくなるほどのパールの極端なキャラクターなどなど、惹き込まれるシーンがてんこ盛り。エンドロールの間に流れる猟奇的なパールの表情は、記憶に残るラストシーンとしてしばらく引きずりそうです。
本作を観てすっかりパールに魅了されたという方は、ぜひ前作の『X エックス』もご覧ください。ファンの多くは上映順に観ているかと思いますが、『Pearl パール』からの『X エックス』もとってもおすすめです。時系列としては、1918年から61年が経った時代設定となっていて、舞台もパールが住んでいる農場。そして、パールを演じたミア・ゴスが、農場にやってくるポルノ女優マキシーンと老婆となったパールの2役を演じ分けているのも見どころ。本作で描かれるパールと61年後のパール、そして宿命を感じさせるマキシーンとの対比や二作のなかで綿密に組み込まれた伏線の数々を探すのも楽しい作品です。
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