それぞれの現代を生きる皆様にお届けする新連載、“となりの「クィア」のリアルボイス”がスタート。
ドリアン・ロロブリジーダさんが本企画のホスト役となり何か新しい気づきとなるようなトークセッションを繰り広げます。記念すべき第一回目のゲストはアンドロメダさんにご登場いただきます。
___2023年現在、LGBTQ +という言葉は社会に浸透してきていますが、その中でもQ(クィア)に関しては言葉自体を聞いたことがない、意味をしっかり理解していないという方もいらっしゃるのでは? そんなクィアのこと、まずはその概念からドラァグクイーンでデイトナ文化部・部長でもあるドリアン・ロロブリジーダさんと、ジェンダー、セクシュアリティ、男女二元論のイシューを軸としたインディペンデントマガジン『IWAKAN Magazine』の創刊メンバー・編集者であるアンドロメダさんのお二人に解きほぐしていただきたいです!
ドリアン・ロロブリジーダ(以下:ド)「私の理解からお話しさせていただくと、LGBTという言葉がこの10〜20年ぐらいで少しずつ日本の中でも市民権を得てきました。近年では、L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)、 この4つの中にも当てはまらないセクシャリティやジェンダーを持つ方もたくさんいらっしゃるという認識が広がって、もともとのLGBTに“+”を付けたLGBTQ +という言葉が使われてきています。その上で、いちいちL・G・B・T・Q・I・A…と区分するのではなくて、もっと大きな意味で、いわゆるマジョリティと言われる、“シスジェンダーでヘテロセクシャル”に該当しない方々の総称となるのが“クィア”という考え方なのではないでしょうか」
アンドロメダ(以下:ア)「私もそれで合っていると思います。LGBTだけでは区切れないんですよね。私の周りには以前から『ゲイです』とか『バイです』と言う人たちが結構いたんだけど、最近の若者と話すと『ストレートではない、異性愛者ではない』と言っていたり。つまりシスジェンダーではないという所から始まるんです。カテゴライズされない物事に関してクィアっていう言葉はすごく力を持っていると思う」
ドラァグクイーン
ドリアン・ロロブリジーダ(Durian Lollobrigida)
IWAKAN Magazine 創刊メンバー・編集者 / ポットキャスト番組『なんかIWAKAN !』ホスト/ 写真家
Andromeda(アンドロメダ)
___クィアという言葉は少し前までは少し悪い印象を持たせるような言葉として使われていた気もしますが、どうなのでしょう?
ア「一般、日常、普通とされているものではないというニュアンスで、昔は悪い意味としてクィアという言葉が使われていましたね。でもクィアって “不思議な気持ち”という感覚にすごく近い。例えば、美術館の中に額縁がいっぱい並んでいて1個だけちょっと斜めになっている。そこでクィアな気持ちになる。ちょっと違和感を持って、ちょっと不思議で。でもそれを悪いじゃなくて、それをまっすぐに矯正しようじゃなくて、斜めのままで素敵じゃない?っていう気持ちが、今のクィアの考え方。ラベルをはっきりしなくてもいいっていう意味でのクィア。問いかける余裕がなかった人たちが、問いかけられるようになってきたなと思いますね」
ド「“普通”とされているものに対して、何かしらのクエスチョンだったり、違和感を問いかける側の総称や、問いかけられた側の感覚が、クィアということです。このクィアという言葉が元々蔑称や悪口だったということも個人的には印象的です。ゲイコミュニティやクィアコミュニティの人たちは、昔から様々な差別や攻撃を受けた際に、それをしっかり受け止めつつも、それを逆手にとって自分のものにして、その言葉の価値や意味すら変えてしまうという力を持っていたと思っています。ある意味で、少数派だからこそ持ち得た力やセンスなのかなとも思います」
ア「クィア以外でも侮辱として使われた言葉ってあって、例えば女々しいとか。女々しいってなんでダメ?ってね。今までのLGBTに対しての理解の進め方は『LGBTの人たちもみんな普通の人と同じような愛し方をしますよ、そんなに異常なものじゃないよ、安心してください』っていう意味だったけど、クィアはそれとも少し違う、でもそれも認めてほしいっていう意味で、すごく大事なことだと思うんです」
ド「我々みたいな装いや表現をしている人たちって、普通じゃないということに価値やプレミアムさを見出していたりするじゃない?」
ア「そうそうそう。生のままね」
ド「その感覚こそがクィアなのかなって思いますが、まだまだ日本ではこのクィアという言葉への理解が足りてなくて、多分私自身も完全には理解できていない。“職場においてのクィア”ということに関しても、今我々が全ての正解を答えられるような簡単なことではないんです。会社の規模や企業風土だったり、その人の特性だったり、あらゆる要素が関わってくる中で、試行錯誤していかなきゃいけないものだと思います。もしかしたらクィアという言葉自体が欧米から入ってきたというところでピンと来にくいのかもしれないですしね。でもそういった感覚は実は日本人も昔から絶対持っていると思うのです」
ア「めちゃくちゃ分かります。以前、三橋順子さんから弥生時代から女装した方の残ってる姿があったというお話を聞いて。明治時代から春と秋に女装するっていう歴史があったって私、知らなくて! めっちゃびっくりしました。知ってました?」
ド「以前に松涛美術館で開催された『異性装の歴史』という展示をご紹介させていただいたことがあって。日本における異性装というのはヤマトタケルノミコトの時代から始まっているんです。そこから今現在に至るまで、その感覚を我々はずっと持っているんですね。それって確実にクィアな感性だと思うし、それを面白いとか素敵だなって思う人たちがいた証として、歴史の中でも異性装を取り扱った作品が数多く残っていますし」
ア「そうそう。山の神様が降りてくるから花が咲いてくるっていう意味での花見や、死んだ方が戻ってくる秋(お盆)もそうだったんですよね。スピリチュアルなことに触れる時に、女装をする方がコミュニケーション取りやすいっていうのが歴史の中にある」
ド「もしかしたら今後、日本の様々な文化的・歴史的な背景と、海外から入ってきた言葉や考えがうまくミックスされて、新しい価値観みたいなものが生まれるかもしれない」
ア「そう。絶対そうだと思うよ。日本らしくそういう考え方があってもいいと思う」
ド「日本ってそういうの得意ですから。 外からのものを取り入れて、日本的な感覚をそこに織り交ぜることで、新たなものを作り出すのは昔からお手の物ですよね。でも今はまだ過渡期なので、クィアという言葉が1番分かりやすく使われるのかもしれません」
ア「あと当事者同士のコミュニティ内で理解しても、それを社会にどうやってそれを理解してもらうかというのも大きな課題ですよね」
ド「言葉というのは、得てしてそういうものだとは思うんですけれども、たとえば“オカマ”という呼び方も、我々が自称したり、ゲイシーンの歴史や文化を語る上で使う場合と、外から投げつけられる場合は全く温度や質感が変わってきますからね」
___相手をどう呼ぶかも、LGBTQ +のカテゴライズに当てはめるべきではないということですね。
ド「そう。属性じゃなくて、その人。欧米ではまず最初に人称代名詞を『こう呼んでほしい』と表明するし、『なんて呼べばいいですか?』と聞く時間がコミュニケーションの最初にあるじゃない。あれって日本でも出来得るものなのかしら?」
ア「まあ、でも日本語だと代名詞はあまり使わないじゃん? 会社とかだと名前で呼ぶから。でもそれはデメリットじゃなくてメリット」
ド「確かに日本語は常にHeやSheを使わなくてもいい言語だから、それはある意味逆手に取れるわよね。本当に、意識ひとつなんですよ。『彼女いる?』も『結婚どうするの?』もそう。あなたが普通だと思っていることが全員の普通じゃない。だから『みんな変!』って思っておけばいいんだと思います。私もあなたも変だけど、じゃあお互いどういう変同士なのか胸のうちを紹介し合いましょうよ! となれば、トラブルも起きにくい気がします」
ア「ね。多分、ドラマや映画なんかでずっと同じラブストーリーや同じ人間の関わり方を繰り返すだけのものしか観て来なかったから、これしかないと思ってしまっているのかも。ちょっと意識するだけで色んな人がいるし、違う関わり方が分かったらスムーズにいくんじゃ? でも、スムーズが正解というわけでもないと思うけど」
ド「そうね。合理化が完全に善だとすると、もうあらゆるコミュニケーションはいらなくなっちゃうからね」
ア「そうね。例えばね『彼女がいますか? ……あ、ごめんなさい。パートナーがいますか?』でもいいと思うの。その瞬間に当事者としたら頑張ってるなって思うし。間違ってもいいの! だって、どんな進歩でもスムーズに進んだことないじゃん! ローマとか作るのに戦争だらけでここまで来たんだし、それも人間のコミュニケーション。LGBTQ +を社会でどうやって理解していくかも何回もぶつかった上で進むこと。それは日常も大きな制度的なレベルまで一緒だと思います」
ド「こういった記事が上がることも含めてそうだと思うんですが、本当に少しずつの戦いでトライアンドエラーの真っ最中。一朝一夕で答えは出ないし、完全な解決法なんてないから」
ア「そう、難しい。当事者側からしても、コミュニティの中で意見違いもめちゃくちゃあるじゃないです?」
ド「めちゃくちゃあるよ!」
ア「例えばさっきも出てきた“オカマ”という呼び方を使うかどうか。絶対使っちゃダメっていうコミュニティもあるし」
ド「そう、意見が完全に分かれています。“LGBT”という言葉に救われた人もいるし、大嫌いな人もいます。今お話ししているこの話も、あくまでも私たち個人の意見で、我々の話がクィアのコンセンサスだと思って欲しくないですし、そんな単純で簡単なもんじゃねぇって思います。昨日までオッケーだった言葉が急に不適切な言葉になったりもするから、それこそ当事者じゃない人はもうちんぷんかんぷんだとも思うんですけれど、我々自身もちんぷんかんぷんなんです。ただ、その言葉によって深く傷ついている人もいれば、その言葉をむしろ誇りだと思う人もいて、そこは当事者の中でもバラバラっていうことも知っておいていただけるといいのかもしれません」
ア「クィアの力は、みんな違うからこそ定義できない物事に対しての綺麗な片付け方と言える。そこで終わっちゃダメと思うんだけど、すごく理解しやすい。とは言え、今使っている言葉もそれが正解とか失礼とか学んで更新していくべき。今うちらが当たり前に使っている言葉にも深い背景があるから本当の意味を考えるべき。例えば『男女って言うと、なんでいつも男性が先に来るの?』とか。日常使っている言葉で違和感を持たない言葉を探していきましょうって。でも細かく考えすぎるのも大変なので、もう基本的にジェンダーニュートラルな言語ができた方がいいんじゃないかと私は思います」
ド「それで言うと、Theyの登場って衝撃的だったの。だってTheyなのに複数系じゃないのよ!」
ア「英語では1人でも使うのよ」
ド「え、元々使うの? 知らなかった……。日本でも男権社会や家父長制への見直しという点で、すでに適切ではない言葉が多くなってきていると思います。“旦那”や“奥様”という言葉も、今の時代の価値観とは合わなくなってきているわよね。そんな言葉が少しずつ増えていく。言葉は生き物ですから、新しい言葉も使っているとそれが当たり前になっていくし、古い言葉にどこかで違和感を感じるようにもなるものだと思います。だからこそその言葉の由来や意味を考える習慣をつけることが建設的だと思うんですよね」
ア「多分、普通の人はその余裕がないですよね(笑)」
ド「そうね。私も全然使っちゃっていると思う。例えば“普通”という言葉もそう。使っていることを自覚しているからこそ、一度にすべてをアップデートするのは難しいなと感じているんです」
ア「うちらはわかりやすいクィアだしね。でも実はみんな内面にそれを持っていたりするから」
ド「それはセクシャリティーだけではなくて、例えば何かご病気を持たれていたり、様々なバックグラウンドだとか、家庭環境だとか、いろんな形のクィアをみんな内包しているはず。それをまずは認識することだと思うんですよね」
ア「LGBTQ +の方が苦しんでいる原因は、みんなが苦しんでいる原因と一緒だし、だからLGBTQ +が解放されたら、女性も男性も開放されるし、病気や障害を持っている方とか、全員が開放されていくから。私のために戦って欲しいんじゃないの。あなたのために戦って欲しいよって気持ち」
ド「マイノリティが生きやすい世界というのは、全員にとって生きやすい世界になるはず。誰しもが何かしらのマイノリティであるということに早く気付いて欲しいですね」
___日本は未だに家父長制が根強く、男性が本人の意思関係なく生まれながらに特権を持っている男性優位の社会だと思うんです。会社における管理職も男性が多かったり。それに違和感を感じていない方って、なぜかLGBTQ +など含めた新しい言語や価値観での話が通じないことが多い気がします。そういった方々を男女問わず私は勝手に“現象としてのおじさん”と呼んでいるんですが、そんな共通言語を持たない相手とはどんな風に話せばいいんでしょう?
ド「おじさんは手強いからな……」
ア「難しいよね」
ド「本当に難しいんですよね。会社の経営層の方に向けた講演をさせていただくことがあるんですが、そんな時はまず、企業にLGBT+の人がいることで様々なイノベーションが生まれる〜とか、強いチームになる〜とか、組織としての価値が向上する〜というようなことを伝えるんです。そうすると、『へぇ、そうなんだ』という感じでおじさんたちは聞いていただけるんですが、そういった内容ばかりを伝えてしまうと、社内での性的マイノリティへの取り組みを『儲かるからやる』となってしまう。最初のきっかけはそれでもいいのかもしれないですが、『それが当たり前だからやる』という考え方にシフトしないといけないと思います。生産性だけにフォーカスを当ててしまうと、儲からなかったらクィアは迫害していいのか? 突き詰めるとそういう感じになってしまうから」
ア「この前、IWAKAN Magazineでの街頭インタビューで 『LGBTQ +を聞いたことありますか?』っていう街頭インタビューをやっていて。渋谷では若者がみんな『あります! イエーイ!』って感じだったんだけど、有楽町でサラリーマンたちに聞いたら『あります。多様な方が会社に入ると利益が増えるって教えられています』っていう感じでした」
ド「だからある意味、“おじさん語”を使うしかないのかもね。幼児語のような感覚で、『わかりまちゅか〜』って合わせてあげるのが我々の戦略というか。したたかに賢くやんなきゃとも思います」
ア「やっぱり本音は、難しくてもうちらの言語で話したい。でも賢くやらないと、このままだと30年くらい待たないといけなくなる。おじさんは特権を謎に持たされているってことに気付いてないんですよ」
ド「だから様々な権利向上の運動に対して、『なんであいつらにわざわざ特権を与えるんだ!』と勘違いしちゃうんですよね」
ア「みんなが下から上がってくることで、自分の特権が失っていくっていう気持ちはあるからこそ、上げたくないんでしょうね。でも特権を失うことって悪くないと思いますよ。本来の自分に戻っていく感じというか。まあでもそれってお金で例えると、いきなりみんなに自分のお金を配ってくださいって言われている様に感じるから戸惑う。例えば新宿2丁目もいわゆるゲイの町じゃないですか。だから2丁目の中の人は特権を持つからそれをキープしたいし。特権って言いつつ、良いことばかりじゃないからこそ、日本の社会の中で自殺率が1番高いのは男性で特におじさん。そんな側面からも、特権をなくすのがものすごく課題」
ド「特権である半面、呪いでもあるんですよね」
ア「本当に。だから自分では気付けない。ある面で特権を貰いつつ、縛られている。本当にこの特権から解放されなかったら、ものすごく辛いことが待ってるけどいいの?って思う」
___特権を持つ方や管理職だったりする方が、この話を受けて『今の会社(社会)の状況を変えたい!』思ったときに、まずやれることってなんだと思いますか?
ド「本当に極論だと……、日本で可能かどうか分かりませんが、“スカートデー”を作ればいいと思います。みんなで絶対にスカートを履く日を作るの! なんかもう、揺らがせたい! おじさんたちを!」
ア「スカート、いいですね! まず入口を作らないと、それに紐づく連動や変化をいきなり受け入れることはできないから。なんかこう、石のちょっと割れやすいところをつっついてやったら、いきなりをドカーンと開くかも?」
ド「おじさんが『男とは〜〜』という感じで思っている古くさい考え方を、ちょっと揺るがせて、ちょっとした違和感を感じさせるように。まぁでもそれっておじさん自らはやらないからね…。社長が旗を振ってやって欲しい。『参加しないと査定に響いて給料減るぞ!』くらいの感じでやっていただきたいわぁ」
PROFILE
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アンドロメダ(Andromeda)
東京を拠点に活動するノンバイナリー/トランスジェンダーのドラァグ・パフォーマーであり、IWAKAN Magazine の創刊メンバー兼編集者、ポットキャスト番組『なんかIWAKAN !』のホストの一人、そして写真家。 人生経験から、ジェンダー、身体醜形障害、文化的帰属、伝統、人間と環境との関係といったテーマを探求する方法としてアートを用いて活動している。





