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#BEAUTY & HEALTH

枝優花の「心と体に効くモノ」 vol.6 山本奈衣瑠×枝優花「書くことで、私が暮らした地球と自分を研究している」

Interview / text:Yoko Hasada

Photo:Keta Tamamura

Edit:Kei Kawaura、Taiyo Nagashima

自分で自分の気持ちを上げるために、好きなもののなかに身を置いたり、自然の力に癒されたり、美味しいものを食べたり、現実から一度距離を置いてモノ・コトの力に頼る。自分を救う“おまじない”は、お金で買えることもある。そんな「あなたにとって“心と体に効くモノ”は?」――映画監督 / 写真家の枝優花さんがホストになり、やさしい人々を訪ね歩く対談連載。第6回は俳優、モデルの山本奈衣瑠さんです。

どうでもいいことから仕事のことまで、永遠に話せる大事な人です

─おふたりともプライベートでもよく遊ぶ、旧知の仲だとうかがいました。

 

山本:初めて会ったのが、カメラマンの小林真梨子ちゃんが企画してくれた1993年生まれのクリエイターを集めた企画展。特段しゃべる機会はなかったのですが、界隈のメンバーで作ったインディペンデントの雑誌で枝ちゃんにインタビューすることになったんです。同世代で映画監督をやっている子はいなかったし、男性が多い業界で女性が仕事することについても聞きたくて。

 

枝:ただ、指定された場所が雪山で(笑)。「インタビューの前にスノボを一緒にやりましょう」と言われて、ほぼ話したことなかったんですけど泊まり込みでインタビューをしてもらいました。

 

山本:人と話すときに、一度同じことを経験して身体の感覚を共有した後のほうが、会話の質が違うだろうと思ったんです。たぶん、相当変わってる企画だから、オファーを受けてくれる人は全員変わり者だった(笑)。

 

枝:もっとシュッとした感じの人かと思っていたら、雪山を見て「すごい!雪だよ!!」って、生まれて初めて雪を見た人みたいなテンションで喜んでて。でも、よく聞いたらその期間毎週スノボに来ていたらしく(笑)。なのにあの新鮮なリアクションができるのか……と。そこで、この人はちょっと面白いのでは、大好きな感じがする、と思ったんです。

インタビューの中で、これまであった大変なこととかを話したときに、もう私はエピソードトークみたいな感じで過去の笑い話としてしゃべっていたんですけど、ふと彼女を見たら大号泣してまして。私の過去の話を聞いて真剣に悔し泣きをしていて。そこで、スノボから彼女に感じていた何かが確信に変わりました。それがきっかけで仲良くなって、今では「生まれ変わったらどういう食感になりたいか?」とかどうでもいいことから仕事のことまで、永遠に話せる大事な人になりました(笑)。

直接会えない子には作品を手渡して、声をかけてる感じ

山本:はじめて話したときに、この人は私を傷つけないし、むしろもっと楽しいことが起こりそうな人だなと思って、よく仕事のことを相談してます。私は枝ちゃんが10年間培ってきた教訓を1回のお茶で習得しようとしてて、申し訳ないんだけど……。

 

枝:そんなことないよ(笑)。私にとって奈衣瑠ちゃんといるのはセラピーみたいなもので。全て自分ごとにしちゃうくらい感受性が豊かで動物的な感覚を持ってて。だから、最近感動した出来事や生活のなかで気になったこととか、みんなが普段見逃してしまうような瞬間を、会うたびにいきいき報告してくれるだけで癒やされるし、エネルギーをすごくもらえます。

 

山本:そうかな……すごい難しいのが、私たちってポエマーっぽく思われがちだけど、全然そんな優しくなくて、ただ“ある”ものに対して考える回数が人よりちょっと多いだけなんだよね。共通の友だちもみんな、似たような感じで。

 

枝:みんな、仕事も育ってきた環境もすべて取っ払って向き合ってくれる。それはきっと、みんな一回本来の自分ではない部分でジャッジされた経験があるからだなって感じた。

 

山本:ほんとにそうだね。だから、わからないことも「教えて」って構えずに聞けるし、経験していないことをバカにする人もいない。ただ、私たちはありがたいことにいい友だちに出会えたけど、そうじゃない人もいるじゃん。

 

枝:そうだね。普段SNSでいろんな人からいただく悩み相談を読んでいると、自分をフラットに受け止めてくれる存在がそばにいたら、もっと生きやすくなるだろうな、と思ったりする。だからこそ、全員に会うことや話を聞くことは難しくても、自分はなにができるんだろうって考えちゃう。そのときに、やっぱり私は映画を作る仕事をしているから、作品を通してつながりたいなと思うんだよね。直接会えない子には作品を手渡して、声をかけてる感じ。

山本:ほんとにそうだね。自分のためだけど誰かのために、っていう正義感みたいな気持ちは心のどこかにかならずあるし、多くの人に届く作品の持つパワーを自覚していたいよね。

 

枝:パワーがある分、悪い方にもいい方にも使えるんだよね。自分が満たされていないといい方向に使えない気がして、自分も救いながら誰かを想うっていう塩梅を探って作品を作っている気がするの。

 

山本:だから、私自身が満たされていないと何も感動できないし、発言できないし、誰かの力になるようなものを作るためにも自分の感情を大切にしなきゃなって思う。

お守りアイテム①ラジオ

─ときには心がざわついたり、落ち込んでしまうこともあると思うのですが、山本さんの心と身体を満たすモノを教えてください。

 

山本:私は普段から、音楽じゃなくてラジオを聞くタイプで。外を歩いているとき、電車に乗っているとき、朝から寝る直前までずっとラジオを聞いています。

 

枝:どんなのを聞いてるの?

 

山本:お笑い芸人さんのラジオがすごく好きで、ニッポン放送の「オールナイトニッポン」とTBSラジオの「JUNK」枠が好き。「オードリーのオールナイトニッポン」は7年くらい聞いてて、あとTBSラジオの「山里亮太の不毛な議論」「ハライチのターン」、芸人さんじゃないけれど安住紳一郎さんの「日曜天国」も欠かさず聞いてる。

リアルタイムで聞いてて、毎回同じ曜日の同じ時間にイヤホンでラジオを聞くことが自分のリズムを整えてくれるというか、それぞれのお部屋におじゃまする感覚になってます。そうすると気持ちがリセットされて落ち着くの。

枝:モードを切り替えてるってこと?

 

山本:そうそう。仕事で疲れたり嫌なことがあったりしたときって、友だちに話すと気が紛れるけど、誰にも会えないときってあるじゃん。そういうとき、私は頭の中であれこれ考えちゃうから「もう考えるのをやめよう!」と思ったらイヤホンを装備する。そうすると、ラジオの会話で頭がいっぱいになるから、無理やりだけど考えてることから一回離れられて。

お守りアイテム②穴の空いた靴下

山本:次がこれなんだけど……穴の空いた靴下です。

 

枝:ははは、なぜ!(笑)

山本:お洋服が大好きなんだけどたくさん買うタイプじゃなくて、お気に入りのものを長く着るから、靴下も決まったものをずっと履いちゃうんだ。そうすると穴が空いたり破れたりすることもあって、この間もトートバッグの底が全部抜けてしまったんだけど、自分で補修して。

 

枝:すごい、捨てずに自分でお直しするんだ。

 

山本:そう。直すのは楽しいなと思って、穴が空いたら捨てずに取っておいてたの。ある時、あんまり自分の精神がよくないな、おもしろくないなと感じた日があって。それでなんとなく、溜まってた靴下を縫っていたら……すっごい気持ちがおさまったのね。靴下のおかげで自分が復活して。

穴の空いた靴下に救われるなんて思っていなかったから、ずっと部屋の端に追いやられてた靴下は、どういう気持ちだったんだろうと思って。

 

枝:靴下の気持ち?

〜〜山本奈衣瑠の靴下劇場〜〜

靴下:今からお前のことを助けるぞ〜!部屋の隅に追いやって、見てろよ〜!

(山本、部屋に入ってくる)

山本:疲れた。

靴下:おい、来たぞあいつ!穴が空いてるから縫ってください〜

山本:チクチク……え!すごい!心が復活してきた。

靴下:そうだろ。俺はそうなると思ってたんだよ。

〜〜終〜〜

 

(全員、爆笑)

 

山本:そんな才能が穴の空いた靴下にあると思っていないじゃん。それからは取っておいて、何かあったときに縫って「ありがとう」って感謝を伝えてます。

 

枝:縫うことが、メンタルセラピーっぽいんだね。

 

山本:自分のためにただただ縫っているのがいいのかもしれない。その時間はすごく豊かだし、縫い終えたものを見ると私が傷ついた時間が確実にあったことが目に見えるから。

嫌なことを忘れたい気持ちもあるけど、絶対忘れてやらないって気持ちにもなるじゃん。常にポジティブ思考じゃなくて、ギザギザしたものも私の中にあるってことを自分でもわかっておきたいし、大切にしたいし、自分の力にしたい。形になって残ると、当時の気持ちを思い出せるからいいです。

お守りアイテム③ジェットストリーム0.5mm

山本:「ジェットストリーム 0.5mm」というボールペンが大好きなんです。書き味が最高に良くて、箱買いしてストックしてるほど。私はこれじゃないとダメ。

枝:本気のやつだ。

 

山本:ふだんから文字をよく書くんですよ。自分の目で自分の言葉や自分で書いた文字を見る時間を作るようにしていて。全く書けない日もあるけど、基本的には毎日ノートを開いて、思っていることをバーっと書き出すんです。ノートがないときはレシートの裏に書いて、後からノートに貼ったりして。お芝居をするときも、その物語に向かうために文字を書くから、平気でインクも全部なくなります。

 

枝:振り返りで書くとか、そういうわけじゃないんだ。

 

山本:自分の字を見るってことが大事なのかも。その日によって書く字が違うのが面白いなと思っていて、すごくきれいに書く日もあれば、「むかつく」って大きな字で雑に書いてる日もあって。その時の感情を俯瞰から見られるものって字しかないと思うの。そうやって私は私を知りたいんですよ。

 

枝:自分の感情の変化を記録しておきたいってこと?

 

山本:そう、「自分がなにを思っているのか」ってことがあまりにも大事だから、絶対忘れたくなくて。記憶にしがみついてるんだよね。それはきっと、その記憶が何年後かの自分を助けてくれるってことがわかっているからだと思う。ジェットストリームの0.5mmだと書きやすすぎて思っている以上のことを書けるんだよ。書くのが楽しくて、止まらないから。最後にハートマークとか足しちゃったりして。

 

枝:もう、ジェットストリームの人じゃん(笑)。

 

山本:ベッドサイドにノートを置いていて、一日の終わりに書くようにしているんだけど、その日にあったこと、匂いとか音とか感じたことを書く日もあれば、感情の動きを線で残しておくこともあって。こう……心が動くままに、線を動かすっていうか。

 

─心電図みたいなイメージですか?

 

山本:そういうことですね。盛り上がっている音楽を聞いてるときは線の動きも大きいし、落ちてるときは線が一定だし。自分の感情を俯瞰で見たいときにやってみると、すごくおもしろい。

「正しく自分に興味を持つ」の完全体

枝:書くことを続けられているのがすごいよね。いいなと思うけど、私は3年手帳を3冊持っているくらい、ひどい三日坊主。

 

山本:私にとって書くことは、研究に近い感じ。私が暮らした地球と自分を研究してる(笑)。自分が研究対象だし「なんでだろう星人」だから、研究的な感じで書いているのかも。

 

枝:これだけ感覚的だから、常に動物的に生きているのかなと一瞬思うけど、話しているとあまりにも自分のことをよく知っているから、それがすごいなと思う。その理由が、研究しているからなんだなって今日わかった。

 

山本:ありがとう。

 

枝:「正しく自分に興味を持つ」って本来こういうことなんだなって思う。自分がなにをしたら癒やされるのか、よろこべるのか、辛いのかってことがよくわかっていないのに相手には「理解してほしい」って気持ちが強い人が多い。だけど本当は逆で、まず自分が自分のことを知ってあげることが大切で。こういう風にできたら心も体も癒やされるし、とってもいいんだなと今日思いました。

PROFILE

  • 枝 優花

    1994年生まれ。群馬県出身。

    23歳にして制作した初の長編映画『少女邂逅』はインディーズ映画ながら異例のロングランヒット。また写真家として、様々なアーティスト写真や広告写真を担当している。マイブームは、ビタミンカラー。身につけていると元気が出る。

  • 山本 奈衣瑠

    1993年11月12日生まれ。東京都出身。

    モデルとしてキャリアをスタート。雑誌やCM、ショーと活躍する。2019年より俳優業にも乗り出し、映画「猫は逃げた」(21年、監督:今泉力哉)で⻑編映画初出演にして主演に抜擢。その傍ら、自ら編集⻑を務めるフリーマガジン「EA magazine」を創刊、クリエイターとしても精力的に活動している。

    マイブームはGoogle Mapsに口コミを残すこと。

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