唯一無比。つまり、誰にも似ていない表現性やセンスをまとっている音楽家の装い。そのファッションスタイルには、どんなバックグラウンドとストーリー、譲れないこだわりがあるのかを、フォトセッションとインタビューで紐解く連載。
第7回に登場するのは、松浦大樹。近年、国内を飛び越えてアジア圏で絶大な人気を誇っているバンド、She Her Her Hersのドラマーであり、TENDRE、Michael Kaneko、小原綾斗とフランチャイズオーナー、奇妙礼太郎などのサポートも務めている。そして、2021年に始動したソロプロジェクト、saccharinでは今この時代に響かすべき愛と悲哀とアイロニーを、歌謡とロックとソウルを共振させながら咆哮する、まさに唯一無比の音楽表現を打ち出している。母親が地元・茨城で営んでいたスナックが原風景にあるという、彼の表現と思想、装いのこだわりに迫る。


俺は、子どものころから母ちゃんがママをやっていたスナックにずっといたので人見知りしない性格なんですよね。初めて店に来たお客さんに何百人と接するから、子どもながらに「あなたに興味を持ってます」という感じで話しかけると、心を開いてもらえるということがわかるんです。
saccharinに関しては、自分の出自に逆らわない心象を叫んでいるだけで歌だとあまり思ってないんです(笑)。saccharinの曲の多くは最初に歌詞から書くんですね。言いたいことが明確にあって、そこから脳内に映像が出てきて、それを曲にするみたいな。ライブのあり方も含めて真面目になりすぎないのは、忌野清志郎さんや横尾忠則さんからの影響があると思います。

三島由紀夫もそうだけど、死生観を語る人が好きで。saccharin=サッカリンは人工甘味料の名称ですけど、日常生活に必要のなかったものを摂取してみたら意外と依存するよね、ということが裏テーマとしてもあります(笑)。自分のバックグラウンドとして人とはちょっと違う道を歩いてきたから、それを正当化したいという感覚もあって。不幸合戦をしていたら不幸なままだから、saccharinではNEW POPみたいな優れた虚像のような概念を生み出してたいと思ってます。自分の実像を救うためにめちゃめちゃ強い造語を作って、それを世に打ち出す。それは戦後に生きたミュージシャンやアーティストに通じてる部分もあるかもしれないし、今の時代にそこを突破したいと思った結果、saccharinの表現は歌謡性が強くなってるのかもしれないです。


このコーディネートはsuperNova.というブランドの服なんですけど、ずっと大好きで、山口卓さんというデザイナーの方がひとりで作ってるんです。自分の体格にフィットするし、身幅が広くてガバっとカッコよく着られる。俺は着丈マニアでもあるんですけど(笑)、着丈的にも生活に支障がなく品よく着られるバランスなんです。山口さんの服とは7、8年前に出会ったんですけど、彼はひょんなことから2年前に池ノ上に旗艦店をオープンして。そこでひとりで服を製作して、販売もしている。全部、ひとりでやっているという部分にも俺がやってる活動と重なってシンパシーを覚えたんです。山口さんもそこは同意してくれて。

俺のじいちゃんは最期に透析を受けて亡くなったんですけど、じいちゃんは透析に行く度に鏡の前で1時間くらいコーディネートして、髪をきれいにオールバックにして、ダブルのスーツを来て行ってたんですよ。本当はジャージとか寝間着でもいいのに。いつ死んでもいいように、一番カッコいい状態でいよう、という。勝負して透析に臨んでいた。俺は“透析デート”って呼んでいて、それもsaccharinっぽいなと思って(笑)。俺とじいちゃんは身体のスタイルも似ているから、俺もじいちゃんみたいに自分のマインドと重なるような服を着ていきたいと思いますね。
PROFILE
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松浦大樹
茨城県出身のドラマー/シンガーソングライター。ドラマーとして数々のライブやレコーディングの経験を積み、2013年に正式加入したShe Her Her Hersではバンドのブレインとしても手腕を発揮している。現在はドラマーとして、TENDRE、Michael Kaneko、小原綾斗とフランチャイズオーナー、奇妙礼太郎などのサポートを務める一方で、2021年に始動したソロプロジェクト、saccharinでは原風景にあるスナックの生々しい匂いや情景、物語をどこまでも独創的なNEW POPとして昇華し、現代に響かせている。
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