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#ART & CULTURE

CINEMA FREAK!! Vol.12 『チャレンジャーズ』

Text:Mikiko Ichitani

Graphic design:Ryutaro Suetsugu

Edit:FREAK MAG.

サブスクが主流になり、外でも家でも大量のコンテンツを消費できる時代だからこそ、何を観たらいいのか分からない!という人も多いのでは?「シネマフリーク!!」では、映画館で上映中の話題作から、ちょっとニッチなミニシアター作品、おうちで観ることのできる配信作品など数多ある映像作品の中からライターの独断と偏見で、いま観てほしい一本を深掘りします。

 

世界中を席巻する若きハリウッドスター・ゼンデイヤとイタリアの鬼才ルカ・グァダニーノ監督がタッグを組んだ『チャレンジャーズ』。ぜひスクリーンで体感してほしい今年一番のアドレナリンドバドバ系映画をご紹介します。

©2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.©2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. All Rights Reserved.

タイトル:『チャレンジャーズ』

監督:ルカ・グァダニーノ

出演:ゼンデイヤ、ジョシュ・オコナー、マイク・フェイスト

配給:ワーナー・ブラザーズ映画
2024年製作/131分/アメリカ

公式HP:https://wwws.warnerbros.co.jp/challengers/

<あらすじ>

テニス選手のタシ・ダンカンは確かな実力と華やかな容姿でトッププレイヤーとして活躍していたが、試合中の怪我により選手生命を絶たれてしまう。選手としての未来を突然失ってしまったタシは、自分に好意を寄せる親友同士の若き男子テニス選手、パトリックとアートを同時に愛することに新たな生きがいを見いだしていく。そして、その“愛”は、彼女にとって新たな“ゲーム”の始まりだった。

『君の名前で僕を呼んで』(2017)でティモシー・シャラメを世界的スターへと押し上げたルカ・グァダニーノが今回新たにタッグを組んだのは、トム・ホランド版『スパイダーマン』シリーズのヒロイン “MJ” として大ブレイクを果たしたゼンデイヤです。

 

子役から活躍していて、ティーンにも大人気の彼女にとって本作が初単独主演作品というのが信じられないくらいなのですが、そんなゼンデイヤ自身もプロデューサーとして参加しているこの『チャレンジャーズ』。

 

予告を観て、「テニスよく分かんないしな」とか「はいはい、三角関係の恋物語ね」と思った方、騙されたと思って観てみてください。この映画はそんな一言ではくくれない、愛と欲望が絡み合う極上のエンターテイメントなんですから。

©2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. ©2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. All Rights Reserved.

ゼンデイヤ演じる主人公のタシを中心に物語を進めるのは、12歳から寄宿制のテニスアカデミーで苦楽を共にしてきたアートとパトリック。ミュージカルや舞台、映画と幅広く活躍するマイク・フェイストとドラマシリーズ「ザ・クラウン」(2016-23)でチャールズ皇太子を演じ注目を集めるジョシュ・オコナーが対照的で魅力的な二人を演じています。

 

映画は王者の風格を醸し出すアートと粗野でパワフルなパトリックとのテニスの試合シーンからスタート。出だしから汗だくの二人を観ながら、手に汗握っていると審判の背後からコートを抜けて、観客席の中央に鎮座するタシへとカメラが一直線に向かっていきます。

 

ボールの打音がビートのように刻まれ、気づけば観客のトランス感をブーストするテクノサウンドへ。そこから物語は現在の試合の流れと並行して、三人の過去へと行ったり来たりを繰り返す構造になっています。

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三人の関係性をざっと説明すると、タシはトップアスリートの夫・アートと二人三脚で世界を回っている妻兼コーチというハイスペックなキャラクター。世界大会を過去6回優勝してきたトップ選手でもあるアートですが、全米オープンだけはどうしても獲ることができずスランプ状態に陥っています。

 

そこでタシは、アートの再起をかけてプロ選手のなかでもランキング下位の選手たちが、世界大会のトーナメントをかけてエントリーする「チャレンジャー大会」への参加を手配するのですが、そこで待ち受けていたのはかつてアートの親友であり、長年プロとしてくすぶり続けるパトリックでした。

 

さかのぼること13年前、全米オープンのジュニア部門男子ダブルスの試合に “Fire & Ice” という愛称で出場し、優勝を果たしたアートとパトリック。同じ日に、女子テニスのジュニアのなかでカリスマ的な人気を集めるタシと出会い、決勝戦での力強いプレースタイルに一瞬にして惚れ込んでしまいます。パーティー会場でタシに近づき、忘れられない一夜を過ごした二人。そこから彼らの三角関係が始まってゆきます。

©2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. ©2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. All Rights Reserved.

過去の回想に合わせて、タシをかけたアートとパトリックの関係性と現在進行形のゲームが比例して進んでゆくのですが、その関係性というのが何通りにもひねくれているんですよね。というのも、二人の間にはライバル心だけでなく、過去の慈しみや羨望、罪悪感などいろいろな感情が渦巻いているから。

 

実際にまだ三人が頻繁に顔を合わせていた学生時代のシーンでは、ものすごい至近距離でチュロスをかじり合いながら恋バナをしたり、噛んでいたガムを素手で受け取るなど一般的な友情を超えた愛情表現が至るところに散りばめられています。

 

これまでも同性愛と欲望をモチーフに多くの作品を発表してきた監督の手腕がひたすらに際立っていて、そういった一つひとつの細かなシークエンスに対する音や画角、スピード感などどれもがバチっと決まっているのが最高に気持ちいいんです。特にカメラは、きわどい位置にありながらセクシーさとコミカルさのバランスが本当に絶妙。

 

劇中では、タシとの激しいキスシーンなどもありますが、それ以上も以下もなく露骨な性表現が実はあまりないというのも驚き(映画自体はPG12)!なのに、観終わったあとに不道徳さやいやらしさでアドレナリンがこんなに出ているのはなんでなんだろうと不思議でたまりません。

©2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. ©2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. All Rights Reserved.

演出効果として大きな役割を果たしている音楽は、デヴィッド・フィンチャー監督作品にも名を連ねるナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナー&アッティカス・ロスが担当。

 

監督からのオファー時に送られてきた「A very sexxxxxxxy movie」というテキストと、「映画の最初から最後まで乗せて行ってくれるような音楽」というお題から生まれたスコアは、BPM130-145を中心としたテクノサウンドによってブォンブォンと物語を加速させるエンジンのような存在感を発揮しています。

 

個人的にはエンドロールでトレント・レズナーが歌う「Compress / Repress」が大好きなので帰り道にでもぜひ聴いてみてください。(アホみたいな歌詞をねっとり歌いつつ、よく聴くと映画のテーマにしっかりとハマってるところがまた沼ります)

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FREAK MAG.をみているファッション好きのみなさんに向けたポイントとして、LOEWEのデザイナーであるジョナサン・アンダーソンの手がける衣装も見逃せません。三人のバックボーンや気質、時代性を色やデザイン、そして私たちのよく知るブランドによって表現する手腕はとにかく見事。実在するレジェンドプレーヤーたちからのインスパイアを想像させるテニスウェアにも注目です。

 

ちなみにアートは2022年に引退した芝の王者ロジャー・フェデラーの後期と同じユニクロのウェアとオンのシューズ、そのほか道具も一緒のブランドを使用(若手時代は二人ともナイキを着用)。

 

パトリックは下位選手ということで、ブランドがバラバラで好きなものを着ているような印象ですが、ここもフェデラーの盟友であるラファエル・ナダルを想起させるような力強く雄々しいカラーリングがさえています。

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これまでも『胸騒ぎのシチリア』(2015)でディオール時代のラフ・シモンズを起用したり、ドラマシリーズ「僕らのままで / WE ARE WHO WE ARE」(2020)では16歳の主人公の私服としてさまざまなメゾンのコレクションピースが登場したりと、衣装にまで余念のないルカ・グァダニーノ(2019年にはフェンディでコラボコレクションも作ってます)の真骨頂ともいえる眼福のウェアたちは、ファッショニスタたちの物欲を刺激すること間違いなしです。

 

監督ならではの演出が光る本作ですが、脚本はこれが初長編作品となるジャスティン・クリツケスによるもの。以前紹介した『パストライブス/再会』のセリーヌ・ソン監督の夫としても知られており、あの映画で出てくるアーサーのポジションとも言える彼の目線で描いた男女の三角関係というのも面白いですよね。

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終始リズミカルに物語が展開していくので、話についていくのが精一杯だったりもするのですが、再鑑賞をしたことで脚本の秀逸さを改めて感じることができました。例えば、タシと出会う前にアートが入院中のおばあちゃんにいいところを見せたいという理由から、パトリックにシングルスの決勝戦で負けて欲しいと相談する場面。

 

そこでパトリックは、ジュニアで優勝するとプロになってから成功しない呪いのようなものがあるからとあっさり快諾します。その後の二人の将来はまさにその決勝戦の結果によって呪いにかかるような展開になってゆきます。

 

また、ところどころで出てくるタシにとってのテニス理論。一番最初に彼女がいうのは「関係性(リレーションシップ)」だということ。コートに入ると相手の考えが理解できるようになり、関係性を深めていく過程について話しているのですが、この映画全体がまさにこの理論によって組み立てられています。

 

求めるのは最高のテニスを見ることだと言い放つ彼女が求めるのは、文字通りのテニスなのか、コート上の二人のリレーションシップなのか。夫を支える妻という視点を外すと、矛盾をはらんだ彼女の欲望が透けてくるのも本作の不道徳な魅力といえます。

©2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. ©2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. All Rights Reserved.

なにはともあれ試合には終わりがくるわけですが、ラストの試合展開は圧巻。本人視点はもちろん、真俯瞰、そしてコートの下から透過した視点、さらにはボール視点と一体どれだけのカメラで撮影したのか?!と言いたくなるほどのカット割がラリーに合わせて転換していきます。

 

この試合シーンの撮影には8日間もかかったというのも納得の完成度。テニスのラリーを映しているだけなのに、音、映像、編集の秀逸さによって物理的な性行為のリズムに脳内変換させられるようなこれまで味わったことのない高揚感は必見です。

 

正直、131分の本編を観終わってから思い返すのはこの三人のことだけ。もちろん家族やテニス関係者などいろいろなキャストが出ているのですが、それらの人々がへのへのもへじに思えてしまうほどに、三人のキャラクター性が強く、前のめりで彼女たちの物語に没頭してしまうというのはこの映画の強さだなと思います。それでいて、純粋な恋愛映画でも熱いスポーツ映画でも、はたまた社会的メッセージもない。

 

「I TOLD YA(だから言ったでしょ)?」とニヤニヤしながら感想を語り合いたくなる映画です。

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