今や全国のどこかで一年中フェスが開催されていて、音楽フリークにとっては嬉しい限り。特に夏と言えば夏フェス! 仲間と一緒に遊びにいく音楽フェスは最高の思い出になる。
フェスごとに特徴やメインになるジャンルは異なるものだが、日本で1番アグレッシブで攻撃的なフェスと言えば、PIZZA OF DEATH RECORDS主催のSATANIC CARNIVALだろう。パンク、ラウド、ハードコアにフォーカスし、常にモッシュとダイブが吹き荒れるフェスである。同フェスがスタートしたのは2014年、今年の6月に第10回目の開催を大成功に収めた。
そんな国内最大級に暴れられるフェスについて、どんなコンセプトや思いを込めて10年以上運営を続けてきたのか。総合プロデューサーのI.S.Oをインタビュー。
ーSATANIC CARNIVALはパンクやラウドに特化した音楽フェスです。初開催が2014年、2024年で11年目、記念すべき10回開催を迎えました。ここまで偏ったラインナップで開催されるイベントも日本には少なかったと思います。こういったフェスを2014年に開催しようと考えた経緯から教えてください。
I.S.O:2010年代前半、パンクやラウド、ハードコアといった音楽をやっているバンドは各々に活動していて、一ヶ所に集中したときにどれだけの集客力や影響力があるのかが見えにくかったんです。いわゆる90年代から2000年までをAIR JAM世代(※)とした場合に、次の10年を担うバンドを集めたらどれだけのパワーがあるのか。そんな場所を作ったらシーンが明確化されていくんじゃないかという考えがありました。それも、2、3000人キャパではなく1万人以上を集めるフェスレベルのイベントが当時なかったので、自分たちPIZZA OF DEATH RECORDS主催でやってみようと。それが始まりでした。
AIR JAM……Hi-STANDARDが1997年にスタートさせたパンク・ラウドミュージックとエクストリームカルチャーを融合させたロックフェス
ー2014年にSATANIC CARNIVALがスタートした頃、よく「ライブハウスシーンの居場所」と例えられました。そこは主催として意識した部分ですか?
I.S.O:パンクやラウドバンドを集めるということは、普段はライブハウスに生息している人たちを集めることになるので、自然と大きいライブハウスであるかのような居心地のいいフェスになったんだと思います。
ーたしかに大きいライブハウスという形容が1番マッチしているフェスですよね。
I.S.O:自ずとそうなるんですよね。パンクやラウドが好きな人が集まると、屋内外問わずライブハウスっぽくなるってことを10年続けてきて体感しました。
ー今でもそうですが、90年代からPIZZA OF DEATH RECORDSは国内パンクロックシーンを牽引する随一のインディーズレーベルです。そんな名レーベルとしてシーンを背負っていこうという考えはスタート当時あったんですか?
I.S.O:僕はPIZZA OF DEATH RECORDSに所属しているわけなので、そういった矜持みたいなものはあったので、旗振り役をPIZZA OF DEATHが担うべきだと考えていました。ただ“PIZZA OF DEATHのイベント”という看板を打ち出したくはなかったんですよ。シーンを象徴するようなイベントを作り上げていきたいという気持ちがありました。その思いは10年続けることで形にすることができたと実感しています。
ーSATANIC CARNIVALと言えば、ダイブにモッシュが1日中巻き起こるフェスでもあります。厳しく禁止しているイベントも多いので、その文化が容認されているところが、他フェスとは決定的に異なる点だと言えますね。
I.S.O:ダイブやモッシュはフェスシーズンになると必ず話題に上がることですよね。SATANIC CARNIVALでは、これが合意形成によって実現できています。文化や歴史の側面から見て参加者が承知の上でやれているということになるんじゃないですかね。2000年当初、その辺りはノールールでめちゃくちゃでした。そこから、いろんな意見が生まれ、本当にたくさんの事象があった中で、現在の枠組みやルールが出来上がっているんだと思います。
今なお、こういった祭りができるという合意形成と、そういう人を集められているからサタニックのようなフェスが成り立っていると思っています。まさしくフリークスの集まりですね(笑)。ライブハウスや、この音楽への愛がある人たちがいてくれているお陰で今があるんだと思います。そんな中でも徐々に変化は生まれていて、子供が安心して観れるようにファミリースペースを設けたり、人と接触しないエリアを作って各々の望む形で楽しんでもらえるようにしていますね。決して排他的なフェスではないです。
ーでは、SATANIC CARNIVALを主催するうえで、もっとも大変なのはどういうことですか?
I.S.O:まさにダイブやモッシュなどによる怪我です。やっぱり怪我はしてほしくないので、いかに最小限に留めるか、できれば無くしていくのかっていうことを考えたり周知するのが1番大変です。セキュリティやバリケードの配置などイベント側としてできることは最大限努力するのですが、モッシュピットの中にまで入っていくわけにはいかないので、どうしてもお客さんに頼らざるを得ない部分が出てくるんですよ。なので、事前に怪我を回避するように毎年何度も同じことを発信し続けています。本当に奇跡のバランスで毎回できているんだと思いますね。
ーSATANIC CARNIVALが始まって10年ですが、2000年以降、音楽のシーンも大きな変化があったと思います。この時代の変化に対してどう向き合ってきたんですか?
I.S.O:イベントオーガナイザーではなくレーベルの人間という立場で言うと、ここ20年間の変化は壮絶でしたね。特にユーザーへの音楽の届け方が目まぐるしく変わりました。iTunesによって音楽はデジタルでやり取りされるようになってCDが売れなくなり、サブスクの台頭によってすべてがガラッと変わり、そこに輪をかけてコロナ禍は本当に大きかったです。では、そんな時代の変化によってライブハウスの現場はどう変わったかと言うと、これが意外と世間の動きとは別軸だなっていう。もちろんライブハウスに来るきっかけは人によって千差万別でしょうけど、現場感みたいなものは意外と変わらないんだなって思いますね。
今、このシーンでは日本語詞のロックが人気なんですけど、やっぱり日本語詞の方がSNSでも圧倒的にパッと耳に入ってくるじゃないですか。それを聴いた人がライブハウスに来てライブを楽しみ、そういうシーンのキッズになっていくんですよね。そのプロセスは2000年の頃と同じだと思うんです。まずは知ってもらって、あとは現場でやるべきことをやっていくってことですね。ただ、回転速度は異様に速いしアーティストの低年齢化は進んでいます。SNSやサブスクの効果もあって、若くして世に出るアーティスト、バンドがかなり増えました。そこは20年前との大きな違いですね。
ーライブハウスシーンという意味で、肝心なところは意外と変わらないというわけですね?
I.S.O:ええ。とあるバンドを知るきっかけが何かのタイアップであったかもしれなくても、ライブハウスまで足を運ばせたいと思えるほどの魅力を、バンドが発信できているかどうかというのは今も昔も変わらない本質の話ですし、そこが変わらない分、大事にすべきものを大事にしていけば変化にもついていけるんじゃないかって気がしていますね。変化しているようで実は変わっていないのかもしれません。そして、そういう本質的にカッコいいバンドをイベントに呼び続けたいと思っています。
ーでは、この10回のSATANIC CARNIVALを振り返って、思い出されることは何ですか?
I.S.O:今パッと頭に思い浮かんだのは2023年の大トリ、Hi-STANDARDのライブですが、特定のバンドの何かというより、毎年トリのバンドのライブは大きいです。毎回、イベントとの物語性や繋がりを意識してトリをオファーしているので、どのバンドもその年を象徴するライブを展開してくれるんですよね。なので、風景として深く心に刻まれます。あとは10-FEETがやってくれる特攻を使ったボケとかになりますかね(笑)。
ー今後もSATANIC CARNIVALは続いていくと思いますが、スタートした頃と同様に「ライブハウスの入り口」となるようなフェスとして運営されていいくんですか?
I.S.O:はい、そこは変わらないですね。サタニックで誰かがMCでも話していたように、フェスはバンドのカタログ的なもので、その入り口から入っていった先は深く、味わい深いものが存在するので。結局、ライブハウスで繰り広げられているものの集合体がサタニックですし、ライブハウスに通うお客さんが大半を占めているわけで、それゆえの居心地のよさや面白さがあるんです。是非、ライブハウスへどうぞ。SATANIC CARNIVALが、そのきっかけになれば嬉しいです。
PROFILE