セックス・ピストルズやカート・コバーンにはじまり、現代ではカニエ・ウェストやリアーナ、ブラック・ピンク、日本ではドラゴン・アッシュのKjやKing Gnuなど。その時代を象徴する偉大なミュージシャンは、みんなファッションアイコンだ。
本連載では、この理論に基づき現代のファッションアイコン、そして次世代のファッションアイコンとなるミュージシャンを発掘し、彼らのファッション的ルーツを掘り下げていく。
第13回目は、YENTOWNのメンバーでありソロとしても活躍するラッパー、kZm。約4年ぶりとなる3rdアルバム『DISTRUCTION』をリリースしたこの絶好のタイミングに、自身のルーツを振り返ってもらった。
その洋服が異国でどう作られたのかに思いを馳せるのが好き
ーファッションスタイルのルーツと聞いて、思い浮かべるものは?
kZm:小学6年生とか中学校に入りたてくらいの頃、AppleのiPodのCMで流れていたエミネムの『Lose Youself』を観て、「なんだこれ!?」「洋服デカっ!!」と衝撃を受けました。多分それが最初にHIPHOPを意識した出来事だったと思います。それからしばらくの間は“デカけりゃなんでもかっこいい”という盲目的スタイルでしたね。近所のアフリカ系黒人ショップに行っては「このお店で 1番デカい服をください!!」って感じで服を買ったり。音楽面で言うと、自分の父親が音楽好きだったので物心つく前から触れていたと思います。でも、父親自身がカルチャーを好きなことと、息子もそうなっていたことはちょっと違ったみたいで。僕のバカデカい服装をすごく嫌そうな目で見ているのを、子供ながらにヒシヒシと感じていました(笑)。
ー(笑)。じゃあ入りはU.S.のHIPHOPカルチャーってことですね。
kZm:そうです。着ていた服もショーンジョン(Sean John)とかインポートブランド中心で、もう本当に“the U.S.”って感じ。当時はファッション誌に目を通していなかったから、裏原はもちろん日本国内のストリートシーンに疎かったんです。スワッガー(SWAGGER)の名前は知っているけど、日本ブランドなのか海外ブランドなのか正直区別がついてない状態だったし。主な情報源はドン・キホーテに売っていた海外アーティストたちのPVの詰め合わせみたいやつ。よく友だちと一緒に観たりしていました。
ーkzmさんといえば、バスケットボールがルーツにあることも有名な話ですよね。
kZm:元々バスケをやっていたことや、代々木公園のバスケコートでよく遊んでいたこと、当時知り合った仲間たちの存在は間違いなく自分のルーツになっていると思います。
ーオーバーサイズが好きなのはずっと変わらず?
kZm:ですね。着ていて楽だし。でもNew BoyzやTygaを知った高校生の半ばぐらいから、スキニーパンツばかり履いていた時期もあります。これでもかってぐらい腰履きするスタイルで(笑)。
ー懐かしいですね(笑)。昔も今もHIPHOPに基づくリアルなスタイルを一貫しているkzmさんですが、服選びにおいてポイントにしていることはありますか?
kZm:“人と被りたくない”という思いは根底にあります。ただ、服にめちゃくちゃこだわっているかと聞かれるとそうでもない気がします。例えば僕は古着が好きだけど、何年代の何々とかは詳しくないし、着ている理由が友だちの服だからってこともよくあります。自分がかっこいいと感じたものを着るようにしている、って感じなんですかね。
ー逆に言えば、ブランドに左右されない服選びとも言えますよね。最近気になるブランドや購入したアイテムは?
kZm:ブランドはまったく気にしないし、ほとんどわかりません(笑)。最近だと、フェイクアズフラワーズ(FAF=Fake Ass Flowers)とジェンイェ(JIAN YE)はよく着ています。どちらも友だちのブランドで、フェイクアズフラワーズはベーシックなんだけど私服すぎないというか、その絶妙な塩梅に都会的エッセンスを感じます。ジェンイェは服作りの発想がすごく面白くて。パンツの裾が取り外せて、それをバッグにできたり。ステージ衣装としてもよく着ます。最近買ったお気に入りは今日も履いている、袴のように太いリーバイス。イタリア製らしくて、古着屋で買いました
鏡に映る自分の印象が音楽になりファッションスタイルに繋がる
ーステージ衣装と私服は分けて考えたいタイプですか?
kZm:以前は自前の衣装だったから私服と大きく変わらなかったです。でも、スタイリストのauskouにお願いするようになってからは、自分では絶対にできないような発想のスタイリングが増えました。今では細かく説明しなくても自分のことを理解してくれる心強い存在だと思っています。まぁ、めっちゃ暑くて重い服もあるんですけどね(笑)。
ーエミネムのスタイルが自身の初期衝動だとして、他にスタイルがあってかっこいいと感じるアーティストはいますか?
kZm:スウェーデン出身の音楽集団、ドレインギャング(Drain Gang)に所属するBladeeとEcco2k。一見ダサいようなファッションをクールに見せるのが今っぽいスタイルだとしたら、ここ10年ぐらいの間でそれを最初にやったアーティストは彼らだと思います。彼らはスウェーデンというU.S.やU.K.などのメインストリームではない地からカルト的ムーブメントを起こしているアーティストだし、そういう点も単純にすごいなと思います。
ー“ファッション”って結局のところ、何なんでしょうね
kZm:急に難しい質問がきた(笑)。言い分や感じ方はそれぞれ異なって当然ですけど、ひとつ言えるのは誰にでもモテたい願望ってあるんじゃないかなと思います。自分を魅力的に見せてくれるのがファッションであり、より多くと繁殖したいがゆえの行動、かな?
ー本質を突いた良いアンサーだと思います!では、8月にリリースした3rdアルバム『DISTRUCTION』について少しお聞きします。直訳すれば「distruction=破壊」なわけですが、そこにどんなメッセージが?
kZm:僕の中で1st、2nd、3rdはつながっていて、このアルバムを出したことでやっと1周できました。地球上の「円」に対する美学とか、循環する美しさを自分なりにイメージしているので、そのあたりを意識してもらえるとさらに面白いんじゃないかなと。他にもいろんな思いがありますけど、やっぱり音楽から感じてほしいので、言えるのはここまで。
ーアルバム製作もひと段落ついたところで、これからやりたいことなどは?
直近の話ではないんですけど、歳を重ねていくなかで、自分たちの居場所が作りたいと思うようになりました。今は先輩たちが作った空間で遊ばせてもらっている感覚がけっこう強くあるので。良い物件を知っている人はぜひ紹介してください(笑)。
PROFILE
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kZm
1994年生まれ、東京都出身。日本のHIPHOPクルー「YENTOWN」のメンバー。2018年に1stアルバム『DIMENSION』、2020年に2ndアルバム『DISTORTION』をリリース。2024年、3部作構成の集大成的作品となる3rdアルバム『DISTRUCTION』を発表。楽曲製作以外にコレクティブ/レーベルの「De-void*」を手がけるなど幅広く活動を行う。