UPDATE : 2024.09.04

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#ART & CULTURE

CINEMA FREAK!! Vol.13 『一流シェフのファミリーレストラン』

Text:Mikiko Ichitani

Illustration:Ryutaro Suetsugu

Edit:FREAK MAG.

サブスクが主流になり、外でも家でも大量のコンテンツを消費できる時代だからこそ、何を観たらいいのか分からない!という人も多いのでは?「シネマフリーク!!」では、映画館で上映中の話題作から、ちょっとニッチなミニシアター作品、おうちで観ることのできる配信作品など数多ある映像作品の中からライターの独断と偏見で、いま観てほしい一本を深掘りします。

 

今回はディズニープラスで楽しめる話題のドラマシリーズから、「一流シェフのファミリーレストラン」をピックアップ。シカゴの小さなサンドイッチ店を舞台に繰り広げられる、どん底レストランの成長や人間模様、過去との向き合い方をスタイリッシュに描いたヒューマンドラマです。

© 2024 FX Productions, LLC

タイトル:「一流シェフのファミリーレストラン」

監督:クリストファー・ストーラー、ジョアンナ・カロ

出演:ジェレミー・アレン・ホワイト、エボン・モス=バクラック、アイオウ・エディバリー、ライザ・コロン・ザヤス、アビー・エリオット、エドウィン・リー・ギブソン、マティ・マセソン

配信先:ディズニープラス

公式サイト:https://www.disneyplus.com/ja-jp

<あらすじ>

超一流レストランでシェフとして活躍していたカーミーは、亡き兄マイケルの遺したシカゴのサンドイッチ店「The BEEF」を引き継ぐが、ギリギリの経営状態、気が強く一筋縄ではいかないスタッフたち、ぎくしゃくした家族関係など問題が山積みの中で、店と自分自身を変えようと奔走する。

 

昔ながらのやり方に固執する喧嘩っ早いリッチー、カーミーの下で働きたいと店を訪れる新人シェフのシドニーなど個性豊かなメンバーと時にぶつかり合いながらも、前に進んでいく——

© 2024 FX Productions, LLC

夏休みも終わり、気がつけば2024年も後半戦真っ只中。とはいえ、いまいちやる気が出ないという人も多いのではないでしょうか?そんな方におすすめしたいのが、現在ディズニープラスで配信中のドラマシリーズ「一流レストランのファミリーレストラン」です。

 

本国アメリカでは爆発的人気を誇り、第75回プライムタイム・エミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞など主要部門賞を総なめ。来る9月16日の第76回においても、23部門でノミネートを果たすほど高く評価されている本作。

 

主人公カルメン(通称カーミー)を演じるジェレミー・アレン・ホワイトは、この作品でゴールデングローブ賞男優賞(ミュージカル・コメディ部門)を2年連続で受賞し、今年はカルバン・クラインの広告塔にも選ばれるなど、文句なしに今最もホットなセレブリティの一人です。

亡き兄が遺した地元のサンドイッチ店「BEEF」を引き継いだカーミーは、ニューヨークの高級フレンチレストランやあのノーマでも研鑽を積んだ三つ星シェフ。対して、父の時代から続く家族経営のサンドイッチ店は不衛生な環境のもと非効率なシステムに慣れてしまったスタッフたちが切り盛りしていて、繁盛こそしていないものの地元の人々の憩いの場所となっています。

 

何も変えたくない古参スタッフとプロフェッショナルな視点で店を改革しようとするカーミーとの間にある確執は深く、シーズン1の出だしは常に怒号と罵声が響き渡るカオスなキッチンシーンが中心。観ているだけでカロリーを消費するストレスフルな展開に離脱してしまうという人も多いのですが、どうか極限まで耐えて、耐えて、耐え抜いてみてください。苦痛の分だけ心救われるドラマがその先に待っているはずなので……!

© 2024 FX Productions, LLC

このドラマの見どころは本当にたくさんあって、名場面を数え出したらきりがないのですが、働く人々の共感を集めるお仕事ドラマ、胃袋をつかむグルメ番組、悲しみや挫折から立ち直る再生の物語というふうに、さまざまな角度から楽しむことのできる奥深さが最大の魅力だと思います。

 

シーズン3まで配信されていますが、全シリーズともに基本的には「BEAR(シーズン1まではBEEF)」のスタッフとカーミーの親族が中心。むしろ舞台もほとんどが店の中というほどシンプルな構成です。

© 2024 FX Productions, LLC

それなのに、ついつい一気してしまうほど飽きさせないのは、テンポの良い編集や多彩なサウンドトラック、そして登場人物の心情に寄り添ったカメラワークが映画レベルで突き詰められているから。そして、絶妙なタイミングで挿入される調理シーンやシカゴの街並みといったインサートが物語を引き立てます。

 

基本的には30分前後の構成になっており、テンポもいいので1シーズンはあっという間に見終わってしまうでしょう。日本のドラマではあまりないですが、一話ごとに分数が異なり山場の作り方が柔軟なところも新鮮です。

© 2024 FX Productions, LLC

ファンの間でも神回と話題のシーズン1のエピソード7では、ラジオから流れるスフィアン・スティーブンスの「Chicago」をBGMにシカゴの街並みから始まり、とある日の嵐のような怒涛の営業を20分弱のワンカットで見せていくというチャレンジングな構成に。予約が殺到し、息をつく暇もないほどのオーダーの数にキレていくスタッフたち。

 

その焦燥感や不安、その中でなんとか空気を保とうとフォローする人々の様子が次々に映し出され、沸騰点に達する瞬間には、まるで自分自身も巻き添えをくらっているかのようなカオスな感覚に震えます。

© 2024 FX Productions, LLC

もうひとつの主役とも言える料理の数々も見逃せません。一流レストランでキャリアを重ねたカーミーの芸術作品のようなプレート料理はもちろん、オタク気質で一度ハマると周りが見えなくなるパティシエのマーカスが目指す究極のドーナツ作り、上出遼平のポッドキャスト「NY御馳走帖」を彷彿とさせる新メニューリサーチの回など、見ているだけで毎回お腹が鳴ってしまいます。

 

特に印象的なのは、カーミーの姉であるナタリーのためにシドニーが作った即席オムレツ。作る過程もしっかり映っているので、真似して作ってみたという方も多いのではないでしょうか。

喜びに心踊る日があれば何もかもが嫌になる日もある。そんな波の満ち引きのように訪れる日々の瞬間を職場や学校、家庭といった一つのコミュニティのなかで見つめていると、ある人にとって最良の瞬間が他の人にとっては最悪の瞬間になったり、ちょっとしたことで真逆の方向に心が流されてしまうこともありますよね。

 

この作品では、本当にささやかな出来事や会話を拾いながら、言葉や行動が他人に作用する過程を多層的に描いていて、なんだか苦手に思えたキャラクターでも、「あれ?この人こんな表情するんだ」とか、「素直で可愛いじゃん」といった憎めない一面を小出しにしてくる脚本がとにかく秀逸。出だしは全員嫌いだったのに、シーズン1が終わる頃にはなんやかんや箱推しになっているというのは不思議な感覚でした。

© 2024 FX Productions, LLC

なかでも、カーミーの兄・マイケルの親友で店のムードメーカー・リッチーと優等生キャラの新人・シドニーに悪態をつくお局・ティナの激変ぶりは涙なしには語れません!

 

これといった特技もなく、大学を中退して親友の店を手伝っていたリッチーは、新体制となった「BEAR」の変化についていけず、何度もカーミーと言い争いを繰り返します。毎日「Fxxk you」と言い合い、子供のような喧嘩をしているわけですが、心の中では常に目的に向かって努力を続けるカーミーやシドニーに対して劣等感を抱いていて、いつだって自分の人生の目的や居場所を求めているキャラクター。

 

そんなリッチーが自分の適性に気がつき、自分のことを認めてあげられた一日の帰り道に流れるテイラー・スウィフトの「Love Story」は必聴です。(テイラーファンじゃない私まで心が踊って、このワンシーンを見るだけでも涙腺が崩壊します)

© 2024 FX Productions, LLC

ティナもまた頑固で新しいルールに馴染めない中年女性。店を改革するために新たなシステムを提案するシドニーに対して子供じみた嫌がらせを繰り返すのですが、ある瞬間を境に態度が少しずつ変化していきます。

 

長年ルーティン化している仕事や生活は、自分にとっても周囲にとっても当たり前になっていて感情を後回しにしてしまいがち。このドラマの中では、目の前の人の些細な変化に気を配って、失敗を先回りしてフォローしたり、言葉にして感謝を伝えたりと相手に敬意を払うことの大切さについて気付かされるシーンが定期的に訪れます。

 

「平気?」「調子はどう?」些細なその一言で人は救われるし、その一言が不足するだけで世界から見放されたような気持ちになったり、自己嫌悪に陥ったりする。誰もが不完全さを持っているからこそ、なるべく自分から声をかけられる人であろうともがき、不器用に支え合うチームの姿は愛おしくて憧れを抱きました。

© 2024 FX Productions, LLC

物語のもうひとつのテーマは再生。マイケルの死や以前の職場でのパワハラ、家族の問題などさまざまなストレスによって身も心も疲弊し、人と向き合えなかったカーミーが、「BEEF」の再起のために仲間を作り、チームを成長させるために互いに敬意を払うように促していく姿に心を打たれます。

 

吃音症で昔から自分の気持ちを言葉にすることが苦手だったというカーミーは、少しずつ気持ちを言葉に出したり、今まで見れていなかった(見ようとしていなかった)周りの人の気持ちに向き合うことでいつもと違う言葉が浮かんだり、行動に挑戦していきます。

 

相乗効果で目の前の人や世界も少しずつ良くなっていく。そのささやかな成長と失敗の繰り返しを緩やかに、時に激しく見せてくれるのも本作の魅力と言えるでしょう。

© 2024 FX Productions, LLC

この原稿を書くにあたってシーズン1から観直したのですが、遡ることで気づく些細な変化や過去との関連でキャラクターの人物像がよりくっきりと明確になったりと新しい発見も多かったです。

 

観終わる頃には、キャラクターたちの苦悩や成長に自分を重ねて、明日は少しだけいつもと違う選択をしてみようかななんて思ってみたり…。ままならない日々でも、「突っ走れ!」と背中を押してくれるエンパワーメントドラマで気持ちにエンジンをかけて、残りの2024年も走り切りましょう!

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