画家 中村桃子さんの絵画は、無表情な女性に奇抜な色使いを用いたり、纏わり咲く花を用いた表現で、思わず目を奪われてしまう。
2016年開催された渋谷のBAR『ダイトカイ』で行われた初の個展からはじまり、2023年は代官山の『Lurf MUSEUM』、そして天王洲の寺田倉庫にある『Tokyo International Gallery』と着実にキャリアアップしてきた彼女は、今もなお国内外のギャラリーや商業施設で展示のオファーが殺到してる。
次なる展示は、2024年9月21日から開催されている京都 蔦屋書店 6F ギャラリーで開催される個展「Veil」。ここでは本展示の前に、彼女の作品の代名詞でもあるモチーフ「女性と花・植物」に込められたメッセージについて、昨年行われた個展『nestle』を振り返りつつ掘り下げていく。


女性の心の穴を埋めるように花・植物を描いている
-桃子さんといえば、女性と花・植物の絵のイメージですが、どのような経緯で、このスタイルになって言ったのでしょうか?
中村桃子(以下、桃子):絵を描きはじめた頃から、女性とお花を描いていました。
-はじめからだったんですね。なぜ女性と花・植物だったんですか?
桃子:特に意識をして描きはじめたわけではないんですが、女性の顔や身体、お花や植物のフォルムが好きで。無意識についつい目で追いかけてしまうんです。他にも、バナナやティーポットなどを作品に入れることもあるのですが、それもフォルムが好きで描いていました。きっと曲線が好きなんだと思います。
-花・植物と女性が、ひとつの作品に描かれていることが多いですよね。
桃子:生きていると、本当はもっと自由に生きていて良いのに、不自由に生きてしまうこともあります。でも花や植物があると、自分を自由に助けてくれる存在のように感じます。
-なるほど。描かれている女性と花・植物との絡み方も独特ですよね。例えば、口から花が出ていたり、耳から出ていたり。
桃子:女性から出ている植物たちは、まさにその女性を助けていて、何かを埋めてくれるイメージなんです。物理的には、単純に穴を埋めているのですが、漏れちゃっている何か、溢れちゃっている何かを、埋めてくれているような感じ。例えば、バナナや花を心臓に刺している作品があるのですが、それも刺して傷つけているのではなく、空いた穴を埋めているイメージなのです。埋めることで、空虚な存在や心に安心感を与えているという意味があります。
-確かに、埋めているようにも見えますが、突き刺しているホラーのシリアスなシーンにも見えますね。
桃子:はい。怖いと思う人もいると思います。でもホラーとか、そういうことをイメージしているわけではなくて、ドキッとするのが好きなので、そういう表現は意識しています。観る人によって解釈が違うって、すごく面白いなと思います。
ーちなみに描いている女性は、みんな無表情ですが、その理由も教えてください。
桃子:私が人を見ていて、一番ドキっとする顔が無表情で。無表情に近い人のの顔を見ていると、「どうしたんだろう。」「なにを考えているんだろう。」と気になります。私の絵の中で唯一泣いている人が感情が出ている人なのですが、涙を流している女性は、嬉しくて泣いているかもしれないし、悲しくて泣いているかもしれない。なんでこの人は泣いているんだろうって。自分が気になる、ドキッとする顔を描いています。また、昔から写真や絵の中の静止画の人の満面の笑みを見ると、不安な気持ちになります。素敵なはずなのに、迫られているような、余白がない感じがするというか。自分が気持ちの良い安心するものを描いていたいです。

昔は遠ざけていたことにも意味があり
今は楽しいものへと変化している
-画家としての道を選ぶことになったキッカケはなんだったんですか?
桃子:桑沢デザイン研究所ヴィジュアルデザイン科を卒業して、グラフィックの会社に就職していたのですが、3年半ほど働いて、転職を考え、退職しました。当時、デザイナーで徹夜続きだったので、辞めてから何も予定のない1日に、小さいなキャンバスを1つ買ったんです。そして、家にあった適当な絵の具で絵を描いて、Instagramにアップしたところ、渋谷にあるギャラリー・バー『ダイトカイ』の小松さんに展示のお誘いをもらって。転職を考えていたので、翌月20枚描きあげて、展示をしました。この展示をキッカケに、デザイナーとして転職することをなんとなく辞めました。それからは年2回のペースで、個展をやりながら、デザイナー時代の繋がりとか、周りに支えられて生きてこられた気がします。
-デザイナー時代があったんですね。
桃子:はい。入学してすぐに、アートディレクター・グラフィックデザイナーの浅葉克己さんに魅了されて、3年生になって浅葉先生のやっているゼミに入りました。そのまま浅葉克己事務所に就職させて頂くことになり、入ってから、見ることが好きなモノが、作ることが好きとは限らないのだと痛感しました。それでも毎日が刺激的だったので、3年半働いた後、退職したという感じです。この経験がなかったら、今の自分はなかったかもしれないです。もちろん、デザインとか美的感覚も刺激的だったし、ここでの経験は私の人生の中で大きな意味があったと思います。




-その2016年に行われた『ダイトカイ』での展示から2024年現在まで、たくさんの個展をやってきたと思いますが、当時と今では変わったと感じることはありますか?
桃子:キャンバスに描くのが楽しくなったことです。今は特に、油絵が楽しいです。最初の個展は、半分ぐらいはキャンバスに描いていたのですが、当時キャンバスが怖かったんです。何か吸い取られる感じがして。なのでずっと紙に描いていました。でも「大きいキャンバスに描いてみたら?」「絵の厚塗りの感じも、キャンバスが合いそう」と助言してもらったりして、描くようになりました。キャンバスが楽しいってなったのは、3年ぐらい前ですね。ずっと嫌だったので、自分でも信じられないです。油絵も同じで、ずっとやりたくなかったんですが、今ではすごく楽しい。そういう変化は自分でも面白いです。

-今回の京都の展示『Veil』は、桃子さんにとっての「伝えたいけど、伝えられない思いを形にした」とのことですが、展示のテーマとかはどのように考えているんですか?
桃子:展示が決まってから、それぞれ絵を描きはじめるのですが、描く前に普段携帯のメモに書き留めている、日記のような言葉たちを改めて読みます。その中には、その時感じたことや、ただ響きが気に入った単語、誰かが言った気持ちの良い言い回しなど。そのメモたちを読み直して、直感的に選んでいくと、今の自分の気持ちやテーマが構築されていくような気がします。それが曖昧なテーマであっても、描いてる絵が、展示する空間をイメージした時に、自分の中でピタッとあっていくのです。言葉から想像して、絵に落とし込むことで、余白が生まれて、観る人が気になったり、想像したくなるような絵になり、展示になれば嬉しいです。今回の展示の「veil」は覆い隠す、包み込むという意味があり、そういう「普段の伝えたい、けど伝えられない感情」を絵にすることで、包み込んで届けられたらと思います。いろんな風に感じて楽しんでもらえたらと思います。
-そうですね。インタビューありがとうございました。展示楽しみにしていますね。
INFORMATION
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中村桃子個展「Veil」
会期:2024年9月21日(土)~10月8日(火)
時間:11:00~20:00
会場:京都 蔦屋書店 6F ギャラリー
主催:京都 蔦屋書店
協力:ALPHA ET OMEGA
入場:無料
お問い合わせ:075-606-4525(営業時間内)
PROFILE
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中村 桃子(なかむら ももこ)
1991年、東京都生まれ。桑沢デザイン研究所ヴィジュアルデザイン科卒業。グラフィックデザイン事務所を経て、イラストレーターとして活動。装画、雑誌、音楽、アパレルブランドのテキスタイルなど。生き物の様な特徴的な花と無表情な女性を主なモチーフとしている。主な個展に、「Eye Closed」(Whimsy works、台北、2024)、「(angel)」(GALLERY ROOM・A、東京、2024)、「rose is a rose is a rose is a rose.」(Tokyo International Gallery、東京、2023)、「slow dance」(OKYAKU、高知、2023)など。