サブスクが主流になり、外でも家でも大量のコンテンツを消費できる時代だからこそ、何を観たらいいのか分からない!という人も多いのでは?「シネマフリーク!!」では、映画館で上映中の話題作から、ちょっとニッチなミニシアター作品、おうちで観ることのできる配信作品など数多ある映像作品の中からライターの独断と偏見で、いま観てほしい一本を深掘りします。
『エルヴィス』(2022)のオースティン・バトラーと『マッドマックス』シリーズのトム・ハーディの共演ということで話題を集める、公開中のバイクムービー『ザ・バイクライダーズ』。バイク好きはもちろん必見、60年代、70年代のアメリカンカルチャーや繊細な人間ドラマはFREAK読者に是非ともおすすめしたい一本です。
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タイトル:『ザ・バイクライダーズ』
監督:ジェフ・ニコルズ
出演:オースティン・バトラー、ジョディ・カマー、トム・ハーディ、マイケル・シャノ ン、マイク・フェイスト、ノーマン・リーダス
配給:パルコ、ユニバーサル映画
2023年製作/116分/アメリカ
<あらすじ>
1965年、シカゴ。不良とは無縁の日々を送っていたキャシーは、ケンカ早くて無口なバイク乗りベニーと出会い5週間で結婚を決める。ベニーは地元の荒くれ者たちを束ねるジョニーの側近でありながら群れることを嫌い、狂気的な一面を持っていた。やがてジョニーの一味は「ヴァンダルズ」というモーターサイクルクラブに発展し、各地に支部ができるほど急速に拡大していく。
その結果、クラブ内の治安は悪化し、敵対クラブとの抗争も勃発。暴力とバイクに明け暮れるベニーの危うさにキャシーが不安を覚えるなか、ヴァンダルズで最悪の事態が起こる。
バイクカルチャーと聞くとどんなイメージがありますか?個人的なイメージは、メカニックとスピードをこよなく愛するマシンフリークもしくは、古きよきアメリカやヨーロッパ文化に憧れるフリーク集団という感じ。そこから派生(?)すると、暴走族とかもあったりして、なかなか一括りにはできない底知れない魅力を感じます。
本作は、そんなバイクカルチャーのなかでもアメリカでひと時代を築いた伝説的なクラブ「アウトローズ・モーターサイクル・クラブ」の栄枯盛衰を、正式なメンバーとしてバイクに乗り、写真で捉え続けたカメラマンのダニー・ライオンの1st写真集「The Bikeriders」からインスパイアを受けて制作されました。
監督は『MUD -マッド-』(2012)、『ラビング 愛という名前のふたり』(2016)のジェフ・ニコルズ。これまでバイク文化とは触れてこなかったという彼がこの原作に惹かれたのは、そこに映し出された写真やテキストから人間をテーマにしたメッセージが強く伝わったからだといいます。
そんな監督の目線だからこそ、普遍的な人間ドラマとしての見どころがたくさんある本作。大筋としては、先述の通りひとつのアウトロー集団の立ち上がりから終焉までの俯瞰的な観測とメンバーのインタビューを織り交ぜながら回想していくというスタイルですが、オースティン・バトラー演じる一匹狼のベニーとのちに妻となるキャシーの関係性、彼の所属するクラブ “ヴァンダルズ” を仕切るベニーとの絆など、複雑な三角関係が描かれます。
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1965年から1973年のシカゴを舞台にしている本作。映画を撮るにあたって参考にしたのは、原作の写真集のほかにダニー・ライオンの保有している大量の写真やインタビュー音源のアーカイブ(この音源は彼のブログサイトで誰でも聴くことができます)。映画を観てからこれらの元ネタを知ったのですが、印象的なカットの構図やキャラクターたちの話し方まで、まるで本から実写にそのまま浮かび上がってきたかのようなリアリティで、これまでの映画体験にはない不思議な感動がありました。
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また当時のファッションやヘアスタイル、インテリアなどの再現性もリアルで、ヴィンテージのレザーやデニムを集めて作ったバイカーたちのベスト(特攻服のようにクラブの名前が入っている)の着こなしは個性豊かでみていてとても楽しいです。
レディースの衣装やヘアメイクも時代や彼女たちの年齢、ライフスタイルの変化がしっかりと現れていて、当時のリーバイスや補正下着によるバストシルエットの変化といっためちゃくちゃ細かいところまでこだわっていて驚きました。
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地元の荒くれ者や呑んだくれ、労働者階級として生きながらどこか孤独を感じる者たちが集まって組織となった “ヴァンダルズ” は、一見すると目を合わせたらめんどくさそうな不良集団。でも、一歩中に飛び込むと、アットホームで愉快な面々ばかりでその無骨さが頼もしく感じます。
40台以上の個性豊かなバイクが、道路で爆音を鳴らしながら並んで走る姿は本当に圧巻。きっとこういう風景がアメリカの各地で言い伝えられて、伝説的な存在へと昇りつめていったのだろうと容易に想像できます。
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週末になると家族も引き連れてピクニックを楽しむ “ヴァンダルズ” は、まるでひとつの大家族のよう。そこに突然、ロサンゼルスから流れてきたソニー(GOTでもお馴染みのノーマン・リーダスが愉快に演じてます)や遠まきで見ていたバイカーたちが仲間になりたいと集まってくるようになり、次第にアメリカ各地に支部を持つ巨大組織へと変化していきます。
仕事や世間体を気にせずに身内だけで楽しく集まっていたころからあっという間に時代が変わり、ベトナム戦争帰りの帰還兵やヒッピー、アウトローな雰囲気に憧れた無鉄砲な若者など70年代のアメリカを象徴するような新メンバーたちが加わったことでクラブの秩序も一変。
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リーダーとして仕切っていたジョニーは自分自身と新世代との倫理観や価値観のギャップに頭を抱え、新たなリーダーを据えようと一番信頼をしているベニーに相談をするのですが、真のアウトローであり、なににも縛られたくないベニーは断ります。
同じころキャシーも、喧嘩や事故での怪我が絶えないベニーを心配してクラブを抜けるようにベニーとジョニーの双方を説得するのですが、その板挟みにしびれを切らしたベニーは行方をくらましてしまいます。
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みんなにとって父親のような存在として一目置かれていたジョニーも家に帰れば、家族想いのどこにでもいる男性。あるときテレビに映ってた『乱暴者』(1953)のマーロン・ブランドに憧れてクラブを立ち上げたというエピソードも微笑ましく、本当に町の気のいいおじさんなんだなという印象です。
だからこそ、制御の効かなくなった組織の変化や身内の死に対して向き合ううちに、大きかった背中がだんだんと小さくなっていくように感じられてとても切ない気持ちになります。
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もちろんそこには自分自身の体力や年齢の変化もあるでしょう。人も趣味もどれだけ好きな気持ちがあっても、いつまでも同じ方法や表現を貫くことはできなくて、ましてやそれが他者が交わるコミュニティにおいてはなおさら。自分と同じように周りも変化していくし、そのときどきで向き合い方を変えていくことで均衡を保っている。
今が一番と思っていても、確かに輝いていた “あの頃” という光は紛れもない本物。その過去をどう捉えて、未来をどう生きるのかという問いに対して、この映画が描いたアンサーは実話ベースならではの重みがありました。
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バイクムービーとして、当時のアウトロー感に魅力を感じるだけでなく、家族や恋人、友達や会社、いろんなケースで自分を重ねて観ることのできる本作。バイクの轟音が鳴り響く、古き良きアメリカ中西部の世界に没入しながら、人によっては自分のなかの大切な “あの頃” の記憶が蘇って、ラストシーンからエンドロールまで胸がいっぱいになってしまうかもしれません。
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