



「傘はかわいそうだ。駅で忘れ物になった傘は、とんでもない量。それを展示にしたら、すごいと思う。持ち手だけになった傘には哀愁を感じる。そこには人知れぬ物語がある。この撮影で成仏できたらいいな。」
日本人は古くからあらゆる物に霊が宿ると考えてきた。道具にも長い歳月を経て霊が宿り、それは九十九神または付喪神、と書いて、いずれも「つくもがみ」と読む。
大切にされた道具には和御霊(にぎみたま)が宿って幸せをもたらし、乱雑に扱えば荒御霊(あらみたま)が宿って災いをもたらす。だから日本人は人形供養をしたり、「からかさお化け」のような妖怪を見出してきたのだろう。これは、決して日本だけに限らず、アニミズムと呼ばれる思想体系として世界中に存在する。アイヌ、ケルト信仰、アフリカの一部の部族などでは、「あらゆるものに霊魂が宿る」という基本の考えを下敷きに、それぞれ独自の思想体系が形作られてきた。
ゴミを拾う。それはもしかすると、物が妖怪化してしまうことを未然に防ぐ行為なのかもしれない。少なくとも、拾って、見つめ、慈しむということは、広い世界の長い歴史の中で育まれてきた思想の本流に交わる行為だ。
PROFILE
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加賀美 健
現代美術作家。1974年、東京都生まれ。
社会現象や時事問題、カルチャーなどをジョーク的発想に変換し、彫刻、絵画、ドローイング、映像、パフォーマンスなど、メディアを横断して発表している。
2010年に代官山にオリジナル商品などを扱う自身のお店(それ自体が作品)ストレンジストアをオープン。
日課の朝のウォーキングの際に面白いゴミが落ちていないか目を光らせながら歩いてる。