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#ART & CULTURE

-Culture Freak- vol.4 MARCOが捉える、BMXレーサー中井飛馬の素顔『Life is snap』

Photo:MARCO/Cho Ongo

Text:Mikiko Ichitani

 

“Culture Freak(カルチャー・フリーク)”。それは、アートや身体表現、ゲームや音楽、「〜道」など、さまざまなカルチャーに精通する人たち。時に熱狂的なまでに、その “道” を極めようと努める、“フリーク” な人々のこと。

 

本シリーズ連載では、そんな “Culture Freak” たちが心に抱く熱い想いや哲学を、インタビュー形式でお届け。

 

BMXレーサー中井飛馬(なかいあすま)のパリ五輪への挑戦を約1年間密着し、映像化した『Life is snap』が公開された。監督を務めたのは、自身も10代からピストバイクのプロライダーとして活躍、現在はクリエイティブディレクターとして、映像や写真作品の制作やディレクションなどを生業とするMANNERS KNOWS代表のMARCO。

 

今回は『Life is snap』を作るに至った経緯から、制作秘話、互いのクリエイティブについてをインタビュー。好きなことにまっすぐ向き合い続けることの魅力を教えてもらった。

 

— おふたりの出会いはいつ頃だったのでしょうか?

 

MARCO:最初に会ったのは7、8年くらい前ですね。当時僕がライダーとして契約していた「CHROME」というメッセンジャーバッグの展示会で紹介してもらって。

 

— 第一印象はいかがでしたか?

 

MARCO:別にそんなにインパクトのある感じはなくって、なんなら真面目な感じの子だなって印象でしたね。

 

飛馬:上京したてくらいだったので初めてそういう場所に行って、すごく緊張していたことを覚えてます。

— そこから一緒に作品作りをしようとなったのはどういう流れだったのですか?

 

飛馬:インスタとかでつながって、少しずつ会う頻度が増えていったんです。池尻にあるMARCOくんのお店「ALL GREEN island / alley」にも友達とよく行っていて。会うたびにいろんな話を聞いてもらって、その流れで映像作品を作りたいという相談をしたって感じです。

— きっかけは飛馬さんだったんですね。どうしてドキュメンタリーを作りたいと思ったのですか?

 

飛馬:もともとBMXのストリートやスケーター、スノーボーダーの映像を観るのがずっと好きだったんです。同じBMXでも俺の場合はレーサーだから、大会に出るのがメインで、映像に残すカルチャーがレース自体にあまりなくて。じゃあそれを自分の競技でやるにはどうしたらいいかなと考えたときに、ドキュメンタリーがいいんじゃないかなっていうのはずっと考えていました。

 

— ずっと思い描いていたんですね。

 

飛馬:でも、なかなか始めるきっかけがなくって。そこから怪我も重なって自分自身どん底だったんですけど、こういうときにこそ新しいことを始めたらやる気が出るんじゃないかなって思って、じゃあ今やろう!と会う人会う人に話すようにしていました。

— MARCOさんご自身もライダーの頃から、競技の映像を撮ることに慣れているということもあり超強力な助っ人ですよね。

 

MARCO:飛馬自身すごく感性がいいので、話を聞いていると狙ってる絵とか、やりたい規模感がめちゃくちゃでかいんですよ。そうなると予算的に正攻法だと無理で。じゃあどうやったらできるかなって考えたら、俺が撮影から編集までやればコストもかからないし、仲間に協力してもらえばできないこともないなと。本気でやるって決めればできるかなっていう感じでしたね。

 

飛馬:無茶ぶりの全速投球を投げたって感じっすね。

— 撮影はパリやアメリカ、日本と各地でのトレーニングやリハビリ、レースに密着していますが、その都度メンタルの起伏も激しかったのではないですか?

 

MARCO:自分もライダーとして国内外の大会に出ていたので、勝負の瞬間の緊張感とかも分かるし、性格的に目の前の人の気持ちが分かるタイプなんです。だから、大会の数日前からモードに入ってきたなとか分かると、できるだけこっちから話しかけないようにしたりして飛馬のペースに合わせるようにしていましたね。

 

飛馬:本当はレースのルールや撮影するにあたってのポイントや立ち回りを説明しないといけなかったんですけど、レースが始まると本当に無理でそこまで気を回せない。だから、最低限の基本情報だけを朝のうちに伝えて、あとはMARCOくんがうまいことやってくれるみたいな。本当に丸投げしてました。

— 元アスリートならではの距離感も映像から伝わってきました。飛馬さんもやりやすかったのではないですか?

 

飛馬:めちゃくちゃやりやすかったですね。カメラ抜きにしても一緒にいて楽しいし、先輩だけど友達みたいな感覚で接してくれるので、距離感とかも全然気にならなかった。きっと初対面の撮影クルーだったら、途中からストレスで無理だったと思います。

 

MARCO:どれだけ空気になれるかというのはずっと意識していました。カメラを意識したら演技が入るじゃないですか。それはもう最初からなくそうと思って、「今のちょっとカッコつけてるな」とか、「カメラ気にしないで」というのはめっちゃ言ってました。とにかくカメラが常に回っている状況に慣れさせることが最初の課題でしたね。

— 切り替えも大切ですよね。

 

MARCO:切り替えが上手くないとトップに上り詰めるのは無理だと思いますね。アスリートに限らず、そういう人たちに共通するのは一瞬でスイッチが入れられて、抜けることだと思う。目の色がふっと変わる瞬間。あれが一流の人たちはできるからすごくかっこいいですよね。

 

飛馬:MARCOくんはそういう瞬間を捉えるのが本当に上手だなって思います。

 

MARCO:ずっと自分もやってきたからこそ、その瞬間にどこがかっこいいかは1番知ってるからね。どれだけ練習してきてもかっこいいピークの瞬間はまじで一瞬。その儚さが美しいんですよね。

— 撮影から公開までの共同作業を経て、お互いに刺激を受けることはありましたか?

 

飛馬:普段から写真を撮ったり、映像の編集とかも自分でしたりしていて、人には気づかれないようなところまで結構こだわっちゃうタイプなんです。MARCOくんはそういう細かい部分に気がつく人。だから話していて気持ちいい反面、手を抜いたらバレるという緊張感もあります。なかなかそこまでの感覚を持っている人には出会えないので、面白いというか一緒にいて研ぎ澄まされるような感覚があります。

 

MARCO:飛馬は本当に感覚がいいんですよね。ぶっちゃけ子供の頃からレース三昧で、アルバイトとかもしてこなかったと思うんですけど、それなのにここまで自分でできるのがすごいことで、超レア。今回は編集やそのほかの仕事も一緒にやってもらいました。実際に時間がなくて、厳しく叩き上げるような感じだったので大変だったと思うんですけど、本当によく頑張ってくれました。

 

— 撮影だけでなく、仕上げの作業まで一緒に?

 

MARCO:そうですね。終盤は二人とも毎日寝ずに映像をチェックして、キャプションとかエンドロールの誤植がないかとか、コマが落ちてないかとか何度も何度もフル尺で毎日確認しました。

— ついに1月24日にプレミア上映という形で公開されました。気持ち的に楽になりましたか?

 

MARCO:上映会とアフターパーティーが終わって、ようやく寝れると思ったんですけど、逆に寝れなかったですね。ずっと編集している夢を観たり、軽いトラウマですね。

 

飛馬:もうやりたくないっすよね(笑)。

 

MARCO:みんなにも「映画は絶対やめた方がいいよ」って言ってます。病む、100パー(笑)。

— 少数精鋭のチームというのもあるんでしょうね。

 

MARCO:ドキュメンタリーなので、なかなか人に頼れないんですよね。ある程度作り込まないと分担できないというか。だからとにかく気合いと根性で乗り切りました。

 

飛馬:俺もプレスリリースの紹介文とかは自分で書きました。カッコよく書かないといけないからすごく恥ずかしくって。

 

MARCO:そうそう、飛馬は企画書とかも自分でちゃんとカッコよく作れるんですよ。

 

飛馬:大学でスポーツビジネス学部のマーケティング学科を卒業してるので。

 

MARCO:あとは、事務所の相方の村上を巻き込んでマネージメントや事務作業を手伝ってもらって、脚本やポスタービジュアルもうちの事務所の仲間たちに手伝ってくれない?って相談して。

— 時間も予算も限られたなかで頼もしいメンバーを引き寄せていたんですね。映画館でご覧になった感想はいかがでしたか?

 

MARCO:とにかく、なにか抜けてないかなって心配ばかりしてましたね。

 

飛馬:二人とも自分の席を取るのを忘れていて、後ろで立ってみてました。

 

MARCO:時間も長いし、結構みんな飽きるだろうなと思ってたんですけど、想像以上にみんなちゃんと座ってずっと観ていて、最後は拍手してくれて嬉しかったですね。

 

飛馬:約2時間の映像に自分がほぼずっと出ていて、それをたくさんの人が集中して観てるという状況が気持ち悪いというか、全然落ち着かなかったですね。最初に観た時は、「最高っす!」って感じだったけど、何度も観ていくうちに、このときの言葉は大丈夫かな?とか、この動き変じゃないかなとかいろいろ気になってきちゃって。でも、観終わった人が「良かったよ」って言ってくれたことでようやくほっとしました。

— 映像はもちろん、音楽もいいですよね。

 

MARCO:音楽めっちゃいいですよね。トラックメイカーのmee mee meeから最初にきた仮音源もすごいよくて、そこから BUGZY、billmarcos、Calli Stephusとどんどん声が入っていって、どこで入れようかななんて作業してると自然と泣けてくるんですよね。一曲一曲届くたびに、全部聴いてイメージして映像にはめていく。もう旅、ずっと旅してるような感覚です。挿入歌も友達のアーティストが作ってくれたんですけど、全部カッコよかった。仮編集の段階でこういうふうに使おうと思ってるって見せたら、さらに映像と合うように作り直してくれて。みんなよくするためのアイデアがすぐに出てくるし、速攻でできるんで超面白いですよ。

— 映画館仕様に仕上げるために、普段の映像制作と違う工程も多くありますよね?

 

MARCO:音も今回は5.1chという映画館ならではの迫力ある音響にこだわろうと思って作り始めたんですけど、この書き出しが本当に難しくって。

 

飛馬:後半はそのせいで寝れなかったようなものでしたね。

 

MARCO:そうそう。あと映画独自の書き出しフォーマットにDCP(デジタルシネマパッケージ)というのがあって、世界中の映画館の標準納品方法で要は1個のフォルダなんですよねDCPっていう。その中に全部の素材がバラバラに入っていくんですよ。それをまとめて納品すると、それが全部映画館にあるシステムの中で振り分けられて綺麗に投影されるって仕組みなんですけど、それを作るのがマジで大変なんですよ。でも、それも自分たちでできるという話を聞いて、一から勉強しました。

— 映像の仕事でもそのフォーマットは使わないですもんね。

 

飛馬:MP4とMOVしか知らなかったところから、一気に新しいことを覚えないといけなくてめっちゃ大変でした。しかも、テストも通常の上映の幕間にやらないといけないから、5分とかしかできなくって本当にあっているのかずっと心配してました。

 

MARCO:やっぱり素人には難易度が高くて、3本くらい作ったんですけど結局使えなかったんですよ。とにかくトライアンドエラーの繰り返しで、もはや何に意味があって、なかったのかも今だからわかるみたいな感じです。

— レースも仕事もそこまでやりきれるのはなぜでしょうか?

 

MARCO:やっぱり好きだからですよね。

 

飛馬:理屈じゃないんです。BMXも20年やってて、今まで辞めたいって思ったことはないです。怪我が続いたときとか、なんでやってるんだろうって思うこともありますけど、単純に乗ってるのが楽しいし、うまくいったら気持ちいい。本当に言語化できないような高揚感があって。それがBMX以外にもたくさん俺の場合はあるから、ほんと好きに尽きますね。

 

MARCO:レーサーとしてバリバリやっている今の段階でそれをほかのことにも思えるのがすごいよね。俺も今の仕事をずっと続けてきて、いい作品ができたときに、ライダーだったころに感じた高揚感を感じることがあって。前までは自転車以外でそういう最高!って思えるような報われる瞬間はないと思っていたから。

飛馬:やっぱり基本はなんでも一緒ですよね。ジャンプって初めはやっぱり怖いし、みんなブレーキかけちゃう。でも、俺は小さい頃から威勢が良くて一番最初に踏み切るタイプだったから、とにかく漕いで、飛んで、バーンとこけるみたいな。でも、それができていくのが気持ちいいし、好きだからやめられない。今回も『Life is snap』というでかいジャンプを一緒に踏み切るきっかけをMARCOくんがくれて、今はようやく転ばずに着地できたくらいかなって思います

 

MARCO:俺からしたら、飛馬が踏み切るきっかけをくれた。俺たちは転け慣れてるからね。絶対にメイクするまでやるんで、そういう向き合い方は本当に一緒ですね。

— この映画を通して伝えたい想いはありますか?

 

飛馬:この映画を観て勇気が出たとか、明日からの日常を頑張ろうと思えたとか、自転車に乗るときに思い出すといったささやかな感想が嬉しいです。タイトルの『Life is snap』を直訳すると「人生は一瞬」っていう意味になるんですけど、一瞬だからこそみんなもやりたいことをどんどんやったほうがいいんじゃない?って思います。怪我をしてもがんばり続けることが偉いんじゃなくて、好きだからレースに出るし、この映画自体も自分がやりたくてやっていること。だから、みんなも一緒に頑張ろうよっていう気持ちが大きいです。

 

MARCO:周りにアスリートの友達も多くて、自分もやっていたから分かるんですけど、マジでみんな一緒なんですよ。俺らとみんな一緒。じゃあなにが違うかって言ったら、とにかくコツコツやり続けて、偶然フォーカスされる場所があっただけ。そこでちょっと結果出せたらスターになって、すげえやつってなるだけ。飛馬はマジでかっこいいし、すごい。でもみんなもどんな仕事でもアルバイトでも生きるために日々同じことを頑張ってずっとやっているじゃないですか。繰り返して、繰り返して、それはみんな一緒。とにかく諦めずにやり続けた先に、偶然登れるときもあれば、登れないときもある。そういう部分に共感を覚えてもらえたら、なにかひとつでも持ち帰ってもらえるんじゃないかなって思って作りました。

— 最後に、今後の目標ややりたいことを教えてください。

 

飛馬:まずはとりあえず結果出したいっすね。怪我は運なのでなんとも言えないですけど、自分自身の実力はあると思ってるから、また次のオリンピックや世界選手権、ワールドカップといった大勝負で結果を出したい。そうすることでこの映像にも意味が出てくると思っています。

 

MARCO:飛馬が目指す限り、その先の大会やLAに向けて頑張っていく姿はこれからも見届けていきたいですね。自分は自分で変わらずやることやり続けたら、こうやって報われる瞬間が来るのかなって信じて、なにごとも抜かずにやっていくだけです。

 

— ちなみに、次の公開先は決まっていますか?

 

MARCO:福岡はすぐ行きたいねって話をしてるんですけど、それぞれパーティー会場と劇場が抑えられないとなんで。

— 基本はそのセットで?

 

MARCO:そうですね。上映とパーティーをセットでパッケージ化していきたくって。エンディングの歌も超いいので、そういうのもちゃんとライブで見せたいなって思っているんです。

 

飛馬:大阪と福岡はほぼ決まっていて。あとは地元や湘南とかでもやりたいっすね。

 

MARCO:北海道とかもやりたいな。上映以外にも、いろんな映画祭とかにも出品して行きたいなって思っていて。1個でも賞とかが奇跡的に撮れちゃったりなんかしたらラッキーじゃないですか。佳作みたいな(笑)。

 

飛馬:作りますか、コンテスト。

 

MARCO:自作自演でコンテストはヤバいね。

 

飛馬:MANNERS KNOWSフィルムフェスティバルって名前でバレバレみたいな(笑)。

PROFILE

  • MARCO

    MANNERS KNOWS主宰。10代よりFIXED GEARプロライダーとして、国内の名だたる大会やEU CHAMPIONSHIPでの優勝、その他多くの映像作品を残しライダーとしての キャリアを積む。 国内外を飛び回りながら街で過ごす生活を送り続ける中で見てきた自身の経験と感覚から生み出される世界観をフィルター無しで表現する場としてクリエイティブレーベルMANNERS KNOWSを2019年に設立。 現在はクリエイティブディレクターとして、映像写真作品の制作、ディレクシ ョン、デザイン、コンテンツ制作を生業とする。MNS/KWS 名義ではアパレル、グッズも不定期的にリリース。その他、池尻大橋の飲食店「ALL GREEN island/alley」の運営も手がけるなど、枠にとらわれず多ジャンルにアプローチした活動で注目を集める。今この場所、この瞬間でしか切り取る事の出来ないRAWで鮮度の高い作品創りを信念に活動を続ける。

  • 中井飛馬

    プロBMXレーサー。2000 年、新潟県上越市生まれ。5 歳の頃に地元上越でBMXレースと出会い、11歳の夏に世界選手権で初めて決勝進出を果たしてワールドゼッケンを獲得。その後12歳で本場アメリカの強豪チームにスカウトされ、海外への転戦をスタート。2019 年にはプロ1年目ながら全日本選手権で優勝。2021年には 日本人として初めてUCI ワールドカップシリーズのU23シリーズチャンピオンに輝く。2023年にはアジア大会杭州大会で金メダル獲得。2021年パンデミックの頃にカメラを購入し、写真を撮り始めるようになる。 世界中を転戦する日常を記録することが癖となり遠征の際には必ずカメラを持ち歩く。

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