対面不要で宅配荷物を受け取ることができ、セキュリティ面もバッチリの置き配バッグ・OKIPPA。容量57Lを誇る、約70cm×66cmという大きなサイズのバッグをキャンバスに見立てて、現代美術作家・加賀美健さんが遊び心溢れるイラストと言葉を大量に投下した。加賀美健さんらしい仕上がりとなったこのバッグはどうやって生まれたのか。作る過程を聞く中で、意外にも加賀美さんの作品を作る方法や信条にまで話が広がったのだった。

綺麗なフォントで書いてあってもダメ
—OKIPPAのサービスは知ってましたか?
加賀美:今回のプロジェクトで初めて知りました。ダンボールのまま置き配されてるのはたまに見るけど、マンションはまだしも一軒家の前にダンボールが置いてあるとどうなんだろうって不安になりますよね。まあ日本は平和ってことなんでしょうけど。
—バッグには、「OKIPPA」をもじって「OKAPPA」とかダジャレが書いてありますね。その総数も結構ありますが、ボツとOK案はどうやって決めるんですか?
加賀美:作る時に、まずは思い浮かんだものは全部A4の紙に書いて、スタジオの床にずらっと並べて置きます。自宅の隣の徒歩5歩のところにスタジオがあるから、朝行くと、床に置いてあるのが目につく。そこで違うなっていうものは弾いていく。中には最後にOK案に戻る場合もあるし、ちょっと書き足すものもありますね。
—朝にジャッジされるんですね。
加賀美:仕事も午前中からやります。娘と一緒に6時半くらいに起きて、ご飯食べて、1時間くらい散歩に行く。その時に頭の中で考えてスタジオに戻って書いたり、寝てる時に思い浮かんだからパッと起きて書いたり。突然起きてゴソゴソするから、嫁さんもどうしたの? ってびっくりする。基本的に、夜は早く寝るから仕事はしません。

—加賀美さんの作品は、アイデア勝負というか思いつかないと一生できなそうですね。
加賀美:内容によるけど、9割くらいは打ち合わせで思い浮かんじゃうことが多いです。(加賀美さんと仲のいいアーティストの)HIMAAくんと同じプロジェクトの打ち合わせに呼ばれて、顔を見てみたら途中からお互いにニヤニヤしちゃって。じゃあ、よろしくお願いしますって打ち合わせ終わって、帰る途中に「もう納品できますよね、請求書出しましょうか(笑)」って話すくらいのスピード感。
—このバッグについては、お題みたいなものはあったんでしょうか?
加賀美:まずは、宅配員への感謝を描くこと。あとは、「OKIPPA」で韻を踏んだもの、例えば「OKAPPA」とかを提案したら、「面白い、それで行きましょう」と。普段から言葉のインスピレーションで考えることが多いです。日本語はやっぱり面白いからね。
—加賀美さんの作品は、日本語のニュアンスとしての面白さを突いているなと思います。
加賀美:このバッグの字も、綺麗ではないですよね(笑)。でも綺麗なフォントで書いてもダメで、デザイナーの作ったフォントで僕の言葉が書いてあっても、素通りしちゃうと思う。まあ、逆に誰が書いたかわかるから、グラフィティとか絶対に書けないけどね(笑)。
—同じ言葉で何枚も書き直したりしますか?
加賀美:何枚か書いてはみるけど、大体1枚目がいいんですよね。2枚目以降は構えちゃうから。やっぱり1枚目を意識しちゃう。
—俳優の演技も一回目がいいことが多いという話を聞きますね。
加賀美:それって意識しないでやれってことですよね。でも難しい。学生時代のテストで、○✖︎テストも最初に選んだ方を選べって言われたなあ。でも結局正解じゃないこともよくあったけど。とにかく、なんでも直感型なんですよ。

—OKIPPAのユーザーは、これまでの加賀美さんのファンとは違う層なんでしょうね。
加賀美:このバッグを見て、知らないおばちゃんとかはなんて思うんでしょうね? でも、そういう人に使って欲しい。僕の作品を見て「こんなの私でも書けるわよ」ってよく言われるんだけど、自分としてはすごい嬉しい。そう思わせるってすごくないですか? だって本当は同じ字でも発想でも描けるはずないから。さらに「こんなの書けるわよ」っていうのを文字にして作品にしちゃう(笑)。何か言われてそのまま反抗してもダメだと思うし、 言っている人や言葉を作品にしちゃえばいいなと。
—お聞きしていて、なんだか合気道っぽいですね。
加賀美:そうそう。でも、さっと投げるけど、絶対相手には怪我させないっていうのはあります。
作品にメッセージ性を入れると、それしか意味がなくなっちゃう
—OKIPPAのバッグがあることで再配達しなくていいということから、エコにつながっているんです。加賀美さんは。地球にいいことを何かされていますか?
加賀美:環境問題って、何か大きなことをガラッと変えないと難しいと思うけど、大切なのは、やろうとすることなのかなと。環境問題は複雑な話だから難しいけど、まずは自分の範囲でやるってことは大事だと思います。僕は免許がないからずっと自転車に乗ってるんだけど、実は小学校からずっとエコをやっていたってことですよね(笑)。そういうことは、わざわざインスタとかでは言わないけど。だからみんな実はちょっとずつエコしているんじゃないかなって。
—最近では、地球環境をはじめ、貧困や人権問題などの改善のための「SDGs」という言葉もよく聞きます。
加賀美:SDGsって大きな声で叫ばれる前から、大事にすべきことですよね。改めてちゃんと目標にするというのはいいことだけど、地球や人にいいことをするとかって、基本的には親や先生から言われてきたことですよね? あとは、今だけのブームじゃなくて、ずっとやらなくちゃいけないことかなと。

—加賀美さんの作品でSDGsにまつわるものはありますか?
加賀美:エコボトルに、地球に優しいみたいなテーマで書いたことはありますね。でも普段はメッセージ性のある作品はあまり作らない。
—それはどうしてでしょう?
加賀美:メッセージ性を入れると、それしか意味がなくなっちゃうからですね。例えば「戦争反対」は、戦争反対でしかない。メッセージ性があると思考停止しちゃう。でも、ただ「反対」と書けば、何に反対なんだろうとか考えたりする。深い考えではないだろうけど、僕はちょっとでも考えさせる方が好きかな。
—なるほど。
加賀美:アートって意味がないとダメだって言われることが多いけど、そんなことはなくて、意味を決めるのは批評家という人たちがいる。美術学校に行くと、コンセプト、コンセプトって言われるけど、意識しない方がいいんじゃないかなって思います。もちろんそれも大事だけど、意味とか決めない方が面白いことが多いし、ギャラリーとか行っても好きな作品は、見てもよくわからないものの方が多いんですよ。こういう意味ですよって提示されちゃうとそれでしかないから。

でかいだけで面白い
—最近、何か気になっているものがあれば教えてください。
加賀美:民芸品が気になっていて、例えばこけしとかでかくて安いのが売っているんですけど、気づいたら30個くらい集めてたり。あとはたぬきの剥製やひょっとこのお面とか。民芸品を集めるようになったきっかけは、長野で買った巨大なひょっとこのお面ですね。
—選ぶ基準はあるんですか?
加賀美:古着やゴミと一緒で、落ちてれば拾う感覚。作者が誰とかいつの年代とかは関係なくて、いい表情のひょっとことか、ゴルフをしているたぬきの剥製とか、面白いかどうか。飾っている花とか風景と一緒みたいなものです。

—どこで買うんですか?
加賀美:メルカリが多いですね。安くて面白いものをよく買ってます。だから、SDGsしてるってことですよね(笑)。
—あと大きなものを集めていらっしゃると聞いてます。
加賀美:とにかく大きいものが好きだし、大きい作品も作りたい。でかいって面白いじゃないですか? 通常は普通のサイズもの、例えばストローとかコーヒー用のミルクとかもでかかったら、それだけで笑えちゃう。昔、アメリカで30センチオーバーの靴を買って、人を自宅に招いた時に玄関に出して置いといたら、来た人が「加賀美さんのところ、どんな人が来てるんですか!?」って(笑)。
—笑。さて、最後になりますが、「OKIPPA」になぞらえて、「○○○っぱが嫌い」というお題で何か言葉を考えてください。
加賀美:「出しっぱ」ですかね。娘にもよく片付けさせるんだけど、出しっぱなしが嫌い。スタジオはものが多くて、雑然としているように思われることが多いけど、整理してあるからそこらへんに出てないし、埃一つも落ちてないって驚かれたこともあるんですよ。自宅はすごい綺麗にしてるし、本当は体育館くらい何もないところに住みたいくらいミニマルが好き。このお店もごちゃごちゃしているようだけど、自分としては何がどこに置いてあるかがちゃんと整理されているんですよね。わかります?(笑)。
PROFILE
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加賀美 健
現代美術作家。1974年、東京都生まれ。
社会現象や時事問題、カルチャーなどをジョーク的発想に変換し、彫刻、絵画、ドローイング、映像、パフォーマンスなど、メディアを横断して発表している。
2010年に代官山にオリジナル商品などを扱う自身のお店(それ自体が作品)ストレンジストアをオープン。
日課の朝のウォーキングの際に面白いゴミが落ちていないか目を光らせながら歩いてる。