UPDATE : 2023.08.06

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#ART & CULTURE

『私は絵を描いてるよ、あなたは?』アーティスト・杉山日向子が自画像を描く理由

Photo & Edit:Takao_okb

Edit:Nozomu Miura

代官山のミュージアム『Lurf MUSEUM』にて7月8日から8月7日までの期間、元パルコミュージアムのディレククターの髙橋賢太郎氏(株式会社SUNNYES)が企画・キュレーションしたグループ展『CONCERTO』が開催されている。6名の若手実力派アーティストに焦点をあて、各作家が本展向けに制作した新作を中心に、全24作品が一堂に会するエキシビジョンだ。

 

本稿では、そんなエキシビジョンにおいて一際鮮烈な印象を我々に訴えかけてくる、“自画像” をモチーフとした作品を手がけた作家・杉山日向子氏へのインタビューを敢行。2022年には東京藝術大学美術学部油画専攻を卒業し、これまでに数々もの展示経験を経てきた彼女の、表現の “核” に迫る。

荒井理行、大西茅布、北島麻里子、黒瀧舞衣、友沢こたお。実力と独自の表現を兼ね備えた若手のアーティストたちが、“独奏” 的なニュアンスとアーティズムを、それぞれの技法で表現する。なかでも杉山日向子氏は、 “自画像” をメインの表現とするアーティスト。まずは彼女が「なぜ自画像を表現方法として選んだのか」について伺った。

 

「よく、言われることがあるんです。”自分のこと考えすぎだろ”とか、”自信満々なんだな”とか。でも、それ、全然違うんですよね。別にポジティブ100%じゃないし、なんならネガティブな要素もすごくたくさんある。私、自分の容姿にコンプレックスがあって。昔付き合っていた人から言われたひどい言葉を思い出して、ムカついて、でも、その人がそんなひどいことを言ってくる間も、私は絵を描いてるよ、って」

 

「正直なことを言えば、私としては「じゃあお前は今何やってんの?」と言ってやりたいぐらいなんです。「私はそれを糧にして、絵を描いてるよ。あなたは?」って。私の作品は、そういったフラストレーションや苦悩をもとにしていると言っても、過言ではありません。強いエネルギーとしての「見返してやる」という気持ちが、いつも心にありますね」

とある日に投げつけられた、言葉の数々。本稿では言葉として紡ぐことを避けようと思うが、それらはすべて、聞くに堪えないようなものばかりであった。そこから生まれてきそうな “自己否定感” のようなものを、なぜ杉山氏は、自画像の形で表現するのだろう。

 

「自画像を描く理由は、“今しっくりきているから” に過ぎないんです。深いきっかけのようなものが特になくて。例えば、他人をモデルにしようとなると、毎回バラバラになってしまいますよね。でも、自分はいつも自分だから。なら、自分のことを描けばいいんじゃない? と思ったんです。最初の方こそ全然上手くいかなかったけれど、ここ一年ぐらいですかね、楽しいと思えるようになったのは。でも自画像を描くって、自分のことを考えて描いているようですが、実は自分にはさほど興味が無いんです。カッコイイ構図を突き詰めていくだけというか。すごく言葉にしづらいけれど」

自らの様相を、額の中におさめる。それも、カメラが生み出す “写真” ではなく、自らの手と筆で、描いていく。そこには、はたして “苦悩” のようなものは生まれ得るのだろうか?

 

「2023年に入るまでは、展示のご依頼自体はいくつか頂いていたんですよね。うれしいお声がけがいくつかあって。ただ、正直なことを言えば、絵だけで生きていくにはなかなか厳しい感じでした。」

「大きな絵は売れないし、小さい作品でも、売れたり売れなかったり。“自画像” ということで、目立つ作品ではあるのですが、それを『家に飾りたい』や『手に入れたい』などと感じてくださる方って、少なかったんですよ。自画像を描いて売ること自体、正直、あり得なくて。歴史の文脈で言っても、自画像というのは、お金のない画家が絵の練習のために自らの顔を描く、という系譜があるんです。それを現代もおこなっている、というのが自身のストロングポイントなのかな、って。それでも、面白がってくださる方は多くなかった。

 

そんな中、ありがたいことに、西武渋谷の55周年記念メインビジュアルのお話をいただけたんですよね。その時は、もう、これが売れなかったらアーティストとして生きるのはやめよう、と思っていたぐらいでした」

自画像を描く、ということ。歴史の系譜を辿れば、それは “練習” としての存在であった。杉山氏が描くそれはどことなく、杉山氏そのものを素直に描いているような、はたまた、少々言葉こそズレるとも “虚像” のような、そんな気もしてくる。

 

「それで言うと、私が描く自画像は、私のありのままだと思っています。よく見せようとするでもなく、本当に、ありのまま。自撮り写真を撮影して、それを作品にしていく方法で描いています。もちろん “盛れてる写真” は選びますけどね(笑)。一点ポイントを挙げるとしたら“モノボケ” だと考えているところはあるかもしれません。ヘッドセットを付けた私。ヘルメットを被った私。ブルーの手袋をつけた私。何も付帯されていない私では、面白くもカッコよくもないんです。だからこそ、モノを使って、モノを身につけた、私を描く。その私を客観的にカッコよく、面白く、突き詰めていったものが作品になっているんです」

今回のエキシビジョン『CONCERTO』が見据えるテーマは、“コンチェルト(協奏曲)”。名だたるアーティストによる作品たちと、自らの作品が並ぶことに、どんな想いがあったのか伺った。

 

「怖かったのは、事実ですね。言葉を選ばず言うと、メンツがヤバすぎるんですよ(笑)。同じ大学に通っていた同志・こたおちゃんもいるし。私を大学に入れてくれた芸術予備校の恩師の奥様であり、尊敬しているアーティスト・北島麻里子さんもいるし。ものすごくヒリヒリしましたね。なかでも、こたおちゃんは大切な友人でもあるんです。私の中でも特別な存在だし、世間からしても、特別な存在。そんな方たちと一緒に作品を展示してもらえるのは、シンプルに、うれしいですね」

 

インタビューの最後に、杉山氏自身が見据える “自身” について、また、彼女が歩もうとする未来について伺った。

「芸大に入って、とにかく「わたしには絵しかないんだ」という気持ちを筆に乗せている人たちに、たくさん出会いました。わたし自身、大学入学前までは、特別上手に絵を描けなかった。でも、大学でものすごい信念を持って描いている人たちと出会って、変わったんですよね。すごい熱量の刺激を受けました。でも、それでも、今の自分を指して「信念を貫いたんだ!」とも言い切れなくて。3歩進んで2歩下がる、みたいなことを続けていたら、現在のわたしになった。そんな感じがしますね 」

 

「未来、未来かぁ。あまりよく考えていないけれど、海外に行きたいという気持ちは強いですかね。4日間、ニューヨークへ行ったことがあったんです。あれはものすごい体験でした。大学で受けた衝撃や刺激にも、引けを取らないぐらい。そんな衝撃的な経験を自分なりに未来へ生かしていきたいなと思います。ただ、やっぱり「絵があって良かった」と思うことは多いですし、絵以外でも、好きなことにチャレンジしていきたいなぁと思っています」

PROFILE

  • 杉山日向子

    1997年東京都生まれ。2022年東京藝術大学美術学部油画専攻卒業。ファッショナブルなアイテムを取り入れたセンセーショナルな自画像で、現代美術シーンに留まらず、マスメディアやファッションシーンでも注目を集める新進気鋭の作家。2020年 NHK大河ドラマ「麒麟がくる」メインビジュアル背景デザインや、2023年「Nine colors XVII」西武渋谷55周年記念メインビジュアルなどを手掛けるなど、様々なシーンで活躍している。

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