UPDATE : 2023.12.28

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#ART & CULTURE

CINEMA FREAK!! Vol.7『PERFECT DAYS』

Text:Mikiko Ichitani

Illustration:Ryutaro Suetsugu

Edit:FREAK MAG.

サブスクが主流になり、外でも家でも大量のコンテンツを消費できる時代だからこそ、何を観たらいいのか分からない!という人も多いのでは?「シネマフリーク!!」では、映画館で上映中の話題作から、ちょっとニッチなミニシアター作品、おうちで観ることのできる配信作品など数多ある映像作品の中からライターの独断と偏見で、いま観てほしい一本を深掘りします。

 

今回は、俳優・役所広司が主演、そして制作総指揮としてドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースとタッグを組んだ『PERFECT DAYS』をピックアップ。東京を舞台に、豊かな人生について考えさせられる珠玉の一本をご紹介します。

『PERFECT DAYS』絶賛公開中 ©︎2023 MASTER MIND Ltd.

タイトル:『PERFECT DAYS』

監督:ヴィム・ヴェンダース

脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬

出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和

配給:ビターズ・エンド

2023年製作/124分/日本

公式HP:perfectdays-movie.jp

<あらすじ>

東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、静かに淡々とした日々を生きていた。同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ日は1日としてなく、男は毎日を新しい日として生きていた。その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。木々がつくる木漏れ日に目を細めた。そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を小さく揺らす。

「渋谷区の公共トイレをモチーフに、ヴィム・ヴェンダースが映画を撮ったらしい」そんな情報を耳にしたのは、昨年末か今年のはじめくらいだったでしょうか。5月に行われた第76回カンヌ国際映画祭で、日本を代表する名優・役所広司が最優秀男優賞を受賞したというニュースが駆け回り、今か今かと待ちわびていた作品がついに公開されました。

『PERFECT DAYS』絶賛公開中 ©︎2023 MASTER MIND Ltd.

夜明けを知らせるように、近所に響く竹ぼうきの音から役所広司演じる清掃員・平山の一日は幕を開ける。顔を洗い、髭を整え、洗面台に置いてあるスプレーボトルを手に取って、小さく芽生えた植木に水をやる……。スムーズで無駄のない一連の動作を観ていると、平山という男がこのモーニングルーティンを何年も何年も繰り返しているということが伝わります。

 

空に一瞥してから外へ出ると、いつもの自販機でいつものカフェオレ(役所広司が長年イメージキャラクターを務める「BOSS」)を買い、一気に飲み干してから、清掃の仕事のためにカスタムされたブルーの軽バンに乗り込んで、いつもの職場である渋谷の公共トイレへと出発します。

『PERFECT DAYS』絶賛公開中 ©︎2023 MASTER MIND Ltd.

劇中では、カセットから流れる60年代や70年代のオールドロックをBGMに、その日の天気や街ゆく人々など、環境の変化にじっと目を凝らして運転をする平山の姿が印象的に映し出されるのですが、私は車を運転する主人公、空中から俯瞰した車の描写にヴィム・ヴェンダースの初期作品である『パリ、テキサス』を思い出しました。

 

無口でミステリアスなキャラクターや、身近な人々への深い愛情を持ちながら、不器用さから孤独な世界を生きる姿に、名優ハリー・ディーン・スタントンが演じた主人公・トラヴィスが重なり、39年の時を経てマルチバースの世界で平山として生きているのではと密かに錯覚してしまうほど。

 

少し日に焼けた肌、深い皺、鋭い眼光。たびたびカメラがフォーカスを当てる運転中の平山の顔は、映画の中では語られないこれまでの人生で積み重ねてきた苦労や悦びが刻まれているかのように尊く、朝陽や夕陽、街灯の光に照らされ、外にいる時よりも開放的に動く表情についつい目を奪われてしまいました。

『PERFECT DAYS』絶賛公開中 ©︎2023 MASTER MIND Ltd.

平山の聴く音楽や読む本は、日常に起こる予想外の出来事やうっすらと積み重なる小さな哀しみから開放し、穏やかな彼の世界へとゆっくりと巻き戻すためのリチュアルとして彩りを与えます。ヴィム・ヴェンダース自身がセレクトしたという往年のプレイリストは、光の美しいシーンにメロディや歌詞が重なり、平山が生きている世界へと私たちを誘っているかのようです。

 

それらのアナログでありながらも、センスが良く洗練された嗜好品の数々は、平山の育ちの良さを浮かび上がらせると同時に、下町のボロアパートで暮らしながら、清掃員として他者のための肉体労働を続ける彼の過去、そしてなぜ現在の暮らしを選び取ったのかという劇中では語られない人生の揺らぎについて想いを馳せるきっかけとして作用していきます。

『PERFECT DAYS』絶賛公開中 ©︎2023 MASTER MIND Ltd.

本作のパンフレットにおいて、役所広司しかりヴィム・ヴェンダースらスタッフが主人公のことを語るときにみな口を揃えて「平山さん」と呼んでいるのが新鮮で印象に残りました。まるで、ともに撮影をしてきた仲間のように架空の人物のことを愛おしそうに語る様子に、敬意や親しみを感じたのです。

 

かくいう私も、作品を観てからは劇中に出てきた公共トイレを見つけるたびに「平山さん」に会えるのではないかと、胸が熱くなっていたりします。美しい清掃工程を劇中で見たおかげで、綺麗に保たれた公共トイレへの安心感が増し、心の中で「平山さん」と勝手に名付けた清掃員の方への感謝の気持ちが強くなりました。

『PERFECT DAYS』絶賛公開中 ©︎2023 MASTER MIND Ltd.

まさに、「THE TOKYO TOILET」プロジェクトの思惑どおりだなと思いながら、平山と同じように空や木漏れ日を見上げ、無意識に微笑む。

 

 

きっかけはミーハーかもしれないけれど、お守りのようにこういった日々の感情や美しい一瞬を心に刻み続けることで、わたし自身の世界が穏やかで豊かなものにできたらと願ってしまう、現実と物語の世界が曖昧に混ざり合う心地よくも不思議な映画体験。ぜひ、みなさんも劇場でこの美しく優しい世界を体感してみてはいかがでしょうか。

『PERFECT DAYS』絶賛公開中 ©︎2023 MASTER MIND Ltd.

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