ギャラリー月極で5月24日から6月9日までの間開催した『TREATMENT Art Exhibition』。この展示は、アートプロジェクト『TREATMENT』によるものだ。本展示では『TREATMENT』が5月23日に開催した音楽イベント『TREATMENT vol.01 with TEAM ROLFES』等で披露された映像作品とアパレルプロダクトを展開。
ここでは、『TREATMENT』がどのようなプロジェクトなのか。どんなイベントを展開し今後はどう活動していくのかについて、中心人物のビジュアルアーティストAsahiNa(過去の記事はこちら)とクリエイティブディレクターIori Yamaki(以下、Iori)に話を聞いた。

プロジェクトの発端となったのは、2023年6月にAsahiNaがニューヨークを訪れ、そこで体感した空気感を日本へ持ち込みたいと思いついたことに始まる。例えば、企業広告などのビジュアルは素晴らしいクオリティであっても、一過性のものとしてすぐに流れていってしまう。特に今の日本においては。若い才能が出てきたときに、そこに企業の注目が集まりすぎて本来の魅力や個性が発揮される前に消費されてしまったりする現状がある。実際に、トレンドに合わせて同じようなビジュアルが街に溢れ返ってくると、過食症気味になるというか。本来は奇抜でカッコよかったはずのものが急にチープに感じることもある。ビジネスとはいえ世知辛さを感じるのは、何もクリエイティブな仕事をしている人間だけではないはず。
だが、国外ではクリエイティブがメインとしてフォーカスされ、そこに価値を見出す文化があるとAsahiNaは体感した。これを日本で実現したいという考えに至ったわけだ。

では、具体的に行動しようと考えたときに、1人でやるにはあまりにも規模感が大きいことに気づく。どうするか思案している日々の中、とある日の不眠遊戯ライオンにて、Ioriにプロジェクトの内容を熱弁し(約2時間ほどかけて!)、話を聞いたIoriとしても「それはやるべきこと」という思いになり、2人が中心となって「TREATMENT」がスタートすることになった。では、具体的に、どう活動し、どんなイベントを展開しているのだろう?
「『TREATMENT』はアートプロジェクトだと考えています。具体的な活動として渋谷の街にあるサイネージや駅の看板広告を使用して、そこに一定期間作品を展示することで、それを年に6回実施したいと考えています。ただ、それを実現するには予算も必要になるし、実際に誰の作品をどう展示するのかについても計画を練らなくてはいけないので、そのキュレーターとしての立場に自分がいると考えています。同時に、ただのプロジェクトに留まらず、人が出入りできるコミュニティとしても機能させたいと考えていて、若い人にとって『TREATMENT』に参加することが目標になればいいなと思っているんですよ。イベントも展開しているのはコミュニティとしての機能を意識しているからです。そこで来場者とのリアルなコミュニケーションの機会を作って、現場でインスピレーションを得たお客さんの中からクリエイターが生まれてもいいですよね。私たちが普通の音楽イベントを展開するのも面白みに欠けるので、ビジュアルアーティストに焦点を当てて音楽アーティストとコラボレーションする形態を取っています。そのイベントだけで終わらせるのももったいなさ過ぎるので、こうして月極で展示も行って追体験できるようにしたんですよ(AsahiNa)」。

広告を掲示する目的で作られた場所で何の告知要素も持たないアートを提示するという行動には業界に対するアンチテーゼも感じられて痛快だし、純粋にカッコいい。ちなみにイベントの方は年に3回やることを目標として活動している。
「イベントでは、出演するアーティストのファッションを全部ゼロからIoriが作ったんですよ。そこについては全面的に信頼していてお任せしたんです(AsahiNa)」。
「『TREATMENT』から発信されるプロジェクトにおいて、ファッション的な部分は私がディレクターとして、いろんなアーティストとアパレルを合わせたりする動きをしています(Iori)」。


アートプロジェクト『TREATMENT』による音楽×アートのイベントは、AsahiNaが言う通り、ビジュアルアーティストにフォーカスが当てられている。こういった展開の背景には何があったのか?
「これもニューヨークでの話なんですが「BOILER ROOM」(ロンドン拠点のオンラインストリーミングプラットフォーム。各国で運営されておりイベントを行なっている)に行ったら全体がビジュアルディレクションされていたんですよ。友人がアニメーションと台本を作ってアーティストに台詞を読ませるというライブセットをやったりもしていて。他のクラブでもビジュアルディレクションがしっかりされている光景に衝撃を受けたんです。ビジュアルを制作する人間がアーティストの1人として認知されているということを身を持って知って、その空気感を体現しようとしたのが『TREATMENT vol.01 with TEAM ROLFES』です。ビジュアルと音楽が一体となったイベントで海外だとクラブシネマと形容されたりしますね(AsahiNa)」。
そのようにして、AsahiNaがオファーしたアーティストが集まったのが5月23日にSHIBUYA WWW Xで開催したイベントだ。ニューヨークから友人であり、大きなインスピレーションを与えられたというTEAM ROLFESを招聘、他にもZECIN、naka renyaとAsahiNa自身がビジュアルアーティストとして参加。音楽アーティストとコラボレーションした。
「これは個人的な話になるんですけど現代美術をやりたいんです。つまり、現代の社会問題を反映させた芸術を現代の技術で体現したくて。今のテクノロジーをアートに昇華させたいという思いはもともと自分の中にあるものでもあるので、今回はそういった表現をしているデジタルアーティストに出てもらったんです(AsahiNa)」。

では、イベントにおいて出演者の衣装をはじめ、『TREATMENT』としてのファッションディレクションを一手に引き受けたIoriさんは、今回のイベントをどう捉えているのだろう?
「『TREATMENT』からもアパレルをリリースしていて、それを展示する表現方法を模索しているんですが、その具体的な提示が1つイベントで形になったと思っています。デザインには水滴の3Dグラフィックを使用してTシャツやタンクトップの全面に転写する形で表現しています。これは、今シーズンの『TREATMENT』のシグネチャー的な意味合いを表現したくて、音楽アーティストにも全員同じ柄のウエアを着てもらいましたね。イベントにいる全員が同じ柄のものを着て何かを行う、その場所が成立するということに、AsahiNaが言うプロジェクトの意味合いを見出したんです。アイテムの値段に関係なく集団で着用することで価値が生まれるアイテムというのがテーマでもありましたね(Iori)」。
デザインに水滴のドットを起用した理由はあるのだろうか?
「『TREATMENT』がカルチャー間を繋ぐ潤滑剤みたいな存在になればいいという話をAsahiNaともしていましたし、その言葉からシャンプーやトリートメントが自然と連想されるじゃないですか。そこからバスルームやランドリーが連想されてきて、こういうデザインになったんです。特に個人的に弾けるようなスプラッシュ感が『TREATMENT』から感じられるんですよ(Iori)」。
「TMTのロゴもそうなんですけど、洗剤のラベルデザインなどをオマージュしているんです。『TREATMENT』での表現はクリーンでポップであることも大切だと思っているんです(AsahiNa)」。

このようなアイテムのデザインからも伝わってくるように、ポップでユーモアがあるのも『TREATMENT』の特徴だ。一連の発信についてAsahiNaは次のように話す。
「『TREATMENT』でやっていることは、言わばクリエイティブなシーンへの革命だと思っていて、カウンターカルチャーになったらいいと思っているんです。だからこそポップでありたいし、ポップであるほどカッコいいんじゃないかなと。何かを面白がる気持ちを大事にしていますね。プロジェクトとして掲げる思想は真面目なものだけど、参加するアーティストやクリエイターが面白がってふざけられる場所であってほしいです(AsahiNa)」。

アートプロジェクト『TREATMENT』がスタートして約二ヶ月。第1回目のイベントを大成功に収め、そこで展開した映像作品を展示という形で発信し、次なるイベントもすでに開催が決まっている。初回のイベントを終え、今後について2人はどう考えているのだろうか?
「半年間の準備期間を経て5月23日のイベントを終えたわけですが、ここからみんなを巻き込んで、もっといい未来が見れるかもしれないと感じました。原点が作れた感覚です(AsahiNa)」。
「みんなで繋いでいくというのは、こういう感じなんだなって思いましたね。AsahiNaのビジョンにもあると思うんですけど、今後もっと大きなものを実現していくには、自分たちだけではできないし、規模を大きくしていくにつれて、大勢が1つの目的に向かって本気でやっていくんだろうなと感じました。そうなると本当にとんでもないものができていくでしょうね。今回のイベントは、その初動になったと思います(Iori)」。
「今後、参加するビジュアルアーティストに合わせた企画にしたり、企画を先に考えてアーティストをアサインしたり、回ごとに内容を練っていきたいと考えているんですよ。もともと私がやりたかったことは問題提起で、芸術は本来そういうものだと思っているんです。そんな問題提起する場をみんなに共有することが今回のイベントでできたんじゃないかなと。これからも、そういう感じでやっていくと思います。何かを決めつけるのではなく、どういうシーンが東京にあったら“クールジャパン”なのか、みたいな。それを将来までのビジョンを見据えて実行していこうと考えています(AsahiNa)」。
広告の業界も含め、ビジュアルのシーンに一石を投じる『TREATMENT』のアクション。その一投がポジティブな波紋を起こしていく。その様に注目していただきたい。
