UPDATE : 2024.09.19

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#BEAUTY & HEALTH

枝優花の「心と体に効くモノ」 vol.7 nina×枝優花「自分の意識を取り戻すことが、安心材料になる」

Interview / text:Yoko Hasada

Photo:Keta Tamamura(TABUN)

Edit:Kei Kawaura、Taiyo Nagashima

自分で自分の気持ちを上げるために、好きなもののなかに身を置いたり、自然の力に癒されたり、美味しいものを食べたり、現実から一度距離を置いてモノ・コトの力に頼る。自分を救う“おまじない”は、お金で買えることもある。そんな「あなたにとって“心と体に効くモノ”は?」――映画監督 / 写真家の枝優花さんがホストになり、やさしい人々を訪ね歩く対談連載。第7回はアニメーション作家、イラストレーターのninaさんです。

「ゾーンがつかめないときって、自分の感覚が鈍っている気がするんです」

─YOASOBIのライブ映像やMV『夜に駆ける』、山下達郎の『さよなら夏の日』など、アニメーション作品をはじめ、ドローイングや立体作品など幅広い表現活動をするninaさん。枝さんとは『少女邂逅』がDVD化した際のトークイベントが初対面だそうですね。

 

:トークショーの後に、お茶したんだよね。そこから、会う頻度は高くないけれど、会うと仕事の悩みを相談しています。仕事の種類は違うけれど、お互いにひとりで机に向かって考える時間が長いから、メンタル的な部分の波長があっていて相談しやすいんです。

 

nina:私も、枝さんとの関係は不思議で、特別で、いろんな相談をできる貴重な存在だなって思います。

:3月に初めて個展を開いて、ドローイングだけじゃなくて大きな立体作品も作っていたよね? 私は机に向かった先に何百人と人がいて、その人たちに委ねる部分も大きいけれど、ninaちゃんの場合はストイックに自分の手で作り続けて、しかも新しい表現にも挑戦していて、すごいなあって思います。

 

nina:逆に私は、人に任せられないんです。人と対峙して、みんなで制作しようとすると自分がぶれちゃう。だから、完全に自分の空間の中だけで答えを見つけて完成させたいんです。

 

:巻き込まれちゃうよね、周りに。私も真ん中の答えだけ持ち続けることを大事にしていて、そこだけぶれないように何度も確認してる。撮影に行く前に、おうちで「この作品ではこれを絶対守る」って何度も反芻して、それ以外の部分は余白を持っておくと、大事なところに集中できてうまく判断できる気がします。

 

nina:枝さんは、その辺りのバランスの取り方が上手なんですね。

 

:でも、ずっとバランスの取り方を練習している気がする。「絶対守る」ってものを持ちすぎて、周囲が自分の手足のような存在になってしまって。そのやり方は、長い撮影で続けていくと苦しくなるから、やっと仲間ができてきたことで、どうにかバランスが取れるようになってきたかな。でも、自分の軸と向き合い続けるのはめちゃくちゃしんどくない? もちろんやりたいことはあるんだけれど、自分の考えなんて変わるものだから。

 

nina:そうなんですよ! だから、考えすぎて自分から何も出てこなくなってしまったときの自己嫌悪はすさまじいですね。

 

:そういうときは、どうしてるの?

 

nina:寝るか、散歩するか、一旦切り替えようと心がけています。ただ、私の場合は試行錯誤をする方なので、展示にたくさん足を運んだり映画を見たり、友だちに会ったり、引きこもって作業し続けるのではなくて動きまくって考えた結果、気分が前向きになって、乗り越えられます。

:私も、机に向かっているときが製作で努力の証、っていうイメージがあったんだけど、「人生のストックがなくなったかもしれない」っていう感覚になったときがあって。そこで、「ヤバい」と感じて人と遊んだり、映画を見る時間を取るようになったりしたら、前向きになれたかな。ninaちゃんはどんな風に考える時間を取っているの?

 

nina:私は、誰かと話しながら考えるのが苦手なので、ひとり集中して考える時間をまとめて取るようにしています。ノートに書き出したり、イラレにシンキングマップを書いて整理したり。そうやって、考えをビジュアル化すると、ゾーンに入れるんです。

 

:ゾーンの感覚は鋭くしておきたい、って思うよね。仕事は苦しいことばっかりだけれど、ある時ゾーンがやってきて、それが中毒で仕事を続ける理由になっている気がする。

 

nina:ゾーンに入れるタイミングってわからないですよね。個展のときも、〆切が近くなってもうまくいかなかったんです。それでも、何枚も描いていたら、ある日3枚目の筆をとった瞬間に何かがわかって、感覚がわかるというより心が踊る線が見えたというか。ゾーンがつかめないときって、自分の感覚が鈍っている気がするんです。

 

:売れるのはどっちだろう、とか思っちゃったり。

 

nina:そうなんですよ……! 意識が散らかっているというか、外に目が向いてて自分の中の答えに目が向いていないから、軸がブレる。感覚的な話ですけど、自分の心のテンションのあげかたをわかっておくことが、すごく大事なんじゃないかって最近思います。

お守りアイテム①ノートとシャープペンシル

─ninaさんにとって、創作の感覚が取り戻される癒やしのアイテムを教えてください。

 

nina:まず、ノートです。大学に入ってからなので、8年前くらいからノートをつけるようになって、今では制作するときに欠かせない存在です。

:(めくりながら)うわあ……これはすごい! 取材を忘れてじっくり読みたくなってしまう(笑)。イラストだったり文章だったりいろいろ書いてあるけど、どんなときに使っているノートなの?

 

nina:アイデアを書き出したり、日記を書いたり、わりと自由に自分の頭のなかにあることを書き留めています。私の場合、文章にひたすら書き出すと制作のゾーンに入れることが多いので、新しくつくりはじめたりアウトプットしたりしたいときは、とりあえずノートを開いて、何か聴きながらバーっと書き出す。そうすると、自分の思考の深いところまで潜っていくことができるんです。

 

:私は逆のタイプ。書いちゃうとそれで満足しちゃって、作品にできない。

 

nina:そしたら、書かないようにしていますか?

 

:ただ、プロットとか脚本は書かなきゃいけないから、完成が見えてくるギリギリまで書かないでおいて、自分のなかでアイデアがパンパンに溜まったらうわーって書き出すようにしてます。

nina:私にとって、文章を書くことがアウトプットする行為と近しいものがあるんですよね。たとえば、依頼されたMVだとテーマが決まっていることが多いので、「友情」ならそれについて思いついたことを書き出すと、付属する感情が浮き彫りになって、自分が作りたいものの根底の部分が決まるんです。

 

:言われるがままにならないためにも、大事なのは根幹。

 

nina:そうですね。さっきも話した通り、やっぱり自分の軸がぶれちゃうのが一番怖いので。

 

:すごくわかる。

 

nina:なので、このノートが手元にあるだけですごく落ち着くというか、感覚を取り戻せる感じがするんです。仕事を始めたてのときは、打ち合わせの1週間前から緊張するくらい対話が苦手だったので、話す前に自分が思っていることを全部書いていました。そうすると気持ちが整理できて、打ち合わせにも落ち着いて望めました。それで、書き出すときの相棒がSMASHのシャープペンシルです。

 

:書き心地って、やっぱり大事なんだね。

 

nina:これは建築の製図などでも使われているシャープペンシルで、大学のときにペンを忘れて売店で急遽購入したものなんですけど、手に負担がかかりにくいように設計されているので、ものすごく軽くて書き心地がいい。これを使うようになってから、ほかのペンを使えなくなってしまいました。

お守りアイテム②ゲーム実況

nina:私、作業中は大体ゲーム実況を聞くんですよ。

 

:へえ! 音楽とかラジオじゃなくてゲーム実況?

 

nina:ラジオだと言葉がしっかりしていて情報が耳に入ってきてしまうから、気が散っちゃうんです。うわーとか、おおおとか、叫んでいるくらいがちょうどよくて(笑)

:いつ頃から聴くようになったの?

 

nina:大学時代からですね。画面を見ずに、音声だけ聴いています。制作をしていると思考の奥深くまで入り込みすぎてしまって、ネガティブな方向にいってしまうので、他人の声がほしいんです。ゲーム実況は、常に友だちが傍で話してくれているような感覚で聞いていますね。

 

:めちゃくちゃわかる。

 

nina:枝さんもそうですか?

 

:私も他人のvlogの生活音をかけるのが好き。作業をしているときに、一人だと混乱してくるというか、違う人物の人生を書いているから、そっちの人生にトリップしてしまう。そうして一日が終わって、ふと気がつくと自分がどこを生きているのかわからなくなるのが怖くて、vlogをかけていると生活音のおかげで現実としっかり結びついていられるんだよね。だから私は、喫茶店で作業をするのも好きです。

 

nina:私も好きです! 自分以外の人間が存在していることに安心して集中できますよね。

 

:どんなゲーム実況を聞いてるの? 私、聞いたことがなくて。

 

nina:集中したい度合いによってゲーム実況の種類を変えているんですけど、流れ作業のときはストーリー性のあるもの、佳境のときは複数人でわちゃわちゃ賑やかな実況を聞いてます。最近よく聞くのは、牛沢さん。ニコニコ動画時代から活躍している有名な方で、声が落ち着いていて聞きやすいのと、グループ実況もされているので、気分でチョイスできるんです。

 

:ゲームはやる?

 

nina:怖くてできないんです。だから、人がやっているのを見るくらいがちょうどよくて。思えば、母がゲーム大好きで、いつもやってたんですよね。ドラクエが発売されたら、ゲームクリアまでゲームに没頭する期間があって、私は母がゲームする様子を後ろで見ている時間が、すごく好きだったんです。

 

:なるほど、小さい頃の状況と同じなんだ。

 

nina:そうなのかもしれないと、今気づきました。安心するのかもしれないです。

お守りアイテム③宮崎夏次系さんの漫画

nina:宮崎夏次系さんの漫画はめちゃくちゃ大好きで、とくに『僕は問題ありません』は何度も読み返しています。いまは電子書籍で読んでいるんですが、実は教えてくれたのは枝さんなんです。

:『少女邂逅』のトークショーの帰り道だよね。お互いにおすすめの漫画を教え合って、私もninaちゃんに教えてもらった『春風のエトランゼ』(祥伝社)は大好きになった。

 

nina:うれしいです。

 

:『僕は問題ありません』をいろんな人に勧めて、貸しているんだけど一度も戻ってきたことがない(笑)。それくらいいい本なんだけど、読んで欲しいと思う人の共通点としては、「不器用」。努力家で、うまくいっているように見えるんだけど、喋ってみると一人でぐるぐるしてて生きづらさにレイヤーがかかっているような人をみると、この漫画を読んでもらいたくなる。

 

─本作は宮崎夏次系さんの短編集。心配性のおじいさんに家に閉じ込められる少女、夜な夜な人形に話しかけて心を癒やすお父さん、麻薬で逮捕された家庭教師に恋する女子高生など、何かしら「淋しさ」を抱える登場人物たちの小さなドラマです。

 

nina:私は人形を集めているお父さんの話が好きなんですが、まさに『僕は問題ありません』っていうタイトルを象徴している話だと思っていて。家族には隠しているんですよね、人形のことを。でも、ある日見つかってしまって、全部捨てられてしまう。そこからの展開にギュッと心をつかまれて、うまく説明できないんだけれど涙が止まらなくなります。

 

:私も、この本は人におすすめされたんですよ。宮崎さんの作品は漫画だけど映像的で、音とか吹き出しのタイミングとか、意味のあるセリフじゃなかったとしても、リアルなやり取りが想像できる絶妙な間のとり方で、すごくうまい。聞こえてきそうな感じがするんですうよね。物語は論理的に説明できないけれど「わかる」っていう感覚がつまってて、たとえば大事なやり取りのときに、周囲からうるさい音が聞こえてくるとか。そういうのって、人生では結構あるじゃないですか。

 

nina:急に工事がはじまったりしますよね。

 

:そうそう。そういう可笑しさと淋しさのバランスがいいなって思います。

 

nina:読み切りの短編が好きで、いろいろ集めているんですが、息詰まったときや悩んだときに、一番開く回数が多い漫画です。なんか、自分の感覚がよくわからなくなったときに、ノートと同じですけど、とりあえず宮崎夏次系先生の漫画を読みながら帰り道を探すような。そうやって、自分の感情を取り戻している気がします。

自分の意識を取り戻すことが、安心材料になる

─「軸がぶれちゃうのが一番怖い」とおっしゃっていましたが、ものづくりにおいて自分の感覚が鈍らないように、安心できるものが“癒やし”になるんですね。

 

nina:小学生のころは、たとえばメニューひとつ選ぶのも、「これを選んだらこう思われそう」っていうことを考えすぎてしまって、結局何も選べず黙り込んでしまっていたんです。他人の意識が自分の意識に入り込んでくるのが怖いというか、ちょっと気を緩めると飲み込まれてしまいそうになるので、必死に自分を守っていて。だから、自分の意識を取り戻すことが、安心材料になるんだと思います。

 

:めちゃくちゃわかる。私も他人の意識を自分の意識にすり替えちゃって、勝手に海を作り出して、「辛い!」って言いながら溺れちゃう。でも最近は、安心して一緒に仕事をできる組がさだまって、自分を自分として認識してくれる人が増えてきたから、他人の意識と自分の意識のズレがなくなってきた。そのおかげで、ストレスが少しずつ減ってきた気がする。

 

nina:監督っていう仕事を想像すると、その場で決断していくなんて私には絶対無理だなって思っちゃいます。

 

:私も持ち帰ってじっくり考えたいタイプだから、即決できないときは「今はわかりません」って正直に言う。じゃないと、後から後悔するってわかっているから。

 

─おふたりとも、ひとりで考える時間が、大事なんですね。

 

nina:孤独が力になる部分は大きいですよね。私の持論ですけど、一人暮らしで感じる孤独と、外に出たときにたくさん人がいる中で感じる孤独って種類がぜんぜん違うと思っていて。実家に住んでいたころ、夜中家族全員寝静まって、私は一人部屋で精神世界に籠もって作業している時間がいちばん孤独だったと思うんです。

 

:人が居るからこそ孤独を感じられるってことだよね。

 

nina:だから、1人で家にいるとその感覚はなくて、外に出て人の生活を感じながら自分の世界に潜っていると、対比的な構造になって、めちゃくちゃ目の前のノートや作業に集中できます。

PROFILE

  • 枝 優花

    1994年生まれ。群馬県出身。

    23歳にして制作した初の長編映画『少女邂逅』はインディーズ映画ながら異例のロングランヒット。また写真家として、様々なアーティスト写真や広告写真を担当している。マイブームは、スキンケア研究。

  • nina

    アニメーション表現を軸に、音楽業界、ファッション、装丁など様々なフィールドで作品を手がけるアーティスト。独自の色彩感覚とタッチで世界観を作り上げ、注目を集めている。マイブームは、カフェラテ。去年から飲めるようになった。

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