自分で自分の気持ちを上げるために、好きなもののなかに身を置いたり、自然の力に癒されたり、美味しいものを食べたり、現実から一度距離を置いてモノ・コトの力に頼る。自分を救う“おまじない”は、お金で買えることもある。そんな「あなたにとって“心と体に効くモノ”は?」――映画監督 / 写真家の枝優花さんがホストになり、やさしい人々を訪ね歩く対談連載。最終回は、連載に携わってきたメンバー5人それぞれの、心と体に効くモノについて。後編です。
ライター・羽佐田のお守りアイテム:インナーチャイルドカード
羽佐田:もう、こういうアイテムの話も通じる間柄になりました。

枝:タロットカードですか?
羽佐田:そう、タロットカードの一種の、インナーチャイルドカードです。わりと日常的にタロットカードを引くんですけど、うまくいかなかったり、後悔したり、それこそ社会性を帯び過ぎてしまったり、自分の軸をもう一度取り戻したいと思うときによく引いているカードです。2回目の塩塚モエカさんのときに、インチャ(インナーチャイルド)の話をしたじゃないですか?
枝:しました、しました。
羽佐田:このカードは、私が尊敬している女性の先輩から誕生日プレゼントにいただいたもので、その方も旅行先とかふだんからタロットカードを引いていると聞いて、すごく身近なんだなと思ったんです。インチャ、つまり自分の中に眠る潜在的な願いや魂の真実について考えるカードなんですけど、やりませんか?
枝:イエーイ!
川浦:やったあ、やりましょうやりましょう。
羽佐田:じゃあ、「ウィッシング・ウェル」というみんなでやるやり方で、喋りながらカードを混ぜて、円形をつくりましょう。そこから、好きなカードを一枚引いてください。
枝:うわあ、楽しい。
玉村:この連載の最終回に、ぴったりだね。

羽佐田:では、みなさん1枚ずつ引いたので、見ていきたいと思います。
全員:せーの(めくる)
長嶋:なんか、すげえかわいいのが出たんだけど。
枝:絵がきれいですね。
羽佐田:インナーチャイルドカードは、タロットカードとおとぎ話を結びつけているもので、おとぎ話を元にしたカードもあるんです。じゃあ枝さんから……うわあ、これは暗いカード。
枝:暗い!
羽佐田:洞窟あるいは迷路の中をずっと歩いている。まだ見たことのない、何かを探して歩き続けているらしいです。
枝:たしかに、私っていつもカオスで、何かを見つけたと思ったらすぐに迷路に入っていきますね。私は、これを望んでいるってこと?
羽佐田:本当の自分は心の洞窟に住んでいて、絶えず考えて再創造する。しんどい状況かもしれないけれど、洞窟は心の住まいなんですって。この住まいをきれいにするチャンスが来ているって書いてあります。
玉村:それって、ひとつ目の記事で話してたことと一緒じゃない? 自分自身はきっと宇宙人的で、難しいところに放たれたのは、この場所を良くするためだって。
枝:そもそも魂の気質として、どんどんディグっていく癖があるんですって。どうして、どうして、を続けるから、人が考えていることの何倍も深いところまで掘って、答えを見つけたくなっちゃう。それが苦しくて、もっと適当になりたいんですけど、そういう人だから諦めなさいって言われたことがあるんです。だから、びっくりした。

長嶋:同じこと言われてるじゃん。
羽佐田:慧ちゃんのカードは、「オズの魔法使い」に出てくるライオン。勇気を得るために冒険に出て、本来もっている堂々とした自分が表れるように、もともとは輝くばかりの魂を持っているから、自分の痛みや不安にもう一度目を向けて、克服して、その魅力を外に放出してくださいって。
川浦:なるほど……解釈がすごい広いけど、自分の持ってるもの……。
羽佐田:玉村くんは金の卵を産んだ「マザーグース」!
玉村:金の卵。
枝:っぽい!(笑)
羽佐田:太陽の神を産んだ卵とも言われていて、エネルギーをもった光を放つ存在。世界や自然とつながることが大事で、花や木や動物との触れ合いをよろこびに変えていってくださいだって。
玉村:ほんとにそう。世界と一緒になるって感覚を強めていこうと思っていたところだから、うれしいな。
羽佐田:あの、大丈夫だよ。占いじゃなくてゲームみたいなものだから、合ってなくても正直に(笑)。
玉村:いやいや、ほんとそう。
川浦:私から見ても、そうなんだろうなってわかります。
羽佐田:太陽くんは「不思議の国のアリス」。
長嶋:ちょっと不安なんだけど。
羽佐田:これは……人生のすべては夢であり、大冒険。遊戯の世界を愛し、想像力を掻き立てることを楽しむ人。だからこそ、夢やビジョンへの探求を続けましょう、と。
長嶋:うわあ……くらうなあ(笑)。
枝:私が太陽さんと仲良くなったのは、そういうふわふわしているところがあるからだから、やっぱりそうなんですね。
長嶋:最近は現実ばっかりで「俺、ユーモアなくね?!」とか、超思ってた。
川浦:めちゃくちゃわかる、私もそうだよ。年齢とか立場もあると思うけど。
長嶋:でも、本来の自分としてね。そこは大切にしたいです。
羽佐田:私のカードは、知的好奇心を豊かにすることを求めるカードで、たびたびこのカードを引くんです。自分の知性に自信を持つこと、そして物語を読み続けなさい、と。
川浦:どういうときに引くんですか?
羽佐田:私は気が向いたとき、あとは大事なことがあったり、精神的に弱ってしまっていたり、心に動きがあるときにやるかもしれないです。
枝:タロットカードっておもしろいですよね。私もやることがあるんですけど、たとえばAかBどちらを選ぶか迷っているときに引いて「Aがいいですね」って言われると、潜在的に自分はどっちがいいと思っているか気づくんです。「やっぱりそうですよね」ってなったり、「ほんとにそうかな?」と思ったり。このカードも、潜在的な魂の気づきがあって、おもしろかったです。

羽佐田:だいぶ端的に話してしまったので、あとでページを読んでくださいね。
枝優花のお守りアイテム:スピルバーグ作品
枝:私がスピルバーグ作品で初めて映画館で観たのが「A.I.」(2001)なんです。そこで、衝撃を受けて。
長嶋:衝撃。
枝:そのあと『スター・ウォーズ』を観に行ったんですけど難しくてわからなくて、でも『A.I.』は主人公の男の子が自分と同い年だったっていうのもあると思うんですけど、若干トラウマになるほど衝撃を受けたんです。
で、その何年後かに『E.T.』を観て、この2作品がずっと大好きです。なんですかね……ものづくりをしていると、誰かに頼まれたことばっかりやっていると心が死んでいくんですけど、そうなったときに立ち返るためにこれを観ています。

羽佐田:リセットするというか、心を取り戻すというか。
枝:そうです、そうです。なんでこんなに私はスピルバーグ作品が好きなんだろうって思ってたときに、彼が『フェイブルマンズ』(2022)っていう映画を発表したんです。まさに、映画に夢中になった自分の半生を描いてるんですけど、それを観て納得がいったんですよね。
スピルバーグはユダヤ系アメリカ人で、身体が小さくて、そのために差別を味わった。さらに、母親が父親の友人と浮気をして、離婚してしまう。そこから人生が崩壊していって、友だちもおらず家族もぐちゃぐちゃな中で、唯一の友だちが8ミリカメラだったんです。それで映像を撮ることで、救われていく。高校でも居場所がなかったんだけど、ダンスパーティーかなにかを撮って編集したものを学校で流したら、みんなが「わあっ」となってくれて、初めて社会とつながる感覚を味わったらしいです。
玉村:そうだったんだ。
枝:スピルバーグが撮ってるものって基本的に同じで、家族のことと、孤独だった小さな男の子が正体不明なものと友だちになって、世界を切り拓いていく話が多いんです。だから、自分の人生を焼き増しして、ずっと撮ってんだと思って。
私も結構似ていて、同じように友だちが少なくて、家族関係もぐちゃぐちゃではないけれどうまくいってないと思うことがあって、孤独を感じたときにスピルバーグを観て、心がぐわってつかまれたんです。私も、映画をやっているのは社会とつながるため。小さな頃、お友だちとうまく仲良くなっていたら映画なんて惹かれてないと思うんですけど、人間同士でつながることができなかった。大人になって、映画を作ることで人間や社会とつながれるんだってことを知って、そういう根底が同じだから、私はこの方の映画が好きなんだなって思いました。

玉村:社会とつながれるよろこびって大きいですよね。
枝:大きいですよね。今日、こうやってみんなで話してて、ちょっと似てるよねって思ったんです。どこか自分が社会とつながれていない感覚があるけれど、この仕事をやっているとつながれる、みたいなことがあるんだって。
玉村:アシスタントの(坂口)愛弥と、いろんな話するの。アシスタントだったらさ、失敗するでしょ。間違えることもあるじゃん。たとえば現場に忘れ物したら、それはダメ。なんでかっていうと…っていう話からさ、自分が社会とつながっていくんだっていうことの覚悟とよろこびがあったほうがいいよねって話になるんだよね。
枝:ああ、覚悟とよろこび。
玉村:自然にたどり着くところだと思うけど、それは意識したほうがいいと思って。自分の作品って、わかってほしいけどわかってほしくないし、わかってねえなお前って思うこともあるじゃん。
枝:あります。
玉村:でも生業にしてるからには、社会と共有したり一部になったりしてほしいっていう願望が、リアルに想像できないと仕事もつまんないですよね。それは、みんなの話にも共通してたし、スピルバーグが8ミリカメラと出会って、これで社会とつながれるって救われた気持ちやよろこびは、すごいわかるなって思いました。
長嶋:みんなは、孤独の記憶はあるんですか? 私はあります。
羽佐田:私もありますね。
川浦:あるある。
玉村:洞窟の方も?
枝:洞窟の方(笑)。いや、あるんですけど、そういう過去の自分が救われたいって思いでものを作っているんですけど、どっかで誰かを救いたいっていう気持ちもあるんですよ。
誰かを救うことで、自分が救われたいだけなんですけど、この業界にいると社会とつながることを諦めちゃいそうになってる子と出会うことがとても多いんです。
羽佐田:せっかく夢を持ってはじめたけど開き直って諦めちゃいそうな人、枝さんは引き寄せそう。
枝:引き寄せますね。心折れそうなときに私の現場に入る人って多くて、ひたすらに私が手を差し伸べ続けるんです。「お前、この手も握らなかったら終わりだぞ」っていうくらい。「なんなんですか」って言われるけど、私もわからないし頭がオカシイなって思いながら、どうしても見捨てられなくて、それを一生やってるんですよ。それで傷つくんです。
孤独に触れるって、すごく傷つけられる。けど、それで死なないっていう感覚があるので、むしろ見捨てたほうが傷は深いと思いました。「あのとき、手放さなきゃよかった」ってひどく落ち込む。だから、しつこいくらいに手を伸ばし続けてます。社会とつながることを諦めた瞬間に終わっちゃうんで、すべてが。だから、私みたいなしつこい奴と出会えたのは本当にラッキーだし、諦めんなよっていう人が、何十人も。

長嶋:なんか枝さんってさ、漫画に出てくる都合のいいヒーローみたいな、いや言葉が悪いんだけど(笑)、お話を引っ張っていく存在っているじゃん。こいつが出てきたら何かが勝手に始まっていく、みたいな。それを現実世界でやってるから、ほんとにすごいよね。
玉村:たとえば、この業界で生きていくことが幸せではないように見える人もいるわけじゃん。そういうのが枝さんはわかるときがあるでしょ。
枝:ありますね。
玉村:そういうときって教えてあげるの?
枝:気づかせる言葉だけ投げます。本当は自分で気づいているだろうけど、抗って苦しくなっている人もいるので。私が言ったから選ぶっていうのは違うと思ってて、自分で気づいて選ばないといけないから。なんで、こんなめんどくさい仕事をやりたがってんだろうね、やりたくないならやめればいいし、それでもやりたいなら向いてるしって。変に励ましたりもしないです。
長嶋:めっちゃいいね。
枝:結局は救うことで、自分が救われたいんだと思います。エゴだと思っているからやれてるというか。誰かのために、なんて思ってたら私は耐えられないです。
長嶋:背負っているものはたくさんあると思うけど、誰かの人生のキーマンになっていると思う。本人は、洞窟の中だけど(笑)。
