「FREAK MAG.」が注目するダンサーのルーツと生き様に迫る連載「DANCE FREAK」。第二回に登場するのは、ちゃんみなやHANAの振付・ライブ演出を手がける振付師、GENTA YAMAGUCHIだ。
オーディション番組『No No Girls』ではダンス経験の浅い少女たちを輝かせ、長年憧れ続けた椎名林檎が手がける楽曲のダンスまでをも手がける。今やトップアーティストから指名され続けている彼だが、その作品の源にあるものは、時代とともに大きく姿を変えてきたという。20代の頃、その燃料は「怒り」や「嫉妬」だったと彼は振り返る。「もっと認められたい」という渇きが、当時のものづくりを支えていた。
その彼が、いまはこう話す。「何よりも、気持ちのいい人間でありたい」と。自らが輝く “ダンサー” から、人を輝かせる “振付師” へ。「認められたい」自分を手放した先で、彼は “裏側” にこそ自分の喜びがあることに気づいていった。これは、一人の作り手が、そのベクトルを自分から他者へと、ゆっくり反転させていった物語である。
“人を輝かせること” に惹かれ続けた、彼なりのルーツ
──まず、ダンスを始めたルーツについて教えてください。
GENTA YAMAGUCHI(以下、GENTA):ダンスを始めたのは、15歳の時です。通っていた高校に、かなり本格的なダンス部があって。なんとなく「何かいいものが得られるかも」と思ったのと、あとは正直に言うと、「モテそうだな」って(笑)。それまで経験はまったくなくて、学校でソーラン節を踊ったくらいでしたね。
──とっても意外ですね。ただ、それ以前から音楽はずっとお好きだったとか。
GENTA:物心ついた時からJ-POPが大好きでしたね。夜中にふと起きちゃうような、ちょっと変な子だったんですけど、そういう時にCDTV(カウントダウンTV)のような深夜の音楽番組を観たりして。いわゆる “小室ファミリー” や浜崎あゆみさんなんかが、ど真ん中の世代です。同世代がスマブラや遊戯王などに夢中になっている中で、私だけライブのDVDやVHSばっかり観ていて。最初は衣装デザイナーになりたかったし、中学の頃は雑誌の影響で美容師にも憧れましたね。
いまこうして振り返ってみれば、「人を輝かせる」ということに、そもそも興味があったのかもしれません。それは現在の職業である振付師(コレオグラファー)にも通じる部分ですし。
ネガティブネスを燃料にしていた20代、「認められたい」を手放すまで
──20代後半は、アルバイトと並行して活動していたと伺いました。けっこう苦しい時期だったのではないでしょうか。
GENTA:そうですね。時間もお金もなくて、ダンスよりもバイトの方が稼げる時期すらあって。「だったらダンスなんてやめて、普通に働いた方が安定するんじゃないか」と、本末転倒なことを考えていた時期もありました。上京したての頃の仲間に、いま乃木坂46を振付しているSeishiroや、元東京ゲゲゲイのMARIEちゃんがいるんですけど。彼らとは今も現場ですれ違うことがあって、その瞬間がすごく嬉しいんですよ。それはきっと、苦労を共にした感覚があるからかもしれません。
──周りの活躍を見て、焦りや嫉妬を感じることも?
GENTA:ありました。20代の頃はもっとネガティブで、人を羨んだり、妬み嫉みみたいな感情がすごく強かったんです。当時、ものづくりの元になっていたのも、結局「もっと認められたい」「なんで分かってくれないんだ」っていう、世の中への不満や怒りで。それをぶつけるように作っていたんですよね。それで出来上がって、良かった作品もあるんですけど、今見返すと、ちょっと見てられないようなものもあって……(笑)。「この頃、いろいろこじらせてたんだなあ」って透けて見えるんです。
──そこから、どこかで変わったんですね。
GENTA:30代に入ってから、性格がガラッと変わったんです。明確なきっかけがあったわけではないんですけど、人と比較しなくなりましたね。「認められたい」がベースにあるうちは、どうしても周りと比べてしまうし、気分も陰湿になってしまう。そんな気持ちがすっと抜けて、今はクライアントのオーダーに応えつつ、自分のやりたいことも混ぜて、もっと気楽に作れています。あの沼を知っているからこそ、そういった人の気持ちは分かるけれど、あの頃に戻りたいとは全然思わないですね。今の自分の方がずっと好きです。
自分が踊るより、人を輝かせたい。演者がくれる”ギフト”の正体
──現在は、ダンサーとして自分が踊るより、人に踊ってもらう側に重心があるんですよね。その楽しさは、自分で踊る楽しさとは別物ですか?
GENTA:まったく違います。自分が踊る時は、得意な動き、やりたい動きだけで完結できる楽しさがある。でも人に渡すと、ダンサーによって体の使い方も表現も全然違うから、同じ振付なのに、いい意味でまったく別物になっていくんです。「自分が作ったのに、人がやるとこんなふうに見えるんだ」っていう驚きが、すごく楽しいですね。
──だからこそ、作る時も “一人の動き” としては考えない、と。
GENTA:そうですね。手の振りや、首や髪を大きく使う大振りが自分の特徴だとは思うんですけど、考える時はいつも全体図から入るんです。グループなら「何人いる」という制約の中で、まず全体で何をやったら面白いか。ソロでも、後ろにダンサーがいれば、その”抜け”に見える動きは何か、セットにどう人を配置するか。事前にその人が他で踊っている動画を観て、「この動きが得意そう」とか「これは多分やったことないから、あえてやってみてもらおう」とか。ファンの人だって、見たことのある動きじゃ嬉しくないかもしれないから、“新しく見えるように” ということは常に考えています。
──「人が輝いた瞬間に立ち会えた」という、印象的な場面はありますか?
GENTA:2年前に『No No Girls』というオーディション番組で、振付トレーナーとして参加したんです。担当したのが、まだダンス経験の浅い子たちのグループで。技術的にはみんな発展途上だった。でも本番、彼女たちの感情が振りに乗った瞬間、自分が作ったはずの振付が、まったく違うものに見えたんですよ。きっと、そこに彼女たちの気持ちが乗っかっているからなんですよね。振付を提供したはずなのに、逆にギフトをもらったような感覚で。あれは本当に嬉しかったですね。自分一人で踊っていたら、絶対に味わえない喜びだなと思います。
「0を1」より「1を味付け」。育てることよりも惹かれる、自分の役割
──人を育てたり、教えたりするような仕事には興味はありますか?
GENTA:それが、正直言って、まったくないんです(笑)。実は私、学生の頃、体育の授業が大っ嫌いだったんですよ。こんなにも身体を使う仕事をしているのに、運動にはまったく興味がなかった。だから、ダンスに苦手意識を持つ子の気持ちも分かるんです。一時はスクールでの授業を5つくらい持っていて、それで暮らしていたくらいやり切った上で言うんですが、0の人を1にする作業には、あんまり興味が持てないんですよね……。
──なるほど。「1を味付けする」方に興味がある、という。
GENTA:まさに。すでに「1」を持つ人を、どう味付けして輝かせるか。そこにしか、今は興味がない。さっきの『No No Girls』の話もそうですけど、自分の役割って、誰かの中にあるものを引き出して、別の見え方にしてあげることなんだと思うんです。0から人を立ち上げることよりも、その人がその人らしく光る瞬間を作る方が、私にとってはずっと面白いんですよね。
技術より、人として。「気持ちのいい人間”でありたい」という想い
──第一線で活躍する中で、いま尊敬しているダンサーはいますか?
GENTA:LAを拠点にしているAMI TAKASHIMAさんですね。リアーナのハーフタイムショーやレディー・ガガのツアーで踊っている人で、振付師としても「人間の肉体って、ここまでいけるのか」という表現をする。正直、自分には絶対にできないものです。でも、一番すごいと思うのは “人として優しいところ” ですね。
ある仕事をお願いした時、時差のある中でも、こちらが送った動画にちゃんとフィードバックをくれるんです。納品したら終わり、じゃない。その後もちゃんと見守ってくれる。それができる人って、実はそんなにいないんですよ。人としても、ダンサーとしても、振付師としても、本当に尊敬しています。
──「こうありたい」という像が、技術だけでなく、「人として」のところにあるんですね。
GENTA:そこが一番強いかもしれないです。私自身が作りたいものはその時々で変わるので、「こういう振付師でいたい」という確固たる志は、正直あんまりなくて。それよりも、気持ちのいい人間でありたい。人として、です。
振付の現場も、ライブ演出の現場も、結局は “人対人” の仕事なので。自分の態度は、絶対に作品に出ると思っているから。最終的には、私が関わった作品を観た人が「これを観るために、今日も頑張ろう」って思ってくれたら最高だなぁと思うし、そういう存在へのお力添えができたらいいなと思っています。
──最後に、あの頃苦しんでいた頃の自分に何か声をかけるとしたら、どんな言葉を投げかけるでしょうか
GENTA:「その沼も、ちゃんと楽しんどけよ」って言うかな(笑)。あの頃抱いた嫉妬も、苦しかった遠回りも、そういうものたちが全部あってこそ、今がある。だから、まあ、悪くなかったよって。そう伝えられたらいいかもしれませんね。
PROFILE
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GENTA YAMAGUCHI
1992年9月26日生まれ
岡山県出身/ダンサー・振付師として東京を拠点に活動。ユニークでキャッチーな手元を特徴としつつ、様々なジャンルをフュージョンさせた独自の世界観を展開している。
ちゃんみな、HANA, TAEMIN(SHINee)、米津玄師、アイナ・ジ・エンドなど様々なアーティストの振付やバックダンサーを担当し、2021年以降はちゃんみな、HANAのライブ演出も手がけている。





